39 可愛い、とは?
今日は日曜日ですが先輩とダンジョンに行くためいつものところで待ち合わせをしています。
本来なら今日は日曜日なのでダンジョンに行く日ではないのですが、昨日の土曜日S級ダンジョンが出現したというので急遽先輩は福井へ向かいました。
夕方には帰ってきていたので、今日は日曜日ですが昨日の代わりに一緒にダンジョンに行くことになりました。
先輩に会えるの嬉しいです。
一日会えないだけで寂しくてたまらないので、もし一週間も会えないことになったらと思うと、とても怖いです。
いつの間にか先輩が私の生活に完全に組み込まれているのです。
これが人を好きになるということなのでしょうか。
好きな人というのは生活習慣になるものみたいです。
身をもって初めて知りました。
今先輩を待っているだけで楽しいです。
必ず来てくれるなら一生待っていられるかもしれません。
約束の五分前に先輩は現れました。
ですがいつものジャージ姿ではありません。
黒いTシャツに黒のパンツのオールブラックコーデです。
半袖を着ている先輩初めて見ました。
凄い、地顔が良くなかったら絶対着れない。
先輩神々しい、輝きすぎて、もはや恐怖かも。
いらないものを全てそぎ落とした究極の黒が、金色の髪と緑色の目とパーツの采配に寸分の狂いのない先輩の美貌を極限まで際立たせている。
完成度高すぎる。
なんていうか上手。
流石神様の本気。
もう冗談みたいにかっこいい。
かっこよすぎてなんかもう、笑っていいのか泣いていいのか。
先輩はなにも着飾っていない。
そうなんだよね、本当にかっこいい人はアクセサリーなんていらないんだよね。
だってそれ以上美しくなる必要なんてないんだから。
というより、どんな装飾品も先輩が身に着けたら存在感を示すことはできないもんね。
あー、かっこいい。
もうこのまま時を止めて欲しい。
完璧だ。
一つもかけているところがない。
最高より上って何だろう。
皐月先輩だ。
もう新しい最高の言いかえは皐月でいいよ、綺麗だし。
「おはよう。ごめんね、待った?」
「いいえ、待ってないです。全然待ってないです。お、おはようございます」
「楓今日も可愛いね」
「え、そうでしょうか」
そんなことはないんじゃ。
先輩の中で私は可愛いってことになってるんだ。
先輩の可愛いのハードルかなり低い?
見て不愉快じゃない一定の水準に達していたら可愛い合格?
自分が美しすぎるから、他人の完成度気にならないんだろうな。
人に楽しませてもらう必要が全くないから?
というより先輩にはダンジョンがあるもんね。
人間一人もいらないかも。
先輩の可愛いの基準ってなんだろ?
ひょっとして小さい子は無条件で可愛いに入るのかな。
私先輩の知り合いで一番小さいだろうし。
親戚の子供を可愛いっていう感覚?
うーん、先輩よくわかんない。
あ、あれか、先輩可愛いを小さいって意味で使ってる?
それなら納得。
じゃあ、楓今日も可愛いね、は、楓今日も小さいね、になるわけで。
あれ、そもそも、可愛いってなんだっけ?
どういうときに使うっけ?
一般的なのは先輩に通用しないよね。
先輩はやっぱり人とは発想が違うだろうし。
可愛い、とは?
「先輩可愛いってどういう意味で使ってます?」
「え?」
「先輩の可愛いはどういう意味、ですか?」
「可愛いに意味なんてあるの?可愛いは可愛いでしょ?」
「そうなんですけど」
先輩きょとんて顔してる。
その顔が最高に可愛い。
あ、可愛いは可愛いだ。
意味なんてない。
可愛いは衝動だ。
抑えきれなくて自然に出てしまうものなんだ。
可愛いは溢れる気持ちそのもの。
「可愛いって、え、可愛いは可愛い以外意味あったっけ?俺は知らないけど、ひょっとして今可愛いって他の意味で使うの?」
「あ、いえ、そういうわけではないんですけど」
「可愛いって楓がスライム可愛いとかカワウソ可愛いとかっていうのと同じ可愛いだよ」
「そうですか」
モンスターに可愛いって言うのと同じなら、異性に使う可愛いじゃないんだ。
当たり前か。
図々しい。
じゃあ、特に何にも考えなくていいんだ。
有難くもらっておこ。
そこに意味なんてないんだから。
「楓今日映画見に行こ」
「へ?」
映画?
聞き間違い?
「今日は映画見て、お昼食べて、ダンジョンは行けそうなら行きたいけど、楓が行けなかったら俺一人で行くから、とりあえず映画見よ」
ダンジョン〆のパフェみたいに言うなー、先輩。
あ、先輩の場合は主食か。
ダンジョンは先輩のお米。
「えっと、先輩映画見たいんですか?」
「見たくないよ」
なんですか、そのすがすがしいお顔。
一点の曇りもないよ。
先輩正直。
自分の気持ちに素直。
世界一可愛い。
「えっと、見たくないんですか?」
じゃあなんで?
映画ってどっから出てきたの?
先輩の言う映画ってなんかあれ、ハンター用語?
「楓が見たいのでいいよ」
「えっと、そういわれましても私も今見たい映画なんにもないです」
「ないの?」
「はい。ないですね」
「そっか。じゃあどうしよ」
「ダンジョンに行けばいいんじゃないですか?というより、私と先輩で何で映画を見に行くってことになったんでしょうか?」
「あー、ある、謎を、解く、ため?疑惑?」
「疑惑?」
なにそれ、壮大。
「勇人がダンジョンじゃなく映画に行けっていうから」
「奥村先輩がですか?」
「うん」
「先輩は映画見たいわけじゃないんですよね?」
「うん」
「私も見たいのないです」
「うん」
「あ、あの、もしかして映画見に行かないと解けない呪いとかかけられていたりします?」
「え、しない」
「あの、じゃあ、ダンジョン行きませんか?」
「ダンジョン行っていいの?」
「いいに決まってるじゃないですか。寧ろ私と先輩でダンジョン以外どこ行くんですか。行きましょうダンジョン」
「あ、映画じゃなくても、買い物でもいいんだけど」
「先輩お買い物したいんですか?」
「ううん。今買うものなんにもない」
「じゃあダンジョンでいいんじゃないですか?」
「うん」
「ダンジョン行きたくないんですか?」
「行きたい」
「じゃあ行きましょう。ダンジョン」
「うん。ダンジョン行こ」
「はい」
あ、でも。
「先輩、謎、えっと疑惑はいいんですか?」
「うん。もういい。もう目的果たした。わかったし」
「そうですか」
なんだったんだろ。
あ、映画館行こうと思ってたからいつもみたいにジャージじゃなかったんだ。
別にジャージでもいいのに。
奥村先輩に言われたのかな。
まあなんにせよ、目がとても幸せです。
本当にかっこいいなこの人。
キラキラしてる。
朝日よりずっと眩しいよ。
先輩が私を片手で抱き抱え、私を見上げます。
今先輩より私の方が高いところにいます。
なんて不思議。
これが現実の出来事というのが信じられないです。
この美しい人が私を見つめているだなんて。
恐らく三千年後の人類に言っても信じてもらえないでしょう。
こんな綺麗な人が実在しただなんて。
それも世界一強いだなんて。
「じゃあ行こ。今日は電車に乗ろうね」
「電車?」
「うん。電車」




