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不完全少年の憂鬱  作者: 仲村薫
終わりの始まり
10/20

相談

麻宮詩織ー秘書です。この後も度々出てきます。

「お兄ちゃーん、二回目の朝ですよー」

「ぐべふっ」

腹の上に、何かがダイブした。

「お兄ちゃーん、あーさでーすよー」

「あぁー。分かったから、そこどいてくれ............って、なんでアリスがここにいるんだ?」

アリスは、僕の腹の上に座って、ぴょこぴょこ跳ねている。痛い。

「面白そうだったから、お兄ちゃんの味方になることに決めましたー!てってけてーてってっててっててー!」

一体なんの音楽だよそれ。

「本当に、いいのか?僕は勝負に負けたはずだけど」

「いいのー。お兄ちゃん死ななかったしー」

気まぐれすぎる。そして、厳密に言うと何回か死んでたと思う。

「まぁ、アリスがいいなら、いいけど」

「それに、お兄ちゃんをここまで運んだのは誰だと思っているー」

そう言うと、アリスの影から博士が現れた。

「はいはい、私だよ。全く、私がいなかったら、囲島君は死んでいたよ?まぁ、いつものことだけどさー」

そう言って博士は、僕が眠っている間に起きたことを簡単に説明してくれた。え、頭取れてたの?ビニール袋に入れて持ってきたの?なんか雑じゃないか?

「それで、白石は大丈夫なのか?」

「だいじょーぶだよー。アリスが本部に、一週間くらいかかるって電話しといたからねー」

「つまり、一週間は敵が来ない、ってことか」

一週間。長いようで、短い。

「だからと言って、油断は禁物だよ。一週間というのは、あくまでも希望的観測。相手は『死神』だ。何をしてくるか、分からない」

「あぁ、分かってるよ。それで、今白石がどこにいるのか知ってるか?」

「多分、授業を受けているんじゃないかな。というか囲島君。私がいうのもなんだけど、出席日数は大丈夫なのかい?」

「え?あー、大丈夫、なんじゃないかな?」

まさか博士に、そんな先生らしいことを言われるとは思わなかった。

「一学期から早々休みまくるなんて、不良少年まっしぐらじゃないか。お先真っ暗だね」

僕は普通の、高校二年生なのだ。学校という枷は、まだ数年は外れない。

「とりあえず、白石に会ってみるよ」

少し話したいし。

「この前あんなに拒絶されたのにかい?しつこい男は嫌われるよ?」

「お兄ちゃん、肉食系?」

「いや、違うけど」

即座に否定する。

「むー。あやしー。アリスもついてくからねー。お兄ちゃんを監視しなきゃ」

「ん?別に僕は、怪しいことは何もしてないけど?」

「正直に言えー。浮気してるの?してないの?」

「おい博士、なんか吹きこんだか?」

「いいやなにも?」

そう言って博士は首を横に振る。

怪しいな。監視しないといけないのはこちらのようだ。

「早く白石君のところへ行ったらどうだい?」

博士が急かしてくる。

「あーはいはい。分かったよ。じゃあ、行ってくる」

「アリスも行くー」

「お前は待ってろ」

そうして僕は、アリスを部屋に押し込み、第二理科準備室を出た。


☆ ☆ ☆


「うわ......」

気持ち悪い。詩織は、素直にそう思った。

「これが全部、血?」

そう言って、目の前に広がる血の水たまりに、指を浸す。

普通、これだけの血を流せば、誰だって死ぬ。だが、ここにはそれらしき死体は無かった。

可能性としては。

誰かが持ち去ったか。

それとも、『人外』なのか。

「............考えるまでもないか」

あの少年が、言ったのだ。彼は、死なないと。だとすれば、それが正しいのだろう。『不完全』というのがなんなのかは、分からないままだけど。

アリスは、ここには囲島という男しかいなかったと電話で言っていた。そして、白石は自分一人で探す、と。

何か、ある。

私の知らない、何かが。

私は少年に、真実を教えなければならない。そういう仕事だから。

少年は、もしかするとすべてを知っているのかもしれない。それでも、構わない。

自己満足でも、少年のためであれるなら。

少年のために、生きられるなら。

スポイトで、血を採取する。一応、誰の血液なのか確認するためである。

「嘘吐きさんは、誰でしょうね」

麻宮詩織。

『万物の弾丸』。

『不完全』。

『白の王様』。

そして、白石百合乃。

真実は、どこにあるのか。


☆ ☆ ☆


「やあ、白石。久しぶり」

「もう関わるなと言ったはずだが」

「勝手にしろ、って言わなかった?」

「............ちっ」

白石は、教室の外の廊下に、一人でいた。何も喋らず、窓の外を眺めている。

「一週間くらいは、敵は来ないらしいよ」

「それで?言いたいことは、それだけか?」

白石が、尋ねてくる。話し始めてから、まだ一度も目を合わせていない。

「もう少し、誰かを頼っても、いいんじゃないか?」

「その必要はない。私は、一人で充分だ」

「本心を、言ってみろよ」

本当は、どう思ってるんだ?

助けて欲しくはないのか?

「迷惑なんだ......勝手に関わってきて、勝手に傷ついて、迷惑なんだよ。私が、自分自身が、一人で大丈夫だと言っているんだ。なのに、なぜお前が助けようとする?なぜお前が、関わろうとする?」

そう言う白石の顔に、僕は既視感を感じていた。

だからだろうか。

だから僕は、白石を助けたいのだろうか。

「君が............似てたから」

「?......どういう意味だ?」

「昔、助けられなかった人がいるんだ」

そう言って、白石を見つめる。

「その人も、君と同じように、誰にも頼らなかった。助けて欲しいとは、思っていたんだろうけどね。僕は、それに気づけなかった。気づいた時には、もう全部終わったあとだった。何で、気づけなかったんだろう、何で、助けてって言ってくれなかったんだろう。そうやって、ずっと、後悔してた。次は、絶対助ける。その時に、決めたんだ。

終わってからじゃ、遅いんだよ。だから僕は、自分から初めようって、決めた。どれだけ傍迷惑に思われても、手遅れになるよりは、後悔するよりは、いい。だから、僕は君を助けるよ。何があってもね」

「............」

「言いたいことは、それだけだ。ごめんね、呼び止めて。一週間は敵がこないって言ったけど、油断はしないでね。推測はあくまでも推測だから」

そう言って、白石に背を向けると。

後ろから、声がした。

「ちょっと、待ってくれ。話がある」


次回、『血』!!

お楽しみに!!

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