相談
麻宮詩織ー秘書です。この後も度々出てきます。
「お兄ちゃーん、二回目の朝ですよー」
「ぐべふっ」
腹の上に、何かがダイブした。
「お兄ちゃーん、あーさでーすよー」
「あぁー。分かったから、そこどいてくれ............って、なんでアリスがここにいるんだ?」
アリスは、僕の腹の上に座って、ぴょこぴょこ跳ねている。痛い。
「面白そうだったから、お兄ちゃんの味方になることに決めましたー!てってけてーてってっててっててー!」
一体なんの音楽だよそれ。
「本当に、いいのか?僕は勝負に負けたはずだけど」
「いいのー。お兄ちゃん死ななかったしー」
気まぐれすぎる。そして、厳密に言うと何回か死んでたと思う。
「まぁ、アリスがいいなら、いいけど」
「それに、お兄ちゃんをここまで運んだのは誰だと思っているー」
そう言うと、アリスの影から博士が現れた。
「はいはい、私だよ。全く、私がいなかったら、囲島君は死んでいたよ?まぁ、いつものことだけどさー」
そう言って博士は、僕が眠っている間に起きたことを簡単に説明してくれた。え、頭取れてたの?ビニール袋に入れて持ってきたの?なんか雑じゃないか?
「それで、白石は大丈夫なのか?」
「だいじょーぶだよー。アリスが本部に、一週間くらいかかるって電話しといたからねー」
「つまり、一週間は敵が来ない、ってことか」
一週間。長いようで、短い。
「だからと言って、油断は禁物だよ。一週間というのは、あくまでも希望的観測。相手は『死神』だ。何をしてくるか、分からない」
「あぁ、分かってるよ。それで、今白石がどこにいるのか知ってるか?」
「多分、授業を受けているんじゃないかな。というか囲島君。私がいうのもなんだけど、出席日数は大丈夫なのかい?」
「え?あー、大丈夫、なんじゃないかな?」
まさか博士に、そんな先生らしいことを言われるとは思わなかった。
「一学期から早々休みまくるなんて、不良少年まっしぐらじゃないか。お先真っ暗だね」
僕は普通の、高校二年生なのだ。学校という枷は、まだ数年は外れない。
「とりあえず、白石に会ってみるよ」
少し話したいし。
「この前あんなに拒絶されたのにかい?しつこい男は嫌われるよ?」
「お兄ちゃん、肉食系?」
「いや、違うけど」
即座に否定する。
「むー。あやしー。アリスもついてくからねー。お兄ちゃんを監視しなきゃ」
「ん?別に僕は、怪しいことは何もしてないけど?」
「正直に言えー。浮気してるの?してないの?」
「おい博士、なんか吹きこんだか?」
「いいやなにも?」
そう言って博士は首を横に振る。
怪しいな。監視しないといけないのはこちらのようだ。
「早く白石君のところへ行ったらどうだい?」
博士が急かしてくる。
「あーはいはい。分かったよ。じゃあ、行ってくる」
「アリスも行くー」
「お前は待ってろ」
そうして僕は、アリスを部屋に押し込み、第二理科準備室を出た。
☆ ☆ ☆
「うわ......」
気持ち悪い。詩織は、素直にそう思った。
「これが全部、血?」
そう言って、目の前に広がる血の水たまりに、指を浸す。
普通、これだけの血を流せば、誰だって死ぬ。だが、ここにはそれらしき死体は無かった。
可能性としては。
誰かが持ち去ったか。
それとも、『人外』なのか。
「............考えるまでもないか」
あの少年が、言ったのだ。彼は、死なないと。だとすれば、それが正しいのだろう。『不完全』というのがなんなのかは、分からないままだけど。
アリスは、ここには囲島という男しかいなかったと電話で言っていた。そして、白石は自分一人で探す、と。
何か、ある。
私の知らない、何かが。
私は少年に、真実を教えなければならない。そういう仕事だから。
少年は、もしかするとすべてを知っているのかもしれない。それでも、構わない。
自己満足でも、少年のためであれるなら。
少年のために、生きられるなら。
スポイトで、血を採取する。一応、誰の血液なのか確認するためである。
「嘘吐きさんは、誰でしょうね」
麻宮詩織。
『万物の弾丸』。
『不完全』。
『白の王様』。
そして、白石百合乃。
真実は、どこにあるのか。
☆ ☆ ☆
「やあ、白石。久しぶり」
「もう関わるなと言ったはずだが」
「勝手にしろ、って言わなかった?」
「............ちっ」
白石は、教室の外の廊下に、一人でいた。何も喋らず、窓の外を眺めている。
「一週間くらいは、敵は来ないらしいよ」
「それで?言いたいことは、それだけか?」
白石が、尋ねてくる。話し始めてから、まだ一度も目を合わせていない。
「もう少し、誰かを頼っても、いいんじゃないか?」
「その必要はない。私は、一人で充分だ」
「本心を、言ってみろよ」
本当は、どう思ってるんだ?
助けて欲しくはないのか?
「迷惑なんだ......勝手に関わってきて、勝手に傷ついて、迷惑なんだよ。私が、自分自身が、一人で大丈夫だと言っているんだ。なのに、なぜお前が助けようとする?なぜお前が、関わろうとする?」
そう言う白石の顔に、僕は既視感を感じていた。
だからだろうか。
だから僕は、白石を助けたいのだろうか。
「君が............似てたから」
「?......どういう意味だ?」
「昔、助けられなかった人がいるんだ」
そう言って、白石を見つめる。
「その人も、君と同じように、誰にも頼らなかった。助けて欲しいとは、思っていたんだろうけどね。僕は、それに気づけなかった。気づいた時には、もう全部終わったあとだった。何で、気づけなかったんだろう、何で、助けてって言ってくれなかったんだろう。そうやって、ずっと、後悔してた。次は、絶対助ける。その時に、決めたんだ。
終わってからじゃ、遅いんだよ。だから僕は、自分から初めようって、決めた。どれだけ傍迷惑に思われても、手遅れになるよりは、後悔するよりは、いい。だから、僕は君を助けるよ。何があってもね」
「............」
「言いたいことは、それだけだ。ごめんね、呼び止めて。一週間は敵がこないって言ったけど、油断はしないでね。推測はあくまでも推測だから」
そう言って、白石に背を向けると。
後ろから、声がした。
「ちょっと、待ってくれ。話がある」
次回、『血』!!
お楽しみに!!




