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「ちは……ち、ちーちゃんは地図で言うと、A2番の店、おれ…じゃなくて、私はB8番でコートを買うからね」

「了解です」


 千春は寝起きのようなふにゃふにゃとした声を出しながら緩やかに敬礼をした。奏恵いわく、千春はいつもこんな感じらしい。


「えーっと、そのあとは……」


 優太は携帯電話でショッピングモールも地図を見ながら、奏恵が言ったことをそのまま復唱していた。


「桜色のインナーがなかったら、次はA5ね。ここではベージュか赤の……」

『画像開いて』優太の言葉にかぶせるように、奏恵は指示を飛ばす。

「あ、はい」優太は携帯電話を操作し、千春に画面を見せた。「このインナーでお願いします」

「かしこまりました」千春は両手で敬礼をした。


 二人の様子を見て、奏恵はため息をついた。


『あとはチャイムが鳴ったら開始。それまでは待機』

「かしこまりました」優太はほっと胸をなでおろした。

「なーちゃん……」千春はいつもと少し様子が違う友人をじーっと見つめた。「今日はなんだか、眠そうだね」

「へ?」


 優太は驚きのあまり声が裏返る。


『ちょっと、流石に友達の前ではちゃんとしてよ』

「あ、ごめ――」


 奏恵に謝ろうとしかけて、優太は慌てて千春の方を向いた。


「あっと、ごめんね。ちょっと寝ぼけてるかも」

「そっか。なーちゃんが遅刻なんてめずらしいもんね」

「うん。待たせちゃってごめんね」

「大丈夫だよ! 間に合ったし。それに、私も実はちょっと遅刻して……」


 優太は再び胸をなでおろした。この調子では心が持たないと思ったが、幸い千春は細かいことは気にならない性格らしい。その後の雑談でも、多少のたどたどしさは誤魔化すことができた。

 奏恵の指示に従い、優太は千春と共に近くのベンチに腰掛けた。周りには女性向けのブランド用品店が所狭しと並んでいる。


「なーちゃん、そろそろ行かなくて大丈夫なの?」


 千春は優太の顔を覗き込みながら言った。


「うわぁ!」優太は思わずのけぞる。「あ、えっと、そうだね……そろそろ、なのかな?」

『あっはは、意識しすぎだって』


 奏恵はひとしきり笑ったあと、優太に指示をして携帯電話の時間を見る。


『まだ大丈夫じゃない? どうせ始まる五分前に放送するし』


 優太は咳払いしたあと、立ち上がった。


「じゃあ、そろそろ行こうか」

「はーい」千春も気の抜けた返事をしながら立ち上がる。


『そんなに急がなくてもいいよ。私たちが行く店、マイナーだから』

「じゃあちーちゃん、終わったら連絡してね」

「うん。なーちゃんも早く終わったら連絡してね」


 優太は相槌を打ったあと、足早にその場所をあとにした。


『気合い入れてくれるのは嬉しいけど、まだ時間あるよ』

「そういうことじゃない」優太は人目を避けるように駐車場につながる通路に入った。

『じゃあ、どういうこと?』

「千春ちゃんがいると俺から話せないだろ」

『話すことあった?』


 優太はがっくりと肩を落とした。


「基本全部だよ。さっきのだって、千春ちゃんの言葉にどう反応していいか分からなかったし」

『照れちゃってってこと?』

「違うって……」優太はうなだれた。「俺はまだ奏恵ちゃんのこと全部分かってる訳じゃないんだから、どういう演技とか言葉を言えばいいのか分からないんだよ」

『ああ、そっか、そういうことね』優太の言い分に奏恵は納得したようだった。『ごめんごめん。じゃあ、次からはちゃんと言う』

「謝るほどのことでもないけど、そうしてもらえると助かるよ」


 優太は携帯電話を見て時間を確認しようとする。その瞬間、ショッピングモール内にチャイムが響いた。


『あ! きたきた、始まったよ! ほら優太、走って!』

「え、走るの?」


 このあと優太は、奏恵に言われるがままショッピングモール内を駆けまわった。

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