52 ここはダンジョンじゃないけれど
夏休みも残り二週間となりました。
今日は久しぶりに先輩とダンジョンに行くことになったのですが、目的のダンジョンが消滅していました。
「ごめんね、楓」
「いえ。こればっかりはしょうがないですよ」
「ウサギのモンスターがいっぱいいて可愛いダンジョンだったんだけど」
「それは見たかったです」
「うーん。あ、今日暑くないしせっかくだから観光していこっか?」
「え、あ、はい」
「あっち、海ある。行ってみよ」
「はい」
「綺麗だねー」
「はい」
しばらく無言で二人で海を見ました。
ああ、なんか、いいな、こういうの。
「風気持ちいい。降りてみよっか?」
「はい」
二人で砂浜を並んで歩いていると白い鳥の群れがやってきました。
「楓のワンピース白いから楓が引き連れてるみたいだね」
「そうですか?」
鳥を侍らせてるみたいで、確かに魔法使いっぽいかも、今の私。
と思ってたらすぐにどこかに行ってしまいました。
空に咲いたように白い鳥達が羽ばたいていきます。
「綺麗ですね」
「うん」
「空と海が同じ色ですね」
「楓」
「はい」
「ここダンジョンじゃないけど、俺今死んでもいいかも。楓いるし」
先輩、それって。
それって。
「私は死にたくないですよ」
「そっか」
「私はこんな時間がずっと続けばいいと思っています」
「ずっとって一生?」
「もちろん死ぬまでですよ」
「そっか、じゃあそっちのほうがいっか」
私、先輩のこと笑わせたいです。
先輩のこと楽しくさせたいです。
私先輩のことダンジョンで死なせたくないです。
「先輩」
「ん?」
「私先輩が好きです」
言いたい。
今言いたい。
この人に言いたい。
私もう言わずにはいられない。
この人が好き。
大好き。
この人のために私、生きていたい。
ずっと、ずっと。
この人の傍で生きていたい。
「私先輩のこと楽しくさせたいです。ダンジョンよりずっと、ずっと。ダンジョンで死ぬより私と生きている方がずっと楽しいって先輩にいつか思ってもらえるように頑張りますから、もう少し待っていてください。お願い、ダンジョンで死なないで」
下さいが言えなかった。
だって、もう涙止まらないし。
「もうとっくにそう思ってるよ。楓」
先輩が私を腕の中に閉じ込めます。
出られそうもないです。
出る気なんてもうないけれど。
「つかまえた。つかんだからもう一生離さないからね」
「離さないでください。私も一生離しません」
「死ぬまでだよ。あ、死ぬときも持ってくから死んでからもね。もう楓一生俺から離れられないから」
「先輩もですよ」
「ずっと傍にいて。これから先何があっても俺のことだけずっと、ずっと見てて」
「先輩もですよ。私のことだけずっと見てて」
「もうずっと見てるよ。楓だけを」
「はい」
「好きだよ」
「私も好きです」
「好きだよ楓」
「私も好きです」
「もう一回言うね。楓好きだよ」
「私も皐月先輩が好きです」
「いいね、好きって。もう何回でも言いたい。楓好きずっと好き」
「皐月先輩、好き。大好き」
「俺は楓が好き、ずっと、ずっと、ずっと好き」
皐月燐音。
私が初めて好きになった、私の大好きな先輩。
「満足して死にたいと思っていた」
先輩。
「待ってた俺」
私の先輩。
「楓が出てくるのをずっと、ずっと待ってた」
私の、私だけの先輩。
「ダンジョン以外にあるなんて思ってもみなかった」
私が初めて好きになった、私の世界にたった一人の。
私の先輩。
皐月先輩。




