事件の始まり 4
その後は、しばらくは寝食を共にしてほとぼりが冷めるのを待った。
大戦が終わる間際に、西の魔女が彼女に魔法を教えるということで引き取りにきた。彼女は晴れて一人前の魔女になるために弟子になれた。
三年前に西の魔女が亡くなった際に、魔王城に戻ってきた。
10年ほど西の魔女のところで勉強したおかげで、彼女は魔族でも優秀な魔法使いになった。
そして一昨年にはスピード出世で魔法長になった。その実力は、兵達もなっとくするほどの強さで魔法演習で他を圧倒したほどだ。
そんな彼女が、弱弱しくなるのは昔の自分が誘拐されたこともあるのだろう。マシロが誘拐されたと聞いて思い出してしまったのだと思う。トラウマはどうしてもあるようだ。
「エル・・・、そういえばね、昔言えなかったんだけど・・・あ・・・あ、あり」
「フフフッ。アリスちゃんそんなところ座ってかわいいでしゅねー。」
「マシロ起きたんだね。ゴフッ!」
「きゃぁあああ!」
ガコンッ
マシロの声に驚き、悲鳴とともに勢いよく立ちあがった彼女。
彼女は身体が小さいため僕の膝に座るとちょうど僕の顎の位置が彼女の頭の位置になる。僕の顎を彼女の頭がクリーンヒットした。
これなら魔王をも倒した勇者でも裸足で逃げ出す会心の一撃だ。
「むふふー。アリスちゃん、恥ずかしがらなくていいんですよ。
ほらもっと続けて、私に気にせずさあ!あ、それとも私の膝の上に座るー?」
「マシロの膝の上なんか絶対に座らないッ!」
「マシロ、体調はどうですか?よく眠れました?」
「うん、ありがと。アリスちゃんが座ってくれたらもっと元気になると思う。」
「じゃあ、そのままで結構ですね。」
「フフッ。ありがとうアリスちゃん。そんな照れ隠しにツンツンしても隠れきれてないぞー。」
「うぅーっ・・・うるさいッ!」
ベットに腰かけるマシロ。僕の椅子をアリスに譲り、僕はマシロの座るベットに少し間を開けて腰を掛ける。
僕は、マシロの身に起こったこと、そして昔アリスの身に起こったことを二人に伝えた。マシロもアリスも終始黙って聞いていた。
僕の話が終わってもマシロは天井を、アリスは下を向いたまま口も開かず動こうともしない。
「とりあえず、こんなことがあったわけだから一応警戒だけはしておきましょう。」
「・・・たぶん、いや確証があるわけじゃないんだけどさ、マシロも私も殺そうとして誘拐しているわけではないかもしれないね・・・。」
アリスが下を向いたまま口を開いた。
「それは僕も考えた。
二人とも起きた時には、すでに犯人らしき者は近くにいなかったみたいだから。本当に殺すのが目的なら、逃げられるほど寝かせてあるうちに殺したほうが、こうやって生きて帰ってくることもないだろうし。」
「なんかそれだと、私たちが生きて帰ってきちゃったのがマズイみたい。」
「いやいや、そういうわけではないですよ。」
「冗談。大丈夫わかってるって。そんなの客観的にわかるよ。生きてて、もし犯人のこと覚えてたら不利になるのは犯人なのにっていうことくらいわかるよ。
たださ一つ疑問があってさ、私が会ったアンデットモンスターは間違いなく魔族に連れて行かれたって言ってたの。」
「たしかに、さっき言ってましたね。ヒツジと昔あったことがあると。」
「そう。アドルフさんじゃないって言うのは確かなのよ。
でも、これって本当に魔族の仕業なのかなって・・・。」
「・・・。」
「・・・マシロ、それってどういうことなの?」
彼女の発言に僕は理解できず、言葉を失った。
それに引き替え、アリスは果敢に聞き出そうとする。
「まず私の話からすると、自我を失ったアンデットモンスターが仕組まれている気がしてならないの。」
「アンデットモンスターも敵のグルってこと?」
「ううん、そうじゃなくて人間に恨みがあって私を殺そうとしたなら、アンデットモンスターに処分させるよりも自分でした方が確実なのはさっきも言ったでしょ。アドルフさんの話を抜きにして、『アンデットモンスターが捕まる直前に魔族の姿を見た』という犯人の情報だけ考えると・・・。」
「犯人は見られたのを知っててアンデットモンスターにさせて、マシロに犯人の特定をさせるため・・・?」
「そうともとれるの。あとアリスちゃんの方もあるの。『入口から誰か入ってきた気がした』それと、ピエロの言ってた『窓は鍵もしてあったのに扉が少し開いていた』が・・・ね。」
「でも、それだと内部犯の疑いがありますよね。」
「そう。でも内部犯の仕業だと、目撃されたときに非常に厄介になるはずなの。アリスちゃんの部屋の扉を開けてるところ見られたり、帰ってきたときとかね。私なんか結構遠くの洞窟でしょ?アリスは動物の多い森。時間もかかりそうなのに、あえてそこを選ぶということは内部犯の可能性が低いんじゃないかなって。」
「わざわざ見付かるようにして、魔族に犯行を押し付けようとしているってことか・・・。」
「まあ、あくまで仮説の話よ。私は探偵じゃないから証拠つなげてとか苦手だし。
ただ言えるのはこの世界には、せっかく魔法とか規格外の身体能力があるのにこの犯人は、わざわざなんだか面倒くさいことしているなって思って。」
「たしかに・・・マシロのおっしゃることは筋は通ってる。」
「アリスちゃーん。もっと褒めてー、ねえねえー。」
「調子に乗らないでくださいっ!
でも、そうするといったい誰が・・・?」
「それは私にもわからないわ。」




