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36 スーパーヒーロー

ここはどこでしょうか?

私は皆とトロッコを探し地下ダンジョンを歩いていたはずです。

暗闇に包まれ、気が付けば、見たこともない山の中みたいです。

見上げた空はとても青いです。

ここはダンジョンの中なのでしょうか。

それともダンジョンから追い出され、どこかの山の中に飛ばされてしまったのでしょうか。

ダンジョンなら転移石は使えますが、ただの山の中なら転移石は使えません。

そうなると自力で下山するしかないわけで、どうしよう。


「佐藤さん」


「あ、三崎君」


振り返ると三崎君がいました。

小柄で目がぱっちりと大きくて可愛らしさと儚さが上手く同居した三崎君はダンジョンの妖精さんにも見えます。


「大丈夫?」


「うん。三崎君。ここダンジョンの中、で、あってる?」


「うん。あっちに動き止められた落ち武者いたからダンジョンだと思う」


「落ち武者?」


ちょっと見てみたい。


「佐藤さん、見たい?」


「見たい」


「じゃあ、見てから出よっか?」


「うん」


「あ、でもあれだよ、頭に矢刺さってるとかじゃなくて、和風なスケルトンって感じのやつだよ」


「あ、うん。何でもいい。モンスター見たい」


ダンジョンの中ということは転移石使えるもんね。

良かった、脱出できるんだ。


「えっと、本物の三崎君だよね?」


ここはダンジョンなので今更ですが聞いてみます。


「うん。証明しようがないけど。合言葉とか決めておけば良かったね」


突然風が吹きました。

その風はとても美しい姿となって、私の目の前に立っています。


「あれ、楓、なんでいるの?ここダンジョンだよ」


「皐月先輩」


私と先輩には人一人挟んだくらいの距離があります。

私は先輩を見上げます。

何でしょう。

近くにいるのに遮るものは何もないのに美術館に飾ってある絵をガラス越しに見ている気分です。

風が先輩を運んできてくれたんでしょうか。

それとも先輩がその身に風をまとっていただけでしょうか。

どちらにせよ、目の前の先輩がとても美しいことに何の変りもありません。

この世の全てがどれだけ変わろうとも先輩だけはずっと美しいと思います。

きっとずっとそうです。

だってそれは覆りようのない私が知った世界の真実だからです。


「校外学習じゃなかったの?」


「あ、時間余ったので皆でダンジョンに行ってみようと」


「そっちの子は?」


「あ、同じ班の三崎君です」


「みさきくん?」


「三崎彰です。初めまして。皐月先輩」


三崎君がぺこりと頭を下げる。

小さな頭がとても可憐です。

先輩も佐倉君も筧君も大きいので三崎君を見てるとなんだかほわほわとした気持ちになります。


「どっちも名前みたいだね」


皐月先輩こそ。


「先輩本物ですよね?」


「俺の偽物なんているの?」


「あ、いえ、あの、私が見てる幻覚かと」


「俺を作り出せる幻覚なんてありえないよ。本物だよ」


「そうですよね」


あまりに自分にとって都合が良すぎるのと、ここはダンジョンなので一応聞いてみましたが、先輩が幻覚だとは私も思いませんでした。

だってこんな最高で最強な幻覚が誰かによって作り出せるとは思えないからです。

先輩、やっと顔が見れた。

嬉しい。

今日も信じられないくらいかっこいい。

やっぱり一生見ていたい。


「まぁいいや。脱出するから二人ともつかまって」


「え、あ、はい」


私は先輩のジャージをつかみます。

学院指定のってことは先輩は体育の授業を抜け出してダンジョンに来たのでしょうか。

でも、D級ダンジョンに先輩が?

なんで?


「あ、三崎君も、先輩のジャージ掴んで」


「あ、うん。失礼します」


かえでーという恵美ちゃんの声がしました。

ダンジョンの入り口に戻ったようです。

恵美ちゃんとかのんちゃんが抱きしめてくれました。

筧君と佐倉君もいます。

皐月さんと黒ぶち眼鏡をかけた長身の黒いパンツスーツ姿のお団子頭の女性が先輩に声を掛けます。

ハンター協会の鈴木さんと先輩が私に教えてくれたので、とりあえず頭を下げました。


「そちらが皐月さんの?」


「はい。佐藤楓さんです」


「そうですか。中はどうでした?」


「ボスを倒しただけで出てきたので、まだ何とも。もう一回入ります」


「ボスはどうでした?」


「A級というには弱いんじゃないかと。あ、でもわかんないです。俺の体感なので」


「そうですね。皐月さんからしたらS級ボスでも弱いですもんね」


「はい」


「もう中に人はいないんですね?」


「気配はなかったです」


「ではもう一度お願いします」


「はい」


先輩また中に入るんだ。

何かあったのかな。


「じゃあ皆気を付けて帰って」


先輩が背を向けます。

あ、いっちゃう。


「あ、先輩」


先輩が振り返ります。

その水の雫のような表情からは先輩が何を考えているのかわかりません。

緑の瞳はとても綺麗で宝石と見つめあっているみたいです。

どうやったらこんな美しい色になるのでしょうか。

先輩こそ百万年前の宝物庫から今出てきたみたいです。

一億年たっても先輩が一番綺麗。


「あの、頑張ってください」


先輩が笑います。

おかしくてたまらない、笑うのこらえられないみたいな笑い方です。

そんなに笑うようなことかな?

やっぱり笑うところ人と違うんだ。

あ、私、呼び止めてまでいうには頑張ってくださいとか気が利かなさ過ぎだよね。

でも他になんて言ったらいいの?

あ、時間無駄にしちゃった、どうしよう、申し訳ない。


「ありがと、楓。元気出た。もうちょっと頑張ってくるね。寄り道せず帰るんだよ」


「あ、はい」


「また明日ね」


先輩は背を向け走り出し、私達の目の前から一瞬で消えてしまいました。


「あ、先輩消えたー。筧、あれできる?」


「できるわけないだろ」


「そっかー。すげぇ。瞬間移動だ。俺初めて見た。もっかい見たいなー」


「皆さんはもう帰っていいですよ。気を付けて帰ってくださいね」


鈴木さんと私達はダンジョンである洋館の敷地から出たところでお別れしました。

振り返っても白い洋館が何事もなさそうに佇んでいるだけです。


元気出た、ですって。


じゃあ、言って良かったんだ。

頑張ってくださいなんて、本当にこれから頑張る人に対して言っちゃいけなかったかなと思ったけど、元気出たって言ってくれたなら、言って良かったんだよね。


「D級ダンジョンがね、A級になっちゃったらしいよ」


恵美ちゃんが私の肩に右手を載せます。


「どういうこと?」


「D級ダンジョンがA級になっちゃったんだって。それで調査のために皐月先輩が呼ばれたんだって」


「そうだったんだ」


「かーけいー。よくあることなの?」


「D級がA級になるのは上がりすぎだしあり得ないと思う」


「どうしてそんなことになんの?」


「最初の観測が間違ってたか、今間違えてるか」


「先輩ならトロッコ見つけられるかな?」


「そもそももうない可能性の方が高いと思う」


「先輩大変だな。いつもこんなことしてんの?」


「してる。他にできる人いないし」


「何でD級がA級になんの?」


「普通はならないけど、可能性として考えられるのは、ボスだけがどっかから移動してきたとか。A級とD級で中身がすり替わったとか」


「そんなことあり得んの?」


「ないとは言い切れないと思う。ダンジョンって何が起こるか本当にわかんないから」


「そっかー。転移石持っといてよかったー」


「ホントね。筧ありがとう」


あ、そういえば転移石。


「あの、三崎君、これ使わなかったから返すね」


「いいよ。あげる。皐月先輩とはぐれたら使って」


「あ、でもはぐれることあんまりないと思うから」


「皐月先輩すぐ来るもんね」


「何で知ってんの?かのん」


「一回ダンジョンで会ったから。皐月先輩すぐ来た」


「そうなんだー」


「でももっておいた方がいいよ。何が起こるかわからないし。皐月先輩以外とダンジョン行くことも今後あると思うから」


「あ、そっか。そうだよね。じゃあもらっておいていいの、かな?」


「うん。あげる。僕転移石なら結構もってるから。気にしないで」


「あ、うん。ありがとう。ここぞというときに使うね」


「いや、はぐれたらすぐ使って、そんなに貴重なものじゃないし。いくらでも取れるから」


「あ、うん。ありがとう」


「しっかし、皐月先輩ってすげーのな、スーパーヒーローって感じ。超かっこいい」


佐倉君が大きな声で言います。

佐倉君の声はお星さまのようなキラキラエフェクトが盛られたみたいです。


「そうだな。ただ働きなのに偉いよな」


「かーけいー。どういうこと?」


「先輩もうこれ以上WAR稼げないし、アイテム回収しても協会に持ってかれるから一年の九割くらいただ働きになるんだよ」


「えーなにそれ、先輩かわいそうじゃん。ハンター協会ってひどいのな」


「皐月先輩が強すぎるから」


「だからってさー。じゃあ今のもただ働き?」


「うん。しかもS級ダンジョン出現したら朝だろうが真夜中だろうが速攻で行かなきゃならないし。昨日も奈良に行ってたはず」


行ってた、行ってた。


「先輩スゲーな。二十四時間待機してんだ。超働き者じゃん」


「うん」


「でもさー、あんな風に瞬間移動できたり、でっかくって強いモンスター一撃で倒せたり出来たら絶対楽しいよな?」


「ああ、楽しいだろうな」


「いいなー。見てみたいなー。あ、楓は見たことあんじゃん。先輩ってどうやってモンスター倒すの?拳?」


「え、えっと。勝手に倒れちゃう?」


「え、なんもしなくても?」


「うん。そんな感じ」


間違ってはいないよね。

だって特に何もしてるように見えないし、先輩。


「強い人ってそうなんだー」


「うん。そうだね」


「じゃあ、なんつーか、意外と見ていても面白くなかったりする?」


「そんなことはないけど」


「わりかし地味なんだ?」


「そうなのかな?」


「そっかー。でもあれか、モンスターからしたら、気が付いたら死んでるってことだもんな。こええな」


「気が付いたら死んでるっていうより、死んだことすら気づけない、じゃないのか」


「日本語難しいなー。でも達人ってそうなんだろうな。あれだ、サイレントキリング」


「勝手にモンスターが倒れていくなら、倒しにも行ってないんじゃないのか」


「あ、そうなるのか。すっげー。どうやったらそんなに強くなれんだろ、才能?」


「才能と努力だろ」


「へー。今日から毎日めちゃくちゃ頑張ったら俺も瞬間移動できるようになる?」


「ならない」


「即答かよ。希望持たせろ」


「ないよ。絶対ない。あの領域にいける人類なんていない」


「いねーの?」


「いない」


「皐月先輩は過小評価されてると思う」


三崎君がぼそりと言った。

筧君も俺もそう思うと言います。


過小評価。


何故かこの言葉が胸に深く突き刺さりました。


本当に遠い人。

 

本当は遠い人。


でも、元気出たって言ってもらえた。


先輩はダンジョンで遊んでるって言ってたけど、本当はこんな風に他の誰かのために戦ってたりするんだ。

ダンジョンで遊ぶ先輩。

ダンジョンで人を助ける先輩。

どっちの先輩も確かに存在して、その先輩は世界にただ一人で。

先輩はこの世界から沢山のものを背負わされているんだ。

だって他の人にはできないから。


私は先輩を喜ばせたいと思った。

先輩にとっての喜びがどんなものかはわからなかったけれど、私は先輩に優しくしたいと思った。

とても図々しいけれど、私がしたいと思った。

でも先輩にとってダンジョンが全てなのだから、二十四時間ダンジョンのために生きることはちっとも苦痛じゃなくて、それこそダンジョンのために生きる自分は先輩のとって最上の喜びなのかもしれない。

じゃあ、私の出る幕なんかあるわけないのだけれど、先輩は元気出たって言ってくれたし、笑ってくれたし、私でも先輩にできることあるのかもって、期待してしまう。


先輩に何かしてあげたい。


先輩がダンジョン以外で喜ぶことって何だろう?


見当もつかない。


先輩は今ダンジョンで楽しんでいるのかな。

楽しいといいな。

あの世界で一番美しい人が人生をかけている場所なのだから。

それはきっととても素晴らしいに違いないのだ。

そうであって欲しい。


頑張ってくださいより先輩に届く言葉ってあるのかな。

先輩が笑ってくれるような、元気でたって言ってくれるような言葉。

探してみよう。

だって私にできることって、話せること、伝えられるってことだもんね。

でも先輩ならダンジョンとも対話できそう。

もうとっくにしてるかも。

私はどうやら笑っていたようです。

恵美ちゃんに何笑ってんのと頬をつつかれました。

あ、今のこの気持ち。

これを先輩にこの温度のまま届けられたらいいのに。

それは探している言葉なんかよりずっと伝わる気がするのです。

この気持ちがお花とか綺麗なものになってくれて先輩に見せられないものでしょうか。

あ、でも先輩はダンジョンで綺麗なものなんか見慣れているわけで、先輩はどんなに綺麗なものでも手元にはおいてはくれないわけで、うーん。

まあお花は無理なので、諦めないで探そうと思います。

先輩に届く言葉。

届けたい言葉を。























































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