51 一つもかけたところがない
「あ、楓来た」
先輩です。
皐月先輩です。
ホントに召喚されちゃった。
先輩だ。
夢じゃない。
皐月先輩がいる。
目の前にいる。
「あの先輩」
「楓、上見て」
「え、上?」
ここはどこなんでしょうか。
見えるのはさっきまでいた花火大会と変わらない夜空です。
あれ、この音。
「花火」
「そう花火」
空から赤い輝きが降り注ぎます。
気のせいかとても空は遠いけれど、花火が見えます。
「さっきまでモンスターと戦ってて天井ぶち抜いちゃって、そしたら花火見えたから楓に見せなきゃって、良かった」
私は笑ってしまいました。
先輩って本当に。
「先輩めちゃくちゃ」
「えー」
「嬉しいです。ありがとうございます。綺麗」
「良かった。ごめん。あれ、楓なんか可愛いかっこしてる、それ浴衣?」
「あ、花火大会に恵美ちゃんとかのんちゃんと行ってたので」
「え、あ、そうだったんだ。ごめん」
「いえ」
「あー、ごめん。ここダンジョンの最深部だから、花火すっげー遠くからしか見えなくて、でも綺麗に天井吹っ飛ばしたらさ、花火見えて、なんかごめん」
「いいですよ。そんな。あの、私先輩に会いたかったんです。だから凄く嬉しいです」
「俺も会いたかったよ。この二週間楓に全然会えないからすっげーつまんなかった。ダンジョンのどこ探しても楓いないんだもん」
「ダンジョンにいるわけないじゃないですか。私先輩以外と行かないのに」
「うん。わかってるんだけど、俺の行くところ全部に楓がいたらいいのにって思ってた」
私は笑いました。
気が付いたら笑っていたんです。
先輩にこんなにも嬉しいって伝わったらいいのに。
「こういうのなんていうんだっけ?」
「え?」
「一つもかけたところがない。全部そろってる。足りないものが何もない。満たされている。こういうのどういう状態なんだっけ?」
合ってるかはわからない。
でもこれであって欲しいと思う。
「幸せっていうんじゃないですか?」
「そっか、幸せか、ははっ、そっか」
二人で遠い遠い花火を見ました。
凄く嬉しかったけど時を止めて欲しいとは思いませんでした。
だってこれからもっと楽しいことがある、そう信じられたからです。
「そっか。これが幸せか」




