魔王暗殺 1
「魔王様。は、はい・・・あーん。」
『あーん』というのは一般的に大きく口を開けている状態のことや、もしくは相手に口を開けるよう促すことを指す。
いつも通りの、なんら変わらない魔王城での夕食。
今日もたくさんの魔族+2(人間)と長い机を囲んで食事を楽しんでいる。
今日の夕食の目玉は、何と言ってもダイナミック焼き鳥。
巨大な肉団子を串に刺して焼いたもの。とても大きく味もおいしく、何と言っても卵黄がぴったり合う。
僕はこの食堂で、嬉し恥ずかしの『あーん』を身をもって体験することになるなんて、ずっと昔の僕は想像できただろうか。いやできないであろう。
毎日が嫌で引きこもって本ばかり読んでいて、食事がどんどん嫌いになって・・・。
そんな僕が、なぜ『あーん』というちょっと恋人感覚・・・というかむしろこれはほぼ恋人になっているのか。
事の発端は、人間大陸から連れてきた王女のマリーさん。
生まれてから今まで城の外に出たことがないお嬢様。
王女様で箱入り娘のように育てられたために、今現在まで知らないことだらけの世間知らずの王女様である。
父である王様がおかしくなってしまったのは自分にも非があると言って、自ら魔王城へ来ることを願った。
こちらとしては、マシロの鍵とも言われている平和の象徴が手に入ればいいのであるからここまで連れてくる必要はなかった。
正直なことを言うと、連れてきた時からどこか頭のねじを2.3本置いてきたかのようにおかしい気がしていた。
コレットさんや、王の付き人の二人とドリーとマヤに別れをして魔王城に転移した。
当初の予定とは変わり王女であるマリーさんを半誘拐のようにつれてきた。
付き人の二人も、マリーさんは城から出たことがないということもあって経験させてほしいということだった。
アリスの転移で謁見の間に帰ってきてすぐに
「疲れた。」
と言ってアリスは自室に帰ってしまった。
王都では夜中だったが、こちらは全くの逆でちょうど昼間だった。
マシロとマリーさんと僕の三人。
異世界からの自称大魔王こと人間、人間大陸の王女、それに普通の魔王。僕が一番まともに見えるから不思議である。
「まずはマリちゃんを城の中案内しよう。」
「私、人様のお城はいるの初めてなので緊張します。」
「とりあえず、ヒツジ探しながらですね。」
今回は、下手に小細工はできない。
マシロは今も魔女ということになっているが、マリーさんも同様に魔女にするには少し無理がある。
というのも、王女ということで魔族の中でも顔をしてっている者もいるだろうし、人間大陸でも王女がいなくなったということで騒がれるはずだろうから隠していてもすぐにバレテしまう。
だから今回は、王女として来てもらった。理由も今回は考えてある。
父である前魔王が倒されたときに、勇者が持ち帰ったとされる『平和の象徴』。
これは、代々魔王に伝わる宝具とされていて魔王の血をひくものしか扱うことができない。
『関係ないものが禁忌を犯して使おうとすれば焼け死ぬと言われる。
そして、勇者が行方不明のために王に探させて王女と交換するということ。』
ということにした。
下手に王女に手を出せば人間ともう一度戦争になる。
戦いの準備も整えていないのに人間と大戦を起こすこともできないために王女には手を出せないであろう、ということである。
謁見の間から出ようとしたらちょうどヒツジが来て、紹介がてら今回の説明をした。
彼も同意してくれ、問題なくマリーさんも魔王城にで住めることになった。
はずなのに、ある一言が爆弾になった。
「・・・では、私が婚約者ということになれば人間に恨みを持った魔族の方もそう簡単には襲えないのではないですか?」




