表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/44

43 可愛くて弱いから好き

電車が止まりました。

終点なので降りなければなりません。

先輩起こさないと。


「先輩、起きてください。終点です」


先輩がゆっくりと瞳を開きます。

美しき緑色の帰還。

寝起きだからかな、先輩なんか蜃気楼みたい。

いやいや、いるよね、先輩は。


「降りよ」


先輩は立ち上がり電車を降ります。

私はくうちゃんと手をつないで降りました。

振り返ると電車が消えています。

え?

あれ、なんで?


「先輩電車」


「ああ、あれ、貉が化けてただけだから」


「むじな?」


「モンスターだよ。ほら、あそこ」


先輩の視線の先には灰色で二足歩行の狸に似た生き物がいました。

花柄の赤い長襦袢を羽織っています。


「えっと、あの、子、が化けていたんですか?」


「そうだよ」


「そうだったんですか」


妖怪電車だったんだ。

凄いものに乗ってきたんだなぁ。

もっと噛みしめておけば良かった。

でもどう見てもただの電車だったもん。


「あ、そういえば先輩。ここジゴクって」


「うん。ジゴクだよ」


「ヘルですか?」


「ヘルだね」


「インフェルノですか?」


先輩が噴き出します。

笑ってもらえるなら何でもいいや。

先輩元気ってことだもんね。


「ははっ。そうそう、インフェルノだよ」


「ハデス」


「そうそう、ハデスだね」


「アビス」


「いっぱいあるね」


「パラダイスじゃないわけですね」


「極楽ではないね」


「ヘブン」


「ははっ。地獄より天国の方がいい?」


「できれば」


先輩がいるならどっちでもいいけど。


「お姉ちゃん抱っこー」


「あ、はいはい」


私はくうちゃんを両手で抱っこします。


「お姉ちゃん可愛くて弱いから好き」


「あ、ありがとう」


褒められたけど、けなされたのでプラマイゼロでは?

でも事実。

ホントに弱いし。

私地球上の現存するハンターで最弱なんじゃ。

何とかしないと、うーん。


「お兄ちゃんかっこいいけど強いから嫌い」


「ははっ、ありがと。まあどっちもやめられないから嫌われてもしょうがないかなぁ」


うん。

しょうがない。

先輩がかっこよくて強いのはこの世の摂理だから。

朝のおはようございますより日常だから。


「お前も一緒に行くの?」


先輩がくうちゃんの頭を大きな右手でわしわしします。


「お前じゃないの。くうちゃんだもん」


「じゃ、くうちゃんも一緒に行く?」


「行くよー。今日はずっとお姉ちゃんと一緒なの」


「じゃあ三人で地獄めぐりと行きますか?」


「うん。行こー」


地獄めぐり。

本当に地獄に来ちゃったんだ。

でもダンジョンだから生きては帰れるよね?

え、本物の地獄じゃないよね?

死んじゃうなんてやだー。


「楓、地獄といっても、あれだからね、地獄っぽいダンジョンってだけだから。人間が想像できる地獄。ちなみにここ千葉の浦安だよ」


「はぁ」


夢の国と地獄ダンジョンがあるんだ。

地球ってミステリー。


「まあ地獄要素としてはこのダンジョンはC級ダンジョンなんだけど、それは終点の一個前で降りたらで、終点まで行くとB級ダンジョンになる。つまりここ、この門をくぐったらB級ダンジョン」


いつの間にか駅のホームは消えていて、真っ赤に燃え盛る巨大な門が出現していました。業火で赤く見えるのか、それとも最初から赤だったのか私には見当もつきませんが、え、ここ入るの?


「俺がいるから大丈夫だよ」


「はい」


そうだった。

どんなダンジョンでも先輩がいれば無敵なんだ。

この世で怖いことなんか何もない。

先輩がいれば、先輩さえいれば、何も。


「お姉ちゃん。くうちゃんがいるから火は大丈夫だよ。くうちゃん何でも凍らせられるから」


「そうなんだ」


氷雪系の魔法が得意なのかな。

確かに見た目ひんやり系だもんね。

先輩があくびをします。


「先輩、大丈夫ですか?」


「え?」


「あ、あの、よく眠れました?」


「うん。ごめんね。寝てばっかりで」


「いえ。そんな」


「俺が二人いたらいいんだけど、こればっかりはね」


先輩が二人。

なにそれ最高。

二人は無理だけど、先輩が百人いたら一人くらいは私がもらってもいいかなぁ。

あ、百人じゃ図々しいか。

百万人ならいいかな。

そしたらお家に連れて帰って、おいしいものいっぱい食べさせて、ふかふかのベッドでずっと寝かせてあげられるのに。


「先輩二人になれたりできそうですよね?」


「できるよ」


「できるんですか?」


「ほら」


先輩が二人になりました。

どこからどう見ても同じ人が二人います。

美しい人が世界に二人同時に存在しています。

これは大丈夫なのでしょうか?

この世の理に反しない?

だって世界一が二人いるってことでしょう?


「ね?」


「わー。お兄ちゃん二人だー」


「凄いです先輩」


「でも二人になれるけど、俺の能力一個も使えないから、ただ俺の見た目をした何もできない人間が増えてるだけなんだよね」


「あ、そうなんですか」


それじゃあダンジョンにも行けないから先輩の負担を減らせたり出来ないんだ。


「お兄ちゃん二人だけ?しょぼーい。もっと増やせないの?」


「増やせるよ」


「何人くらいですか?」


「うーん。やったことないけど、多分十億体くらい作れると思う」


百万人とか先輩を過小評価しすぎ。

先輩は普通じゃないの。

何回言ったらわかるの。

もう。


「お兄ちゃん十億もいらないよ。可愛くないもん」


「ははっ。確かに」


何言ってるの。

先輩は世界一可愛いよ。

一生大事にするから一体欲しい。


「お姉ちゃん見て。くうちゃんもできるよ。ほらっ」


くうちゃんが私の腕を離れ、くるりと回ってジャンプすると空から雪だるまが降ってきました。


「わー。くうちゃんすごいねー」


「でしょー。まだまだできるよー」


くうちゃんがジャンプするたび雪だるまが増えていきます。

地獄の門の前に雪だるまが並びます。

どれもとても綺麗なまん丸の雪だるまです。


「二人ともそろそろ行こ」


「うん。お姉ちゃん、くうちゃんが守ってあげるからね。地獄怖くないよ」


「うん。ありがとう」


「お兄ちゃんは自分で頑張るんだよ」


「ははっ。そうだね。お兄ちゃん自分で頑張るよ」
















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ