表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
41/44

40 恋じゃなくても盲目

駅、みたいです。

でも先輩が移動できるということはここはダンジョンということです。


「先輩、ここダンジョンですよね?」


「そうだよ。だから世界一安全だよ」


ダンジョンなら安全ではないんじゃないでしょうか。

でも世界最強が安全って言ってるんだから安全なんだよね。

こんなセリフ先輩しか言えないんだろうな。

先輩が言うなら百正しいよ。

恋じゃなくても盲目。

一生ついてくもん。

地獄だってついてっちゃう。


「電車乗ろ」


「あ、はい」


先輩は止まっていた電車に乗りこみます。

見たところ普通の電車と変わりません。

少なくとも目で見える範囲は私の知っている電車です。


「窓際でいい?」


「はい」


私は窓際に座り、先輩はその隣に腰を下ろします。

向かいには今のところ誰も座っていません。


「ごめん。ちょっと寝るね」


「あ、はい」


「今日も二時くらいに島根に行ってさ、帰ってきたの五時過ぎてたからあんまり寝てないんだよね。ごめんだけど、寝るね。終点まで乗ってて」


「はい」


そうだったんだ。

え、昨日福井で今日の朝まで島根?

先輩働きすぎなんじゃ。

先輩絶対疲れてるよね。

疲労困憊だよね。

少し眠るくらいで体力回復するのかな。

え、それなのにこんなにかっこいいの?

なんで顔のコンディション自己最高なの?

なんかもう全てが間違っている気がしてきた。

私が住んでるの地球で合ってる?


「ごめんね。最近S級ダンジョン頻発しててさ、S級ダンジョンのバーゲンセール。もうそのうち今のS級がA級プラスに格下げになってS級もダブルエスとかトリプルエスとか言い出しそう」


「確かに多いですよね」


「うん。ひょっとしてもう終わるのかな。ダンジョン。出尽くしたのかも」


「え?」


「まさかね。でも新しいダンジョンできなくなったらどうなるんだろうね」


「そう、ですね」


「まぁ考えても仕方ないか。ごめん。寝るね」


「はい。あの、眠れます?寮帰った方がよくないですか?」


この座席後ろに倒せないみたいだし、ベッドで眠った方が絶対いいよね。


「いいよ。楓といたいし」


「そ、そうですか?」


落ち着いて、意味なんてないよ。

大丈夫、私、知っています。


「うん。俺寝ちゃうけど、寝てても自動でモンスターは倒れていくから心配しないで」


あ、そんな心配全然してなかった。

やっぱり先輩の言う通りダンジョン世界一安全かも。


「はい。ゆっくり眠ってください」


「おやすみ」


「おやすみなさい」


先輩は長い脚を組んで瞳を閉じました。

そして本当に眠ってしまったようです。

凄い、一瞬だ。

まるでデバイスがスリープモードに入ったみたい。

先輩は設定された機能のように眠っている。

先輩の身体ってどうなっているんだろ。

どれだけ強くても先輩は人間なんだから、疲れたりするし、身体を維持するためにはご飯を食べなきゃならないし、歯を磨いてお風呂に入って眠ったりしないといけないわけだよね。

先輩は攻撃を受けないと言っても、移動はするわけだよね、ダンジョン内の。

先輩は行ったことのあるダンジョンの中は自由に行きたい階層に行けるみたいだけど、初見のダンジョンはそうじゃないわけで。


先輩はいつも一人で戦ってるんだ。

世界で一人きりで。

先輩は一人しかいないから。

世界最強は世界に二人いないから。

 

それはどれだけの孤独だろう。

先輩は世界にたった一人で、誰にも共感してもらえなくて、誰にも代わってもらえなくて、一人で世界への義務を果たし続けている。

強くなりすぎた責任を一人で払い続けている。

先輩は楽しいと言うけれど、本当にそれだけで頑張り続けられるものなのかな。

まるで息継ぎなしで泳いでいるみたい。

誰にも負けない、誰よりも強い、誰にも倒せない、それってどんな気分なんだろ。

想像もつかない。


私は先輩の美しい横顔を見つめます。

とびっきり綺麗な男の人が静かに音もたてず眠っている、ただそれだけに見えます。

唯一無二の存在は幸福なのか不幸なのか。

自分より強いものがいない世界。

それはきっと何も怖いものがない世界。

誰にも脅かされたりしない。

文字通り無敵。

そんな世界に先輩はいて、そこではいつも一人で、一人に慣れきってしまっていて。

でも先輩はダンジョンがあるから幸せで、ダンジョンがなくなることを恐れていて?

先輩、いつかダンジョンがなくなるって思っているのかな?

先輩はダンジョンの最前線にいるんだから、その体感として近い将来そうなるって予感があるのかな?

だからダンジョンがなくなる前にダンジョンで死にたいのかな。

でも先輩は強すぎてダンジョンでは死ねないわけで。

あ、そっか。

先輩ダンジョンで死ぬわけないんだ。

先輩が死んじゃうようなダンジョンなんてできた暁には私達人類皆間違いなく死んじゃうよね。

だって先輩が勝てないようなダンジョン、世界中のハンターかき集めても無理なわけだし。

なんだ、問題解決。

心配いらない。

私取り残されたりしないんだ。

良かった。

死ぬときは先輩と一緒だ。

それならいい。


先輩お人形さんみたい。

綺麗。

先輩夢を見ているのかな。

夢の中でもダンジョンにいるのかな。

それとも夢の中くらいはダンジョンから離れているのかな。


電車が動き出しました。

ゆっくりゆっくりと。

心地よい微睡に誘うスピードで。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ