48 この恋の進捗状況を述べよ
「この恋の進捗状況を述べよ」
「え、何それ」
そんな問題ある?
「皐月先輩とどうなってんの?私とかのんに報告することない?」
「え、何にもないよ」
「ホントに?」
「うん」
「夏休みなのに?何にも起きてないの?」
「うん。夏休みになってから先輩忙しすぎて一回も一緒にダンジョン行ってないし。毎日恵美ちゃんと一緒だったでしょ、朝から夜までずっと」
「そういやそうね」
「うん」
夏休みが始まって一週間がたちました。
私達一年生は特別演習があるため夏休みも実家には帰りません。
特別演習といってもお休みはあるので、今日かのんちゃんは推しの速水選手が出る日本での最後のオールスターゲームのため張り切って朝から埼玉まで出かけていきました。
私と恵美ちゃんは夏休みの宿題をしながら恵美ちゃんの大好きな声優さんが出ているアメリカのホラー映画の吹き替え版を見ています。
嘘です。
怖そうなので二人とも見ていません。
聞いていますが正しいです。
あ、主人公ビンタされた。
英語でビンタって何て言うんだろ。
どうやら八股かけていたのがばれてしまったようです。
なんて悪い人。
「つまり一週間放置されていると」
「放置って」
「放置でしょ」
「放置って、えっと、普通じゃないのかな。あの、私と先輩って先輩と後輩でしかないわけで」
「夏休みになる前は毎日のようにダンジョンに連れまわしていたのにー」
「えっと、連絡はしてくれるんだよ。今日も朝してくれたし」
「ちなみにどれくらいの頻度で?」
「え、毎日二回くらい」
「付き合ってもいないのに?」
「え、でも普通だよ。何にも、なんていうか、業務連絡?みたいな」
「え、例えばどんなの?」
「今メキシコのカンクンとか」
「メキシコにいるんだ」
「うん、あ、もういないけど」
「でもビーチじゃないでしょ?ダンジョン行っただけでしょ?」
「うん。あ、今日は徳島のつるぎ町にいるんだって。昨日は淡路島だった」
「ようは今ここのダンジョンにいますよって教えてくれているわけだ」
「うん」
「ごめん、よく考えたら私特定の男子と連絡とりあったりしたことなんかないや。今ここにいるって連絡してくるのがどういう意味があるのかわからない。どういう心理でするのかも」
「私もわかんない。でもすっごく嬉しい」
「嬉しんだ?」
「うん。先輩が送ってくれた文字見てるだけで嬉しい」
「好きだとそうなるんだ」
「うん。なんか文字まで違って見えちゃう。あのかっこいい声が聞こえてきちゃうの」
「ほえー」
「えー」
「付き合ったことないからわかんないけどさ、付き合ったら夏休み何するんだろうね?」
「デート?」
「楓は毎日デートしてるようなもんだから、もう、皐月先輩と付き合ったとして今更初デート、なんて思えるの?」
「二人で出かけたらそれはもう世間ではデート認定なのかな?」
「二人きりならデートでしょ?例えそれがダンジョンであっても」
「そっか。じゃあもうデート済ってことでよろしいですか?」
「よろしいよ。でも楓のことだからダンジョン以外行ったら感動するんじゃないの?多分」
「そうかな?」
「でも好きな人の私服イベントも終わらせてるから、初デートの感動はもうないのか、楓は」
「私服イベント」
「あるでしょ、だって同じ学校なら普段は制服姿しか見たことないわけだから、ドキドキ私服デートイベがあるでしょ。初デートには」
「あるんだろうね」
「もうあれか、ドキドキ浴衣デートするしかないか」
「浴衣?寮に持ってきてないよ」
「取りに帰ったらいいでしょ。花火大会デートは夏休みの鉄板イベントでしょ。少なくとも二次元ではそうだから」
「確かに絶対あるよね。花火見に行くイベント」
「あるね。ここでフラグがバキバキに折られるわけだ」
「折れちゃうの?」
「メインヒロイン以外のね」
「あー」
「選ばれなかったヒロインが泣く回だからね、花火大会は」
「気づいちゃう回だもんね」
「花火大会誘ってみたら?」
「先輩忙しいから無理じゃないかなぁ」
「私は皐月先輩のことよく知らないけど、楓への対応を見るに、これを二次元感覚で捉えると、皐月先輩も楓のこと特別に思ってると思うんだよね。それが彼女にしたいのかはわからないけど。間違いなく先輩の中にはいるよ、楓は」
「えっと、うーんと」
「現実の男ってわかんないよね。これが二次元なら間違いなく先輩は楓が好きだと思う。でも皐月先輩は現実だし、こう、普通の人じゃないし、わかんない。でも二次元の高スペック最強男子だって普通に人を好きになったりするわけだから、でも皐月先輩は二次元男子超えてるとこあるから、わかんない。ごめん。何言ってるか私もわかんなくなってきた」
「あ、うん。なんとなくわかるよ。恵美ちゃんが言いたいこと」
「うん」
皐月先輩はひょっとしたら花火大会とか一度も行ったことないかもしれない。
でもダンジョンより楽しませることできるかな、花火見て先輩喜んでくれるかな。
ダンジョンを超えないと先輩の一番にはなれない、きっと。
ダンジョンを超える面白さってなんだろう?
やっぱりダンジョンをもっと理解しないと駄目なんだ。
おこがましいけど、一方通行だけど、勝手にライバル認定だし。
「恵美ちゃん、この世の面白いことって何があるかな?」
「アニメ、漫画、ゲーム、声優、遊園地、あとなんだろ、美味しいもの?」
「そうだよね、そうなんだよね」
「かのんがいたら、それに野球が入るのかな」
「そうだね。野球は見るのもするのも楽しいよね」
「ようはエンタメと食べるものがあれば生きていけるよね、人間って」
「エンタメと食べるもの」
「楽しみと栄養」
「あー。そっか」
「楽しみは栄養でもあるからね、エンタメは分厚い点滴」
「うん」
「でも皐月先輩は困っちゃうよね」
「え?」
「だってダンジョンが一番楽しい人なわけでしょ?仕事が一番っていうか、好きなことを仕事にしてるっていうか」
「うん」
「でも大丈夫。楓にはダンジョンには絶対にないものがある」
「あるの?」
「うん」
「えっと、ホントにある?」
「あるよ。まず、可愛い。思い切り抱きしめたくなる体のサイズ。白くてつやつやすべすべのほっぺた。サラサラの黒髪。愛くるしい表情。現実の女子にしか出せない声。ダンジョンには絶対ないよ。これを全面的にアピールしていくしかないよ。楓のつよつよポイント」
「ダンジョンには可愛いモンスターいっぱいいるよ。綺麗なお姉さんもいっぱい。ろくろ首さんとかすっごい美人だった」
「美人なうえにモンスターって強いもんね。皐月先輩ひょっとして本当は人間に興味なくて、異類婚姻譚しちゃうかもしれない人?」
「あり得ないとは言い切れないかも」
「そうだよね。あれだけの人だから、人間にこだわる必要ないもんね。人間の女子と遊ぶだけ遊んで最終的には最強モンスターと結婚して最強の遺伝子残すことを選ぶかも。ダンジョンという名のお城に住んで、ハンター辞めて、ラスボスになるのかも、この世界の」
「あるかも」
というより、それ一回くらい見たいかも。
ラスボスアルティメット皐月燐音。
黒い羽ばさーってでてくるやつ。
やっぱり先輩分裂して。
二百通りくらいの先輩の未来見たい私。
「先輩自分よりでっかい三メートルくらいある女子と結婚するんじゃ。大きい人って小さい女子どう見えてるんだろね」
「さあ、わかんない」
「指人形くらいに見えてるのかな」
「そんなにちっさくないよー」
「まあそうだけど、あんだけでかいとね」
「うーん」
「楓はさぁ、八人のうちの一人でいいの?」
「え?」
「八人いる彼女の一人でいいの?」
「嫌だよ」
「おー」
「おーって」
「楓のことだから、自分のこと卑下して、二百八番目でいいとか言いだしそうだから」
「二百八番目って、もうそれ、ただの知り合いなんじゃ」
「一番じゃなきゃダメなんだ?」
「ダメ、でしょ、好きな人は一人だよ」
「推しは何人かいてもいいけどね。大好きがいっぱい」
「八人も彼女いたってことは八人平等に好きだったのかな」
今見ている映画の話です。
主人公と因習的な村に行くのは八人の彼女のうちの一人です。
彼女はどうやら主人公を許したみたいです。
たった一度のやっぱり君が一番だよで。
「まあ、マメな男だよね。八人にこまめに連絡するのめんどくさくないんだから。会うのは大変だっただろね」
「八人はね」
「八人のうちの一人じゃなくてたった一人になりたいのなら、頑張るしかないね、一生懸命」
「頑張る?」
「そう。ダンジョンにないものを見せつけていくしかないよ」
「ダンジョンには何でもあるよ。可愛いも綺麗も美味しいも。ダンジョンにないものなんてないもん」
「絶対にあるよ」
「ある?」
「あると思う」
「そうかなぁ」
「大丈夫。ダンジョンで結婚はできるけど、ダンジョンとは結婚できないよ」
「うーん」
「でも私先輩楓のこと好きだと思うんだよねー」
「え、なんで?」
「なんとなく」
「なんとなく?」
「私が楓を好きだからそう思うのかな?」
「そうじゃない」
「そっか、私が皐月先輩なら楓を選ぶ」
「ありがと」
「でも皐月先輩私じゃないからなー」
「そうだね」
「まあ、楓選ばなかったら趣味の悪いおとこーって一生蔑んでやろ」
「えー」
「まあ兎に角、次皐月先輩に会えたらちょっと勇気出してみよ」
「勇気」
「そ、何事も大事なのは勇気。前に進む勇気」
「勇気かー」
「そうそう。勇気があったら何でもできる」
「そうだね」
「はい。では、この恋を進展させるため貴方が何をするか述べよ」
「勇気を出します」
「はい、それ正解、じゃ、アイス食べよ」
「うん」




