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ガストーからの情報


 ガストーに連れて行かれたのは露天の食堂だった。

 テントの間を利用した狭い空き地に、簡単なテーブルとイスがならんでいる。


 夕食には少し早い気がするが、席はもう半分以上が埋まっていた。客のほとんどが腰に剣をつった傭兵だ。


「とりあえず、あぶり肉とエールをくれ。……そうだ。ショウヘイ、オマエは飲めないんだよな。ここにはエールしかないんだ。水でいいか?」


「ええ、それでお願いします」


 この世界では18才で酒を飲んでも、誰も気にしない。

 でも俺は、ハタチになるまで飲まないと決めていた。向こうではまだ高校生だ。もしいつか帰れたら……どこかでまだ、そういう気持ちが残っている。


「……それで、あのお姫様とは上手くいっているのか?」


「ええ、まあ。おかげさまで」


「そりゃあいい。女がいれば、生き残ろうって気持ちも強くなる。今回みたいにヤバい仕事なら、なおさらだ。……でも、ショウヘイ。なんでこんな場所にいるんだ。ここは傭兵連中のたまり場だ。オマエは確か冒険者になったはずだろう」


「はい。だから、ここには別の理由でいます」


「別の理由?」


 そこに、店主らしい男がこぼれそうなくらいに泡ののったエールを持ってきた。


「お待たせ。エールと水だ。ちょいとだけサービスしといたぜ」

 

「おっ、悪いな」


 ガストーは運ばれてきたジョッキを片手で受け取った。

 俺には金属のマグカップだ。うえっ。よく見ると、小さな虫が浮いている。


「うん? なに見てるんだ……ああ、これか?

 虫の一匹や二匹で驚くな。貴族のお坊っちゃまじゃあるまいし。このあたりの井戸はみんな王国軍が抑えてるんだ。濁ってないだけ上等な方だぜ。ほうら、これでいいだろう」


 ガストーはカップの中に自分の指を突っこんで、虫を取った。親切のつもりなんだろうが、ちょっと引く。

 そう言えば、ソラのいたスラム街もひどいものだった。そろそろ異世界にも慣れたつもりでいたが、衛生感覚の違いだけはどうにもなじめない。


「さてと、話の続きを聞こうか」


「実は、人を探しているんです。昔の知り合いで……それで、この要塞に入る手段を探しているんですけど。何かうまい方法はありませんか」


「要塞の中ってことは軍人か?」


「まあ、そんなところです」


 俺は口ごもった。

 ガストーは信用できる人間だ。俺のスキルのことも知っている。

 でも、どこまで話したらいいんだろうか。

 これからやろうとしているのは、国王への明らかな叛逆行為だ。余計なことを知ってしまうと、かえって迷惑をかけることになるかもしれない。


「はははは。深刻な顔なんかするなよ。そういう顔をするってことは、どうせ訳ありなんだろう。オマエはいつだってそうだ。人をダマすようなスキルを持っているくせに、顔だけは正直なんだからな。

 わかった。余計なことは聞かない。オマエはオレの命の恩人だ。スタンピードのこともあるから、もう二回も命を救われてる。黙って力を貸すのが仁義ってもんだ」


「すみません」


「謝るなよ。オレがカッコ悪くなるだろうが。……まあいい。それで、要塞の中に入る方法だったよな。

 実はこのところ毎日、王国の連中が正規軍の採用試験をやってるんだ。もちろん合格者は要塞の中に配備されることになる。実力があれば傭兵でも何でもいいっていうんで、すごい人気だ。

 なんでも特別な精鋭部隊を作りたいらしい。ショウヘイは、勇者候補生が来るってウワサは聞いているか?」


「はい。ここにいる軍隊はその人たちと合流するのを待ってるんだって聞きました」


「今回採用する連中は、勇者候補生の護衛部隊にするって話だ。虎の子の魔法戦士部隊が全滅しちまったからな。もう、なりふり構わずってヤツだ。

 国王は必死だぜ。オレたちみたいな傭兵も強引に集めてる。次の戦いで負けたら、もう後がない。マジで国が滅びるんじゃないかって言ってるヤツもいる」


「そんなに危ない戦いに、ガストーさんはどうして参加してるんですか」


 それだけわかっているなら、逃げるべきじゃないか。

 正直な話、そう思った。傭兵は別に国王に忠誠を誓っているわけじゃない。会ったことはないが、大切にしている家族もいるらしい。


「逃げられないのさ。傭兵にも仁義ってもんがある。国がヤバい時に逃げたら、そいつはもうその世界じゃ相手にされない。オレたちには冒険者みたいにギルドの後ろ盾があるわけじゃないからな。……それに、本当に国が滅びたらどうなると思う? 冗談抜きで、家族がみんな奴隷にされるかもしれないんだぜ」


 ああ、そうか。

 それを聞いて俺は急に恥ずかしくなった。

 戦争に負けても王様が変わるだけだろう。俺はまだ、どこかでそんな甘いことを考えていた。平和ボケもいいところだ。シルフィの国がどうなったのか考えてみろ。身近に実例だってちゃんとある。


「でもまあ、安心した。オマエがいれば、ドラゴンにだって楽勝だ。さあ、食い物も来たぞ。食え食え。腹が減っては何とやらだ」


 料理を運んできた男が、それを聞いてぷっと吹いた。


「こんなガキがドラゴンをどうにかするんだって? そこら辺のトカゲの間違いじゃないのか」


「いいや、オレは真面目だぜ。実は、コイツはドラゴンと相撲をして勝ったことがあるんだ。アンタにも見せたかったぜ」


「夢で見た話なら、他の奴に言ってくれ。これから忙しくなるんだ。客がいなくなるまで飲んでてくれたら、続きを聞いてやるよ」


 ガストーは俺に向かってウインクした。

 全部本当の話だが、誰も信じたりはしない。スキルの効果じゃない。これが常識ってやつだ。


 俺はあぶり肉を少し食べてから、先にその場を出て行った。

 カップに入った水には、最後まで口をつける気にはなれなかった。



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