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27 手で掴めるものは落とす

六月になりました。

私佐藤楓は今日も皐月先輩とダンジョンに来ています。

今日私は遂にC級ダンジョンデビューしたのですが、現在皐月先輩に荷物のごとく運んでもらっております。

というのもこのダンジョン、入ってすぐに天井からギロチンのように刃が落ちてきて、それを回避するため先輩が私を左手で畳んだコートのように持ち走り出してくれました。

体感として三秒に一回天井からギロチンの刃が落ちてきて、それを先輩がひらりとかわし、床からトゲトゲが出てきて、それもかわし、横から槍が出てきて、それもかわし、が、長い長い一本道で繰り返されました。

永遠に続くかもと思われましたが、どうやら終わったようです。


「面白かったねー」


「そ、そうですか?」


何にもしてないのに、くたくたです、すみません。

ホントにコートみたいに畳んでもらえたら良かったのに。

もうちょっとぺたっと平べったくなるっていうか、厚みのある自分の体が今日は憎い。

先輩そういう魔法使えたりしないのかな。


「うん。このダンジョンさー、小さい頃、三歳だったかな、初めて来た時面白くってさー、何回も入口戻ってずっとやってたら、父さんが最後には俺のことラグビーボールみたいに抱えて走り出してさー、ははっ、懐かしい」


「そうだったんですか」


私もラグビーボールくらいの大きさだったなら、運んでもらっても気にすることなかったんだろうなぁ。

あ、でも先輩くらいの大きさなら私ラグビーボールと何にも変わらないのかも。


「もっかい行く?」


え、先輩ひょっとして人のこと荷物みたいに運ぶのが好きだったりするのかな。

お父さんがしてくれたことを私にしたかったりするのかな。


「あの、でも、私がいたら先輩動きにくくないですか?」


「全然、楓軽いし運びやすいよ」


「そうですか」


やっぱり運ぶの好き確定、運びたいんだ先輩。

せめて小さくて良かった。


「うん。もっかい行っていい?」


「はい、よろしくお願いします」


ラグビーボール確定だ。

無理だろうけどもっとちいさくなぁれ。

それにしても先輩可愛い、無邪気だなぁ。

こんなにかっこいいのに、なんていうか、こういうもので遊びたいんだ。

こんなに大きくなってもまだ遊びたいんだ。

だってこれ当たったら間違いなく死んじゃうだろうけど、先輩からしたらアスレチック施設の遊具にすぎないんだろうな。

遊びに来てるんだもんねダンジョンに。

あ、そうか、ハンデだ。

先輩ならC級ダンジョンの仕掛けなんて多分簡単すぎてつまらないんだよね。

だから私というお荷物を抱えることで恐らく丁度いい縛りになって楽しめるんだ。

じゃあもう気にしなくていいか、運んでもらおう。

先輩すごく楽しそうだし。


「先輩、あの、さっきより上から落っこちてくるの早くないですか?」


なんか一、はい、一、はいくらいのスピードになってるんだけど、気のせいかな。


「俺が早くしてる、加速させて」


「な、なんでですか?」


「そうしないと面白くないでしょ」


そうですか。

ひー。

当たんないってわかってても怖い、音だけで怖い。

だってガシャンガシャン言ってる。


「あー、もう着いちゃった」


これはもう一回の流れ?

もうどこまでもお付き合いしなくちゃ。

先輩がこんなに楽しそうなんだし。

何もしないで運んでもらってるんだし。

あれ、でも。


「先輩、あの、先輩の設定って攻撃を相手に返すわけですよね、こういうモンスターじゃないものだとどうなるんですか?」


「あー、設定切ってるから、どうなるんだろうね、たぶん仕掛けが壊れて終わりじゃない」


「設定切ってるんですか?当たったら、えっと」


「俺より早いダンジョンなんてありえないんだから大丈夫だよ」


「あ、そうですよね、すみません」


「もういっか、次行こ」


「あ、はい」


少し歩いてすぐのドアを開けると巨大な丸形のスノードームのようなものが設置されていました。

中には色とりどりのカプセルが入っています。


「ガチャガチャですか?」


「そうだよ。ギロチンロードをクリアするとコインがもらえるから、ガチャガチャできるよ」


いつの間に手に入れていたのか先輩が金色のコインを入れてくれたので、私はガチャガチャを回しました。

紫のカプセルが出てきました。

中身は見えません。

両手を使って開けようとしましたが、硬すぎて開きません。


「かして」


「はい、すみません」


先輩が手にするとカプセルはすぐ開きました。

中からは箒が飛び出てきました。

赤いリボンがついた箒は浮いております。

魔法の箒?


「次のドア開けたら広いところ出るから、箒乗ってみる?」


「あ、はい。えっと、飛べるんでしょうか?」


「魔法の箒だからね、何もしなくても勝手に飛べるよ」


「そうですか。じゃあ飛んでみたいです」


「じゃあ行こ」


「はい」


ガチャガチャの部屋から出ると、広い広い野原でした。

箒にまたがり空を飛んでいる人が沢山います。


「あのガチャガチャは箒しか出ないんだよ」


「あ、そうなんですか」


「うん」


「先輩も乗りました?」


「俺は乗らない。道具は使わないから」


「小さい頃からですか?」


「うん。道具をあんまり信用しすぎると何もできなくなるからね」


「そうですか」


「でもこれはただ飛ぶだけだから大丈夫。飛ぶ以外何もできないから、とりあえずまたがってみて」


「はい」


人生初魔法の箒。

私が箒にまたがると箒はふんわりと浮かびました。


「あ、先輩、私浮いています」


「うん。浮いてるね」


「どうやったら進むんでしょう?」


「ほっといたら勝手に進むと思う」


「あ、本当です」


私を乗せた箒はノロノロと先輩から遠ざかっていきます。


「わわわ」


「大丈夫、何かあったら助けてあげるから、いっといで」


「はい」


魔法の箒は私を乗せて空へ空へと近づいて行きますが、中々スピードが出ません。

右を見たり左を見たりキョロキョロしていると皆私と違ってなんか、早いです。

このままだと私ちょっと浮いただけの人になってしまう。

もっとアニメみたいにすーっといかないのかな。

うーん、早くなーれ、早くなーれ。

念じたのが通じたのか、魔法の箒のスピードが上がりました。

徒歩から自転車になったみたいな感じです。

やった、いい感じ。

もっと早くなーれ、早くなーれ、自転車の次は車。

あ、また早くなった。

なんだろ、念じたらいけるのかな。

あ、早い早い。

あれ、早すぎない?

え、なんか、止まんない。

あ、あれ、あ、きゃー、木に当たる。

わ、木通り抜けちゃった。

きゃー。

わ、結構高いところまで来てる。

あ、わー、また木に当たる。

ぎゃ、どっか、どっかに着地したほうがいいよね。

えっと、木しかない。

わわわ、きゃー。


魔法の箒はどんどんスピードを上げて、木から木へと体当たりしていきます。

制御不可能となった、まぁもともと私には無理だったわけですが、魔法の箒は私を置き去りにして遥か彼方へと消えていきました。

残された私は高い木の上に吊るされております。

タロットカードみたいになってないだけいっか。

せっかくだからクリスマスオーナメントになった気持ちをしっかり味わっておこうと思います。

下を見ると、うん、見ないほうがいいみたい。

風吹いたら落っこちちゃうかな。


「楓」


「あ、先輩」


先輩は両手で箒をつかんでぶら下がっているみたいです。


「大丈夫?」


「はい、何とか」


「ほら、おいで」


先輩は左手を私の背に回し自分の方へと引き寄せてくれました。

私は先輩のどこをつかんでいいかわからなかったので、両手はぶらんと下に下げました。

先輩私のこと巻けるんだ。

左手一本で巻き込めるんだ、すごい。


「ゆっくり降りるね」


「はい、すみません」


先輩木の上に調子の乗ってのぼちゃった猫ちゃん助ける気分かな。

そんな可愛いものじゃないか。

自己評価高すぎでしょ、私。

ここまでの私、最初のギロチンロード自力で歩かないで荷物になって、魔法の箒に乗ってみたら、箒には見捨てられ木の上に放置。

私今日も見事に何もしていない、寧ろ邪魔しかしてないんじゃ。

先輩いい加減うんざりしてないかな。

ここまで何にもできない人間珍しいよね。


先輩は右手で箒にぶら下がり、左手で私を支え、地上へと降りていきます。

地面に足がつくとほっとしました。

やっぱり私に空は向いていないようです。

というよりハンターに向いてないんだろうな。

わかってはいたけど。

ああ、そんな一日で答えだす必要ないよ、ウジウジしてたら先輩もっとうっとうしいよね、落ち込むの禁止。


「楓、大丈夫?」


「はい、助けていただいてありがとうございます。いつもすみません」


「怖くなかった?」


先輩が私の顔を覗き込む。

綺麗な緑の目がキラキラと光っている。

なんだろう、この目見てるとホントに思ってることなんでも話しちゃいそう。

自分の中にあるもの全部、全部、ひとつ残らず取り出してしまいそう。


「はい、大丈夫です」


「あの木、六百メートル以上あったんだけど、楓泣かないんだね」


「え」


「楓全然泣かないなぁって、怖くなかったの?」


「うーん、怖いって感覚はあんまりなくて、こんな高いところに吊るされることも今後なさそうなので、せっかくだから、味わっておこうかなって」


「そうなんだ」


「はい」


「落っこちちゃうかもって思わなかった?」


「先輩がいるので落ちることはないだろうなって、あ、すみません。頼りきっちゃってしまって」


「いいよ、もっと頼って」


「頼りっぱなしです。ホントに何にもできなくて、箒も使いこなせないし」


「ここのガチャガチャでもらえる魔法の箒は外れ多いから楓のせいじゃないよ」


「そうなんですか」


魔法の箒はいつの間にか先輩の手からも消えている。

どこ行ったんだろ。


「うん。道具あんまり信じちゃダメでしょ?」


「はい、そうですね」


「俺はさ、手で掴めるものは必ず落とすと思ってるから道具使いたくなんだよね」


「手で掴めるものは落とす、ですか?」


「うん」


「だからいつも手ぶらで行きたいんですね?」


「うん。まあ落としても困るものなんか何も持ってないけどね」


「あ、そうですか」


そっか、手元に置いておきたいもの何にもないんだもんね。

持たないようにしてるのかな。

落とした時悲しいから。


「でも楓のことは落っこどさないよ、俺」


「え?」


「俺は楓のことは落とさない。絶対に」




























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