49 花火大会という通過儀礼
「じゃあ、花火大会に皐月先輩を誘うとして」
「え、誘うの確定なの?」
「勇気出すんでしょ?花火大会なんて絶好のイベントじゃん。もう神様が作ったとしか思えない、全人類大好きイベントじゃん」
「そ、そうなの?」
「二次元の恋愛もので花火大会は付き合っていようが付き合っていまいが通過儀礼だよ。男女だろうが百合だろうが男同士だろうが絶対に辿るルートなんだよ。寧ろここを通らないと夏が終わらなくて秋の文化祭イベントが来ないから。恋愛ものじゃなくても花火大会は私の体感ではほぼ百ある。夏といったらもうそれは花火と海なんだよ」
「そっか」
「それほど普遍的なイベントなんだよ。寧ろない方がおかしい」
「うん。わかった」
「問題はどう誘うかだよね」
「うん」
「どうするんだっけ?」
「え、わかんない」
「私もわかんない。誘うシーンもなくいきなり花火大会になってることあるし」
「段階どこいったの」
「それよね、まず、誘うとこから始めないといけないわけだ。現実だから」
「うん。あの、でもさ、付き合ってもいないのに、花火大会って一緒に行っていいものなのかな?」
「いいんじゃないの、それは」
「そうかな。なんとも思ってない子から誘われたりしたら迷惑じゃないかな」
「なんとも思ってないことはないでしょ。週六で会ってるんだし。今だって一日二回連絡くれるんでしょ?」
「うん」
「それでなんとも思ってないなんて言わせないけど」
「でも、その、よくわかんないよね。だってあの、その、男の人と仲良くなったことないから、全然わかんないんだよね。そういうものかもしれないでしょ、なんとも思ってなくても、連絡くらいくれるのかも」
「そんなことあり得る?」
「あるかもしれない。だって、先輩あの容姿だし、ものすごくもてるでしょ?」
「まあそうだろね」
「二百八股かけてても許されるくらいの見た目でしょ?」
「おまけに大金持ちだしね」
「お金はどうでもいいけど」
「どうでもいいの?」
「うん。想像もできないようなお金だし」
「楓のことなんとも思ってないは絶対ないと思うよ。というか、週六で人のこと振り回しといて、私一学期楓と全然遊べなかったじゃん。責任取ってもらわないと」
「責任って、ダンジョン行くのは授業なわけだし」
「とりあえず、花火大会の誘い方だけど」
「誘うんだ」
「勇気出すんでしょ」
「うん」
「先輩と花火行きたくない?」
「行きたいけど、別に花火じゃなくていいかな。先輩といられるならどこでも」
「どこでも良かったら誘えないでしょ。花火大会って限定にしないと誘いにくいでしょ?」
「成程」
「まあ、花火大会行きませんかでいっか」
「いいの?」
「でも皐月先輩日本にいないかもしれないのか」
「うん。急な呼び出し多いから。あと夏休みだからA級ハンターの付き添いとか行かなきゃならないんだって」
「まあ瞬間移動でどこでも行けるんだもんね」
「うん」
「でもとりあえず、八月一日約束だけしといて、ダメだったら、私とかのんと行こ」
「うん」
「断られるのが怖い?」
「うん」
「まあそりゃそうだよね。自分からそんなこと言ったことないんだもんね」
「うん」
「やめてもいいよ」
「え?」
「だって別に先輩と花火大会デートしたいわけじゃないんでしょ?」
「うん」
「でも楓は皐月先輩の彼女になりたいんでしょ?」
「うん。なりたい、です」
「先輩から言ってくれるの待つ?」
「え?」
「だって楓から言わないってことは、先輩に言ってもらえないと付き合うなんてできないでしょ?」
「うん」
「そんな顔しないー」
「え、どんな顔?」
「耳垂れ下がったしょぼしょぼワンちゃん。モップみたいな」
「モップ」
「まあ、夏休み最大のイベントは花火大会での浴衣回と海での水着回って相場が決まってるけど」
「水着なんて絶対無理だよ」
「うん。わかってる。大丈夫水着には絶対させないから。あとは水族館デートか、大きな水槽でイルカ見るやつ」
「ダンジョンで珍しいモンスター見慣れてる人がイルカ見て喜ぶかなぁ」
「なさそう。そもそも、花火も先輩全然刺さらないんじゃないの」
「多分」
「世界中行ってるわけだよね」
「うん」
「海もしょっちゅう見てるわけだよね」
「多分」
「でも楓とは行ってないわけで」
「うん」
「その新鮮さをアピールしていくしかないんじゃない」
「新鮮?」
「あ、でもわかんないね。皐月先輩って相当変わってるわけじゃない?」
「うん」
「どんな女の子が好きかすら考えたら知らないよね」
「うん。全然知らない」
「歴代彼女も知らないし」
「知らない。ピザとハンバーガーが好きなことくらいしか知らない。あとダンジョンが大好き。大好きっていうか、好きすぎて、もう大好きのレベル超えてて、大好きの上って何て言ったらいいの?」
「死ぬほど好き?死んじゃうくらい好き?好きすぎてもう死んじゃう」
合ってる。
だって好きすぎて先輩ダンジョンで死にたいんだもん。
勝てない。
「そもそも先輩人を好きになれるのかね?」
「え?」
「あれだけ全てにおいて凄いとさ、そういう感情他人に持てなくないかな。だってどんな人間も自分以下なわけじゃない」
「そうかな。先輩は割と普通だと思うけど」
「そうなの?」
「うん。上手く説明できないけど、あると思う。普通に愛情とか友情とか気持ちが」
だってあんなにダンジョンが大好きな人が愛情深くなくて誰が愛情深いというのでしょうか。
先輩はちゃんと思い入れを持てる人だから、誰のことも好きになれないのは違うと思う。
あと楽しいがわかってる人。
楽しみたいって思ってる人。
前向きなんだろうな、先輩。
ダンジョンを遊びつくしたいってのはそういうことだもんね。
ちゃんと自分を幸せにしようとしてる。
なんていうか、先輩元気だ。
嬉しい。
元気いっぱいな先輩が好き。
先輩が好き。
大好き。
いつも見ていたい。
いつも考えていたい。
私の、先輩を。
「楓が言うならそうなんだろね」
「そう?」
「うん。だって、四月から誰よりも長い時間を共にしてるのは楓でしょ?週六で一緒にいたんだし」
「そうかな」
「そうだよ。だって私の知ってる皐月先輩はこう、本当の皐月先輩じゃないもん」
「本当の皐月先輩?」
「そう。楓経由で知った情報を私なりに解釈した皐月先輩だもん。本当の皐月先輩じゃないよ。でも楓は違うでしょ。本当に触れ合った皐月先輩じゃん」
「うん」
「楓が知ってる皐月先輩は、なんていうか、私達の知ってる皐月先輩とは違うでしょ。だから好きなんでしょ?」
「うん。先輩は、その、えっと、優しい人だよ」
「そっか。そうなんだ」
「うん」
「勇気出せって言ったけど、、楓のペースでいんじゃない」
「私の?」
「うん」
「夏のイベントとか気にしなくていいよ。楓が言いたくなったら言えばいいし、言いたくないならもう言わなくていいよ」
「でもそうしたら一生言えないかも」
「大丈夫。秋には文化祭があって、ハロウィンがあって、それを超えるとクリスマス、そして初詣デートがある」
「大分先送り」
「なんならバレンタインって手もある。卒業式までの最後にして最大のイベント」
「バレンタインかぁ」
「ここで相手が決まる」
「そうなんだ」
「ま、あれよ、まだ時間あるし、先輩は忙しいし、花火大会は女子三人で、楽しみますか?」
「うん」




