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サルサの要塞


  ※  ※  ※


 途中で二回の休憩をはさみ、サルサの要塞に着いたのは夕方に近かった。

 ドラゴンの背中はかなり揺れる。

 特にシルフィは高い所が苦手だった。口数も少なく、ぐったりとしている。回復魔法のサポートがなければ、今頃は体調を崩して倒れてしまったかもしれない。

 

「あの、テントの群れはなんですか?」


 ミオが地上を指差した。

 シルフィとは対照的に、やたらと元気だ。

 サルサの要塞は正方形の巨大な塀に囲まれていた。だが、ミオが言っているのはその外側に広がっている光景だ。要塞の全面の平地になっている部分に無数のテントが密集している。


「カティア、わかるか?」


「ふう……また質問ですか。姫様の婚約者なら、ショウヘイ殿も自分で考えるクセをつけた方がいいですよ。

 この要塞には、王国の軍隊が次々と集まっています。あのテントのうちの半分は、城壁の中に入りきらなかった増援部隊でしょう。

 残りの半分は、たぶん民間人だと思います。ざっと一万人近い人間が集まっているとすれば、ちょっとした都市と同じ人口です。……それにここは、最前線というわけではありません。食料や武器を扱う商人や売春婦が、軍隊について回ることはよくあることです」


 なるほど、そうか。

 ミオの情報によれば、サルサの要塞は王国軍が大敗した戦場からは百キロ以上も離れている。ここはあくまで援軍を編成するための集結地だ。


 リーリアが高度をぐっと下げた。


「さあ、そろそろ降りるけど。どこがいい?」


「そうですね……向こうにある空き地に降りてください。あそこなら軍隊のテントからは離れています」


「どうして、そんなことがわかるんだ」


「位置関係を考えれば、すぐにわかることです。城壁に近い位置に整然と並んでいるのが軍隊のテントです。民間のテントは間隔がバラバラですからね。

 委員長さんがここに到着するまで、まだ何日かは余裕があるはずです。今日のところは無理をせずに、民間人の中にまぎれこむとしましょう」



 カティアの助言に従って、俺たちは空き地の隅にテントを張った。

 日暮れが近いこともあって、あちこちから炊事の煙が上がっている。肉を焼く匂いやシチューのいい香り。カティアの話にもあったが、ここでは女たちの姿が目立つ。


 買い出しや食事の支度は仲間に任せて、俺は偵察のために、ぶらぶらと周辺のテント村を歩くことにした。

 自分だけサボっているみたいだったが、これもカティアの指示だ。

 仲間は美女ばかりだから、目立ちすぎて自由には動けない。特にここは売春婦が多い場所らしい。スケベな男たちから声をかけられるに決まっている。

 

「ちょっとお兄さん、寄っていかない。安くしとくよ」


 それっぽい区画に入ると、すぐに客引きにあった。化粧の濃いお姉さんだ。もう寒い季節なのに、わざと着崩して肩を出している。


 予想していたとはいえ、ドキッとした。

 もちろんカティアからは、十分すぎるくらい釘を刺されている。鼻の下を伸ばしてついて行ったら、後でどんな嫌味を言われるかわからない。


「い、いや。別にいいです」


「ふふっ、いいわね。初々しくて。もしかして、その年でまだ、童貞なの?」


「そんなの別にいいじゃないですか。俺には心に決めた人がいるんです。客なら他にいくらでもいるでしょう。ほっといてください」


 カッと顔が熱くなった。

 まだ高校生なんだから、別にいいじゃないか。それに恋人もいるんだ。まだキスしかしてないけど……お互いに大切にしているだけで、別に飢えてるわけじゃない。


 その時テントの中から、のっそりと男が出てきた。


「なんだよ、もう次の客を取ろうっていうのか? つれない女だな。いくら商売だって、もう少し余韻を楽しませてくれたっていいじゃないか」


 ん? なんか、見たような顔だ。

 その男はボリボリと頭をかきながら、あくびをしていた。


「えっと、もしかして……」


 男の顔色がサッと変わった。


「うわっ。なんだ。ショウヘイじゃないか。どうしてこんな場所にいるんだ」


「そうだ。ガストーさんだ。お久しぶりです」


 俺は、ようやくピンときた。

 ガストーは異世界に来て、最初に親切にしてくれた傭兵隊長だ。

 王都からザルフへ向かう旅で、俺は傭兵の仲間に入れてもらった。シルフィたちと初めて会ったのもその時だ。


 この人は俺のスキルのことも知っている。それでも秘密を守る約束をしてくれた。

 面倒見のいいアニキみたいな人だ。


「おっ、おい。ちょっと、コッチへ来てくれ」


「ええ、いいですけど」


 俺は、よくわからないまま、ついていった。人目のつかない場所まで来ると、ガストーは大きなため息をつく。


「ああ、どうして見つかっちまうかな……頼む。このことは嫁さんにはナイショにしてくれ。ほんの出来心なんだ。戦場に行く前の景気づけってヤツだ」


「別に、言いませんけど。……それと、ガストーさんの奥さんなんて知りませんよ」


「おっ、そうか。そうだよな。知った顔を見たから、ついあわてちまった。えっと、うん。そうだ。久しぶりだな。元気にやってたか」


「まあ、色々とありましたけどね。とりあえず無事です。それで……良かったら少し話しませんか。来たばかりで、このあたりのことは不案内なんです」


「おう、いいぜ。オレも、おまえのことは気にしてたんだ。……ええと、でも。傭兵仲間はオマエのことは偽名で覚えてるからな。顔を合わせると面倒臭いだろう。向こうに飯を食わせてくれる所があるから、そこでゆっくり話そう」

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