無力
過去編第一話です。一応二章目になってますが、ここから読んでくださっても構いません。
これは、二年前の、春のお話。
☆ ☆ ☆
「囲島君は、どこの高校に入るの?」
隣を歩く幼馴染は、ふと思いついたように、そんなことを聞いてきた。
秦野鈴芽。家が近いこともあり、小さい頃から親しかった、いわゆる幼馴染である。
「地元の××高校だよ。そんなに頭が良いわけでもないし、無難なところだろ?」
「ふーん。そっかぁー」
そう言って鈴芽は、なぜだか満足そうな顔をした。
散ってしまった桜の花びらが、地面を覆いつくすように、ピンクに染めている。
始業式も終わり、本格的に高校受験のことを考え出す頃。しかし僕の頭は、勉強など関係ないとばかりに、全く別のことを考えていた。
夢。将来の夢、とは似ても似つかない、妄想と呼ばれる類のものだ。
はっきり言えば。異世界とか、超能力とか。そういうのに、憧れているというわけだ。
僕は、本当は勇者だったー、とか。
実は、超能力者だったー、とか。
そんなことはあり得ない。そう思っている自分もいる。理性というやつだ。だけど、世界のどこかには、宇宙のどこかには、そのくらいの夢があってもいいじゃないか。それが、僕の手にあったって、不思議じゃない。そうやっていつも、理屈をねじ伏せているのだった。
「それで?鈴芽は、どこの高校に受験するんだ?」
「そこで、行くの、って聞かないところが、囲島君少し毒舌なんだよねぇ」
「いいだろー、別に。毒舌だって何だって」
「まぁね。だけど、もう少しみんなと仲良くなった方がいいよ?中学の同窓会とかがあったら、一人で寂しいよー」
鈴芽は少し意地悪な笑みを浮かべて、僕の前で後ろ歩きをする。ちょうど、向かい合って歩いている感じだ。
「んー。まぁ、鈴芽がいれば充分だろ」
友達作るの、苦手だし。
そう言うと、鈴芽はいきなり立ち止まった。
「え、あ、うん、そ、そうだね」
見ると、鈴芽の顔はトマトみたいに真っ赤だった。
「お、おい。大丈夫か?真っ赤だけど」
そう言って、鈴芽の額に手を伸ばそうとすると、鈴芽は逃げるように後ろへ下がり、
「だ、大丈夫だから!!きょ、今日は塾あるから、先帰るね!!じゃあねー!!」
鈴芽はそう言って、走っていってしまった。
すぐに、鈴芽の姿が見えなくなる。50m六秒台だからなぁ。確か鈴芽は、文芸部だったはず。運動部でもないのに、どうしてあそこまで足が速いのだろうか。ちなみに、僕はペーパークラフト部。見事なまでに、部員全員幽霊部員だった。確か、今年で無くなったはずだ。いや、だってなにするか分からない部活なんてねぇ。
それはともかく。
「うーん............」
最近、なんだか鈴芽の様子がおかしい。ああやって、いきなり逃げるように去っていくことが多くなった気がする。
まぁ、関係ないけど。
春の風は暖かく、撫でるように、僕らの町を通り過ぎていった。
ピコピコピコ。
ピコピコピコ。
ピコピコピコドーン。
「あぁぁぁー」
ゲームの中で、僕の分身とも言える女性キャラが消えていく。上にあるカーソルには、『ミツキ』という名前と一緒に、死亡を示すマークが付いていた。『ミツキ』は無数のキラキラした欠片を飛び散らせ、風に乗ってどこかへ飛んでいってしまった。これでまた、拠点の街からやり直しである。
「はぁぁぁー」
なぜ女性なのかと言うと。
いや、みなさんもありませんか?キャラを女性にしたくなること。ないですかそうですか。まぁ、思春期的な衝動ですよ。
名前は自分の名前にちなんで、というかもろそのままなんだけど。両親はもう少しいい名前を考えられなかったのだろうか。三月に生まれたから三月って。単純過ぎる。そのせいで、名前は僕のコンプレックスの一つだ。
僕は、一人暮らしをしている。
名前を付けてくれた両親は子供の頃死んでしまい、中学二年生までは叔母さんと暮らしていたんだけど。厄介みたいだったから、アパートに一人暮らしをすることにした。両親の家族から毎月仕送りを貰っているので、金に困っているということはないけれど。これが、一人で家事をやるとなると、結構大変なのだ。
最初は鈴芽の家に来ないかと誘われたけど、断った。向こうも、嫌がるかもしれないし。年頃の女の子の家に突然男子が来たら、普通は拒絶するだろう。
「あー........................本当に」
夢を見るのは、大変だ。
どれもこれも、悪いのは。
現実が、こんなにつまらないから。
だから僕らは、夢を見てしまう。
大人はよく、「現実を見ろ」と言うけれど。
「綺麗事だ」とか言うけれど。
こんな腐った現実を見て、何になる?
こんな汚れた世界で、何が綺麗事だ。
こんな世界で生きるなら、まだ夢を見ていた方がいい。
夢は、美しいから。
夢は、理想だから。
だから。
「はぁぁあぁー」
だからせめて。
眠る時くらいは、夢を見させてくれ。
主人公の名前を決めてみました。
特に重要でもなんでもないんですけど。
次回、『凡人』!!
お楽しみに!!




