第3話 偽りの炎上で人生を奪われた美女
ドアチェーンの向こう側から投げかけられた言葉に、任三郎はすぐには返事をしなかった。
「……俺がノヴァシードAIを離れたことは、まだ社外には出ていないはずです」
任三郎は扉の隙間から、静かな声で問い返した。
「論文の登録情報から住所は辿れても、三日前の人事までは書いてありませんよね。どこでそれをお知りになりましたか、田中さん」
「発表されたばかりの『KAGUTSUCHI』のプレスリリースを拝見しました」
襟華は落ち着いた声で答えた。
「ああ、開発統括部長の迫田が『一年前から自分が基本設計を主導した』と語っている記事ですか」
「ええ、ずいぶん堂々と語っていましたね。ですが、公開された概念モデルの構成図にあるモジュール構造は、あなたが大学の研究室時代から公開リポジトリに残していた設計思想そのままでしょう? それなのに、発表資料には開発者としてあなたの名前がどこにもなかった」
襟華は手元のレザーバッグを開け、クリアファイルを少しだけ取り出した。
「それに、三日前の午前中からあなたの技術アカウントの更新が止まり、所属欄からノヴァシードAIの名前が消えていました。大型発表の直前に、中核技術を作ったはずの人間が会社からいなくなる。円満な異動とは思えなくて、周辺を調べていたんです」
「なるほど。広報資料と公開履歴の突き合わせだけで、そこまで繋げましたか。うちの元上司よりよほど観察眼がある」
「光栄ですけれど、あの方と比較されるのは少し複雑ですね」
任三郎は小さく息を吐いた。ただの野次馬や、会社側から差し向けられた不器用な監視役ではなさそうだ。
「それもそうですね。ただ、観察眼が鋭いというだけでは、見知らぬ人間を部屋に入れる理由にはなりません。あなたの目的は何ですか」
「あの会社の経営陣に、積み上げてきた人生を壊された人間がここにもう一人いる、ということです」
襟華の声から、わずかに温度が消えた。彼女はクリアファイルから一枚の紙を抜き出し、ドアの隙間から任三郎に見えるように掲げた。
「立ち話で済む内容ではありません。まずはこの一枚だけ見ていただけますか」
紙面に印字されていたのは、都内の飲食店での会食日時と出席者を記したメモ、そして録音データの文字起こしの一部だった。
任三郎はチェーン越しにその文字列へ目を走らせ、視線を止めた。
そこには迫田隆文の名前とともに、任三郎が社内テスト環境へ構築した検証用モデルの内部呼称と、当時迫田にしか伝えていなかったはずの初期パラメータの仕様が記録されていた。社外の人間が適当に作ったハッタリでは、絶対に出てこない記述だ。
「社内秘のはずの検証モデルの仕様ですね。しかも、迫田にしか渡していない初期パラメータだ。どこでこれを?」
「ノヴァシードAIの元社員の方から、このメモを預かりました。発表資料とあなたの経歴を見て、あの会社が何をしたのか確信を持ったんです。続きは、中でお話しさせていただけますか。持ってきた資料をすべてお見せしますし、もし時間の無駄だと判断されたなら、その場ですぐに帰ります」
相手自身の素性が信用できたわけではない。だが、そのファイルの中に、自分がまだ把握していないノヴァシードAIの裏側の記録が含まれていることは確かだった。
任三郎は一度扉を閉めてドアチェーンを外すと、再びドアを開けた。
「どうぞ。散らかっていますが、ドアの隙間から書類を読むよりはマシでしょう」
「ありがとうございます。お邪魔しますね」
襟華は短く一礼し、室内へ足を踏み入れた。
リビングへ案内すると、部屋の隅に置かれたケージの中で、クッキーが小さな前足を柵にかけ、丸い黒い瞳で来客をじっと見つめていた。
「きゅうっ」
鼻先をひくつかせながら小さく鳴くクッキーを見て、それまで強張っていた襟華の表情が、ふっと和らいだ。
「あら、先客がいたのね。可愛い子。ホワイト・ポメラニアンかしら。まだ生後二ヶ月くらい?」
「ええ、よく分かりますね。今日、迎えたばかりなんです」
任三郎はワークステーションのモニターをスリープ状態に切り替えながら答えた。
「クッキーといいます。まだ環境に慣れていないのでケージに入れていますが……見ての通り、警戒心はあまりないみたいで」
「クッキー。いい名前ね。ごめんなさいね、クッキーちゃん。夜分にお邪魔して、起こしてしまったかしら」
襟華がケージの前で少しだけ腰を屈め、優しい声で囁くと、クッキーは小さな尻尾をちぎれんばかりに振った。
「俺が帰ってきた時より歓迎している気がしますね。コーヒーでいいですか? 豆から淹れますが、砂糖とミルクは」
「ブラックで結構です。お構いなく」
任三郎はキッチンのケトルに水を入れ、スイッチを入れた。
数分後、任三郎は淹れたてのコーヒーをローテーブルに置き、向かいのソファに腰を下ろした。
落ち着いた色合いのジャケットを乱れなく着こなし、指先まで無駄のない姿勢でソファに腰掛ける佇まいには、長年企業の最前線で交渉を担ってきた実務家らしい隙のなさと品の良さがある。整った顔立ちには知性が滲んでいたが、室内の明かりの下で見ると、その目元には隠しきれない疲労の陰影が色濃く残っていた。
「お待たせしました。それで、ノヴァシードAIとあなたにどんな関わりがあるのか、聞かせてもらえますか」
「ありがとうございます。いただきますね」
襟華はカップに軽く口をつけ、一息ついてからバッグの中のクリアファイルを取り出した。テーブルの上に順番に並べられたのは、複数のネット記事の印刷物と、SNSの投稿履歴を時系列でまとめたリスト、そして数枚の法人登記の写しだった。
「私は半年ほど前まで、都内で危機管理PRのコンサルタントをしていました。企業の不祥事対応や広報戦略の設計、メディアとの交渉が専門です」
任三郎は黙って頷き、一番上の紙に目を落とした。
そこには、ゴシップ系のウェブメディアが配信した記事の見出しが並んでいた。
『敏腕女性コンサルタントT氏、クライアント役員との泥沼不倫』
『広報契約を盾にした不当な金銭要求か——関係者が語る裏の顔』
モザイク処理こそされているものの、使われている写真のシルエットは明らかに目の前の襟華のものだった。
「『泥沼不倫』に『不当な金銭要求』ですか。危機管理の専門家相手にしては、ずいぶんベタな見出しですね」
「ええ、三流ゴシップ誌の定番です。でも、世間の目を引くにはそういう下世話な話が一番手っ取り早いんですよ。当時、あるIT関連企業の広報アドバイザーを務めていた時のことです」
襟華は自分のスキャンダル記事に視線を落とし、淡々とした口調で経緯を語り始めた。
「業務の中で、そのクライアント企業の役員が、下請けのシステム開発会社から納品されたプログラムに難癖をつけて代金を踏み倒し、さらにはそのソースコードを別会社へ横流ししている事実を知りました」
「検収前の持ち出しですか。うちの古巣と似たような手口ですね」
「ええ、どこにでもいるんです、そういう連中は。仕様変更を理由に一方的に契約を打ち切った直後でした。下請けの社長が泣き寝入りしかけていたから、私は契約上のコンプライアンス規定に基づき、役員会へ是正を求めたんです。従わない場合は取引先へ事実を開示すると通告しました」
「筋は通っていますね。で、その回答がこの記事ですか」
「ええ。翌週の月曜日の朝、一斉に出ました」
襟華の指先が、テーブルの上の印刷物を軽く叩いた。
「私がその役員と不倫関係にあり、別れ話のもつれから会社の機密をネタに手切れ金を脅し取ろうとしている——そんな事実無根の捏造記事です。もちろん、その役員と二人きりで食事に行ったことすらありません。それなのに、匿名の暴露系アカウントと三つのまとめサイトが、記事の公開からわずか十分以内に拡散を始め、昼過ぎには私の実名と事務所の所在地まで特定されて晒されました」
「公開から十分以内、ですか」
任三郎の目がわずかに細まった。
「ええ、異常な速さでした。すぐに役員とのやり取りの履歴や、金銭要求など一切していない証拠を揃えて、メディア側に訂正を求めました。公式な否定声明も出したんです。でも、何をしても無駄でした」
襟華はカップをソーサーに戻し、印刷物の束からSNSの投稿履歴リストを抜き出してテーブルの中央へ滑らせた。
「私が反論を出した直後、待っていたかのように『元同僚』や『業界関係者』を名乗る架空のアカウントが次々と現れて、私の性格や過去の金銭トラブルをでっち上げた証言を投下したんです。火消しに動けば動くほど『苦しい言い逃れをしている悪女』という扱いにされて」
任三郎はリストを手に取り、記載された投稿日時と、その下に添えられた通知書のコピーに目を通した。
「この通知書は? 最初の記事から三日後には、もう顧問先から契約解除が届いていますね」
「危機管理のコンサルタント自身がスキャンダルで炎上しているんですから、クライアントからすれば一番厄介な火種でしょうね。一社が手を引くと、その日のうちにすべての顧問先から契約を打ち切られました。事務所も維持できなくなって、私は業界から完全に追放されたんです」
室内に、ケージの中でクッキーが毛布を踏み直す小さな音だけが響いた。
任三郎は記事の束を一枚ずつめくり、配信元のクレジットを確認していく。
「反論のタイミングに合わせて、あらかじめ二の矢、三の矢を組んでいたわけです
か。個人の逆恨みにしては、ずいぶん手際がいいですね」
「ええ。だから私は、事務所を畳んだ後も、この工作がどこから発注され、どうやって動かされたのかを独自に調べ続けました」
襟華は別のファイルを開き、一枚の相関図と、先ほど玄関で見せた録音データの文字起こし記録の全文を差し出した。
「私を陥れたクライアント企業の役員が、炎上の少し前に、ある人物と頻繁に会食を重ねていました。もうお分かりですね。ノヴァシードAIの開発統括部長、迫田隆文です」
任三郎は文字起こしの紙面に目を落とした。
「この文字起こしは、その会食の記録ですか」
「ええ。当時同席していた元社員の方から、ようやく証言を取ることができました。その席で迫田は、『うちに今、ネット上の反応や情報の広がり方を秒単位で予測できる新しいAIモデルがある。これを使えば、不都合な相手の反論を封じて、狙った世論を作るタイミングも正確にコントロールできる』と、テスト運用の提供を持ちかけていたそうです」
襟華は任三郎の目をまっすぐに見た。
「時期は半年前の四月中旬。あなたがノヴァシードAIで『KAGUTSUCHI』のプロトタイプを完成させた時期と、重なっていませんか?」
任三郎の思考が、一つの事実へと結びついた。
四月中旬に社内サーバーへ最初のテスト環境を構築した際、迫田は「経営陣へのデモンストレーションに使う」と言ってアクセス権限を要求してきた。玄関先で見たメモの初期パラメータは、まさにその時に迫田へ渡したものだ。
「あいつら、経営陣へのデモに使うと偽って持ち出した検証モデルを、他人の人生を潰す工作の実験台にしていたのか」
任三郎の声は、怒鳴るよりもずっと低かった。
だが、感情のままに結論を出すつもりはない。任三郎は改めて襟華に向き直った。
「田中さん。お話の筋道はよく分かりました。時期も、迫田の言い草も、俺が把握している社内の状況と綺麗に噛み合います」
「では——」
「ただ、俺は自分で裏が取れた事実しか判断材料にしません。同情で動くつもりもありません」
任三郎はソファから立ち上がった。
「当時の記事のURL一覧と、拡散に関わったアカウントの記録、それとあなたが調べた法人の資料……紙だけでなくデータとしてお持ちなら、今ここで検証させてもらえますか」
襟華は待っていたようにバッグを開け、小さなUSBメモリを取り出した。
「ええ、そうでなくちゃ困ります。私の話をそのまま鵜呑みにするような人だったら、ここまで来た意味がありませんから」
テーブルの上に置かれたメモリには、何度も抜き差しされた細かい擦り傷がついていた。
「半年かけて集めたログと魚拓、関連企業のリストが全部入っています。好きに使ってください」
「助かります。少し時間をください」
任三郎はワークステーションの前に座り、スリープを解除した。
外部メモリをサンドボックス環境で安全確認した上で読み込み、複数のモニターにデータを展開する。そして、ローカルストレージの暗号化を解き、次世代統合解析AI『KAGUTSUCHI』のコンソールを起動した。
「これが、本物の『KAGUTSUCHI』なんですね」
背後から画面を覗き込んだ襟華が、デスクの脇へ一歩近づいた。
「ええ。迫田たちが外で自慢しているものより、こっちの方が最新版ですが」
モニターの上では、襟華が半年間にわたって手作業で集めた数千件のSNS投稿ログ、まとめサイトの更新履歴、ウェブ記事の配信タイムスタンプ、そしてノヴァシードAI周辺の公開法人データが、猛烈な速度で構造化され、網目状のグラフへと変換されていく。
「すごいですね。私が何ヶ月もかけてエクセルに打ち込んでいたリストが、一瞬で」
「手作業でここまで揃えたんですか? タイムスタンプも欠損がほとんどない。正直、執念を感じますね」
「褒め言葉として受け取っておきます。時間はいくらでもありましたから」
「おかげで助かります。人間が目で追うと、最初の記事が出てから無数のアカウントが一斉に群がったように見えますが、大量の自動拡散や組織的な工作には、必ず制御上の偏りが出ます」
任三郎はキーボードを叩き、初期拡散の十分間に投稿を行った八百四十二のアカウントにフィルタをかけた。
「KAGUTSUCHI、初期拡散ノードのタイムスタンプと、リポスト間隔の分散値を抽出。ノヴァシードAI関連の広報キャンペーン履歴と照合しろ」
画面の中央に、二つの波形グラフが重なって表示された。
一つは、半年前に襟華の記事を拡散した匿名アカウント群の稼働タイミング。
もう一つは、任三郎が先ほどまで調べていた、ノヴァシードAIが自社の技術広報や提携先の宣伝で不自然にトレンド入りさせていた際の拡散データだ。
「見てください、ここです」
任三郎が画面の一点を指し示した。
「最初の記事が出てから三分後、六分弱、九分過ぎ。一見するとバラバラな時間に拡散の波が起きていますが、アカウント群が反応するまでの遅延パターンと、ハブの切り替わる周期が、ノヴァシードAIの広報拡散データと完全に一致しています」
「つまり、同じ仕組みで動かされていたということですか?」
「偶然では片付けられない一致です。さらに言えば、この記事が出た日の午前六時五十五分——世に出る五分前の時点で、まとめサイトのキャッシュサーバーと一部の拡散用アカウントが、すでに同じ記事IDを参照して待機状態に入っています」
「公開される五分前に? フライングじゃないですか」
「予約配信の時刻設定を合わせる時に出たズレでしょうね。もっと分かりやすいミスもあります」
任三郎は別ウィンドウを開き、襟華のリストにあったゴシップ記事の訂正履歴を拡大した。
「元の記事、配信から二十分後に誤字が一箇所修正されているんですが、その修正が反映される前の古いテキストを、なぜか一時間後に投稿した別の『元同僚を名乗るアカウント』が一字一句同じ誤字を含んだまま引用しているんです。事前に用意された同じ原稿ファイルから出力されたと見るのが自然ですね」
「ずいぶん雑な元同僚ですね。私が必死に否定している間も、次に何を流すか全部決まっていたというわけですか」
襟華の声が、静かな怒りに震えた。
「ええ。この拡散タイミングの偏り方自体、俺が四月に組んだ初期モデルの出力傾向そのものです。まだ調整不足だった頃のクセがそのまま出ている。当時、社内テスト環境にアクセスできた迫田たちの周辺から、検証用のモデルや解析結果が外へ流れていたと考えるのが自然でしょう」
任三郎は別ウィンドウの法人データを閉じ、椅子を回転させて襟華の方を向いた。
「ただ、喜ぶのはまだ早いです。誰が工作を発注したのか、どこに金が流れたのかまでは、この公開情報だけでは辿り着けません。そこを押さえて、あなたの疑惑そのものが虚偽だったと証明できなければ、相手にはいくらでも逃げ道が残ります」
襟華はすぐには答えず、モニターの上で重なり合う二つの波形グラフを追っていた。やがて、張り詰めていた肩の力をわずかに抜く。
「十分です。私が半年かけて手探りで追いかけていたものを、あなたはたった十数分で、ここまで鮮明に浮かび上がらせてくれたのですから」
「あなたが当時から諦めずにログと魚拓を残していてくれたからです。消された後では、どんなAIを使っても解析はできません」
任三郎は椅子から立ち上がり、テーブルの上のファイルへ手を伸ばした。
「俺は迫田と守屋を許すつもりはありません。手元には、あいつらの嘘を覆せる開発記録があります」
任三郎は襟華へ向き直った。
「ただ、この証拠をどう並べて、どのタイミングで世間に出せば相手が逃げ場を失うのか……そういう人間相手の戦い方は、俺の専門外です。田中さん、その辺りを任せたいんですが、俺と手を組みませんか」
任三郎が右手を差し出すと、襟華は迷うことなくその手を握り返した。
「ええ。そのつもりで来ました」
硬さの残っていた襟華の顔立ちから少しだけ険しさが抜け、落ち着いた笑みが浮かぶ。
「よろしくお願いします、田中さん」
「襟華でいいわ。私も任三郎と呼ばせてもらうから。それにしても、さっき玄関ではあんなに警戒していたのに、切り替えが早いのね」
「データの整合性は確認できましたから。よろしくお願いします、襟華さん」
「ええ。私の方でも、まだ調べられることがある。協力するわ」
任三郎が頷きかけた矢先、ワークステーションのサブモニターから短い通知音が鳴り響いた。
任三郎が画面へ向き直ると、ノヴァシードAIの公式ウェブサイトと、複数のIT業界メディアの速報フィードが同時に更新されていた。
『株式会社ノヴァシードAI、次世代統合解析AI「KAGUTSUCHI」の完成披露および事業戦略発表会を開催決定。主要スポンサー・メディア向けに、来週オンラインにて全編生配信——』
画面には、自信に満ちた笑みを浮かべる守屋と、その隣で胸を張る迫田の写真が大きく掲載されていた。
「生配信の、大規模発表会……」
襟華はモニターの脇へ歩み寄り、記載された開催日時と配信プラットフォームの表示を確かめた。
「自分たちの盗品を自慢するために、わざわざ最高の舞台を用意してくれたみたいね」
「ええ。ご丁寧に全編生配信だそうです。これなら、都合の悪い質問が出ても途中で編集して誤魔化すことはできませんね」
「来週か。時間はあまりないけれど、悪くないタイミングよ。連中が一番気持ちよくなっているところで、梯子を外してあげましょう」
任三郎は画面に表示された発表会の日時と概要を確認した。
「ええ。それまでに、手元の開発記録と使える証拠を全部整理します」
「分かったわ。私も元社員や関係者に当たって、動かせる材料を集めておくわ」
襟華はテーブルへ戻ると、バッグから手帳とスマートフォンを取り出し、連絡先のリストを開いた。任三郎もデスクの前に腰を据え、手元の開発記録と先ほどの解析データを統合するための新しいフォルダを作成した。




