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46 がしゃどくろの森を抜けて

喫茶地獄を出て少し歩くと細い道が十本に分かれていました。


「地獄の分かれ道だよ」


「はぁ」


普通は左へ行くか右へ行くかで天国と地獄に分かれているんじゃ。

地獄にも種類があるってこと?


「大丈夫、どの道を選んでも行きつく先は、がしゃどくろの森だから」


「がしゃどくろ、大きな骸骨の妖怪ですよね?」


「うん」


「わー。がしゃどくろ見られるんですね」


「楓見たいの?」


「はい」


「楓モンスター好きだよね?」


「そうかもしれないです。モンスター図鑑見てるの大好きなので」


「そっか。それなら良かった。ダンジョンにはモンスターとハンターしかいないからね」


「そうですね」


「まだまだいっぱいモンスター見せてあげるね」


「はい」


「くうちゃん、七つ目の道がいい。ラッキーセブン」


「じゃあそうしよっか。がしゃどくろの森を抜けると地獄の葡萄園があるから」


「お姉ちゃん、手ぇ、つなご」


「うん」


何もない一本道を歩いていると空から何か降ってきました。

運動会の大玉転がしで使う球のような大きさです。

球には目があり口があり鼻があり、お鬚まで生えています。


「つるべ落としです」


「よく知ってるね」


「はい。図鑑で見ました」


大きな目がこちらをぎろりと睨みます。

ぎゃ。


「お姉ちゃん。くうちゃんこわーい」


道は完全に塞がれています。

つるべ落としさんは動く気配はなくこちらをずっと見ています。


「どうするんですか?」


「え、ああ。こうするんだよ」


先輩が右手でデコピンをするとつるべ落としさんは跡形もなく消えてしまいました。


「大丈夫。上に戻っただけだから。また時間がたったら落ちてくるよ。つるべ落としは落ちてきたいだけで、攻撃はしてこないから。ちょっとの衝撃で元に戻っていく」


「そうなんですか」


先輩のデコピン世界で一番威力ありそう。

痛くなさそうに見えるけど、絶対痛い。

世界最強ハンターが繰り出す究極のデコピン。


「うん。つるべ落としは驚かせたいだけだから。楓びっくりした?」


「いえ、そんなには」


「そうみたいだね。ここはつるべ落としルートだね」


「別の道を行くと違うモンスターが出るんですか?」


「そうだよ。のっぺらぼうとか、髪切りとか」


のっぺらぼうは怖くなさそうだけど、勝手に髪の毛切っていっちゃう妖怪髪切りは怖い。

サイレントキリング。


「くうちゃんこの髪型が一番似合ってるから髪切りやーやーなの」


私も嫌。

だって絶対ショート似合わないもん。

この肩くらいの長さが一番好き。


「先輩は十本の道全部通ったんですか?」


「うん。もちろん」


「髪切り大丈夫でした?」


「うん。だって、髪切られる前に俺は倒しちゃうから」


「そうですよね」


長い長い一本道の先に鬱蒼とした森がありました。

入ったら二度と出てこれなさそうな、陰鬱な気配を放っています。

一人だったら絶対入らない。

何があろうとも全力で引き返す。


「大丈夫。怖くないよ」


「はい」


がしゃどくろはてっきり上から降ってくるのかと思っていましたが、森の中に普通に待機していました。

おっきい。

なんか森と同化してるみたい。

大きさに目をつぶれば結構うまく隠れているんじゃ。


「大丈夫。こっちが何か仕掛けない限り何もしてこないよ」


「そうなんですか」


「じゃあくうちゃん凍らせたりしないね」


「今日はそうしといて」


がしゃどくろの森は拍子抜けするくらい簡単に出ることができました。


「地獄ファームはすぐそこだよ」


「地獄ファーム」


なんだろう、あんなに食べたのにもうお腹すいてる。

これが地獄胃袋。

強い。


地獄ファームは見た目は普通の果樹園で紫の葡萄がたわわに実っています。

粒は大きめ、色は普通に紫色です。


「おいしそー。お姉ちゃん抱っこ」


「あ、はいはい」


私がくうちゃんを抱っこするとくうちゃんは葡萄を一房手にし大きな一粒をお口に放り込みます。


「おいしー。お姉ちゃんも、ほら」


くうちゃんが私の口に大きな一粒を放り込んでくれます。


「美味しい」


「ねー」


「すっごく美味しい」


「良かったね。いっぱい食べて。食べないとこのダンジョン死ぬかもしれないから。お腹、すいてるでしょ?」


「あ、はい」


私達は地獄葡萄をたらふく食べた後は、お隣の地獄ファームで地獄さくらんぼを食べ、地獄苺を食べました。

葡萄もさくらんぼも苺も今まで食べた中でダントツに美味しかったです。

間違いなく一生分食べました。

何も起こることなく、楽しく美味しいまま、地獄での時間は過ぎてゆきました。


「そろそろ外出よっか?」


「はい」


「くうちゃんまだお姉ちゃんと一緒にいたいー」


「駄目だよ。もうすぐ逢魔が時だから」


逢魔が時って確か夕方の五時から七時だよね。


「逢魔が時って何かあるんですか?」


「モンスターが強くなって、地獄らしくなるだけだよ」


「そうですか」


「地獄ファームと喫茶地獄がしまっちゃって食べ物の確保が難しくなるから帰っといた方がいいんだよ。お腹すくスピードどんどん上がっていくから、食べ続けてないと死んじゃうこともあるし」

 

無限飲食地獄。

それは怖い。

やっぱりダンジョンって命がけなんだ。

それより外に出て私ぽちゃぽちゃになってたりしないかな。

それだけが心配。


「はい。帰りましょう」


「くうちゃんも一緒にいくー」


「はいはい。じゃあくうちゃんも俺につかまって」


一気に暑くなりました。

ダンジョンの外に出たようです。

日本の夏暑すぎる。


「うーん、この空気。くうちゃんやっぱりお外きらいー」


「うん。暑いねー」


「夏だからね」


先輩は涼しそう。

いつも見ても、いかなるときも、かっこいい。

一句できた、先輩って凄い。

先輩がいたら私詩とか書けちゃうかも。

シェイクスピアみたいな。


目の前には木造の廃校。

大きな木が倒れてきて、屋根に突き刺さったままになっています。

夜になったら何もしなくても肝試しできそう。


「あの、ここが地獄の入り口ですか?」


「そうだよ、この廃校の中がダンジョンになってる」


ダンジョンって本当に凄い。

この中妖怪ワンダーランドになってるんだもんね。

電車まで通ってるんだから。

貉だったけど。


「お姉ちゃん。くうちゃんC級ダンジョンかB級ダンジョンにいつでもいるからまた遊ぼうね」


「うん」


「ぎゅってして」


「うん」


私はくうちゃんを抱っこして抱きしめます。

凄い、全然暑くない、むしろ涼しい。

信じられない清涼感。

夏場には最高の能力。


「じゃあ帰るね。お姉ちゃん見て」


「え?」


くうちゃんが私の手を離れくるりと回りジャンプし、空を指さすと、空から花弁が降ってきました。

よく見ると花は凍っています。

水色、黄色、赤、紫、ピンク、オレンジ色の氷の花が空を舞っています。


「くうちゃんすごいでしょー」


「うん。きれー。くうちゃん凄い」


「また会おうね、お姉ちゃん」


「うん。また会おうね。今日はとっても楽しかった。くうちゃん、気を付けて帰ってね」


「うん。じゃあお兄ちゃんもバイバーイ」


あ、消えた。


「楓、上見て」


「え?」


私は空を見上げました。

空が氷の花で覆われています。


すごい。

信じられない。

こんなの見たことない。

どういえばいいのかわからない。

きっと人に話しても信じてもらえない。

最適な言葉が見当たらない。

でも、とても綺麗。

夢の中にいるみたい。

夢で見た景色みたい。

ううん。

夢ですら見られないかも。

広大な空が見渡す限り、氷の花に覆い隠されているなんて。


「俺はね、この目で見たモンスターの能力を自分のものにできるんだよね」


「そうなんですか、凄いです。え」


モンスターの能力。


「あの、先輩、くうちゃんって」


「くうちゃんはジャックフロストだよ」


「え、モンスターだったんですか」


強い子供ハンターじゃなかったんだ。


「そうだよ。ジャックフロストはC級ダンジョンかB級ダンジョンにいるモンスターで、ああやって、可愛い子供の姿になって人に甘えるんだよ」


「そうだったんですか。図鑑では雪だるまの姿でした」


「分身していろんなダンジョンに現れるからいつでも会いたかったら会えるよ」


「そうですか。また会いたいです」


氷の花が空から降ってきました。

くうちゃんがしてみせてくれた可愛らしいものではなく、氷の花の、洪水、になりました。

私が氷の花に埋もれるところを先輩が引き揚げます。


「ごめんごめん。初めてだと加減がわからなくて」


「いえ、大丈夫です。先輩でも加減がわからないなんてあるんですね」


「まあ初めてやるときはそうだね」


そっか。

なんか感動。

先輩もそうなんだ。


「ごめんね、冷たかった?」


「いえ、涼しくてちょうどいいです」


「もうちょっとこのままでいてもいい?」


先輩は私をお姫様抱っこしてくれています。

私も今なんだかこのままでいたいです。


「はい。今自分の足で歩きたくないです」


「ははっ。じゃあこのまま帰るね」


「はい」


先輩が歩くと氷の花が道を作っていきます。

ここで一句。

先輩は、何をしてても、王子様。


「俺は人間よりモンスターに近いんだろうね」


「そうですか?」


「うん。俺は多分人間よりモンスターの方が向いてるんだと思うよ」


「それなら私何にもできないから人間向いてないかもしれないです」


「何にもできなくないでしょ」


「食べるくらいしかできてない気がします」


「それだけでいいでしょ」


「でも人間でいたいです。人間の方がきっと楽しいです」


「そう?」


「はい。だってモンスターならハンターに倒されちゃうかもしれないし」


「俺は楓がモンスターなら可愛いから倒さないよ」


またそういうこという。

先輩は、調子が良くて、困ります。

またできた。

先輩が四文字だから無限にできるかも。


「楓がモンスターならちゃんと持って帰ってずっとだい」


先輩が立ち止まります。

先輩、心だけ異世界に飛ばしちゃったみたいな顔をしています。


「せ、先輩。あ、あついですね」


「うん。あついね」


嘘。

先輩ちっとも暑くない。


夏と逢魔が時が私に見せた夢?

ならどこから?

先輩と出逢ったところから?

そうかもしれない。

だってあの日からずっと想像もできなかった楽しさが続いている。


多くは望まないからこの人が見える世界にいつまでもいられますように。


嘘です。

嘘を言いました。

この人に選ばれたいです、私。


でも今日持って帰ってもいいって言ってくれたからそれだけで満足すべきなんだろうけど、違う、これじゃない。

私、先輩に私のこと。

やめておこう、図々しい、それに万が一叶った時、その時私冷静に人間でいられるのかな。

だってとてつもないことだよね。

好きな人に、自分のこと好きになってもらうのって。

想像もできない。

どんな気持ちになるんだろう。

たった一人の人と同じ気持ちになるって。

途方もない。

でもこれだけはわかる。

それは幸せ。


今はこの氷の花に思い切り酔いしれよう。


空が少しづつ見えてきました。

白い雲が広がり、青色はもう今日の出番を終えたようです。


夏休み、先輩と楽しい思い出ができますように。

今はとりあえず、これだけ。











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