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優太は学校の教室に入ってすぐ、一人で授業の準備をしている千春のもとへ行った。
「あ。おはよー」千春は優太の表情を見て驚いた。「なーちゃん! 目の下、クマすごい」
「え……?」優太は両目の下をなでた。
『やっぱ駄目かぁ。メイクじゃ隠しきれないよね』奏恵はため息混じりに言った。
「眠れてないの? 大丈夫」
「うん。最近やることが多くて」
優太は精一杯微笑んで見せた。
「そっか……。なーちゃん、無理しないでね」
「ありがと」優太はうなずいた。
ふと優太は、こんなやり取りを以前からしていたことを思い出した。CANARIAの楽曲を詰めている時は何日も徹夜をして、よく暁人に心配されていた。そういえば、自分が車に轢かれたあの日も、楽曲の詰め作業や販売関係の事務作業をしていてほとんど寝ていなかった。
優太はため息をつく。後悔してもしきれないという気持ちと、それでも、納得していない楽曲を世の中には出せないという気持ちが同時に湧き上がってきた。
「ちーちゃん、また今度カフェに行こうね」
優太は行き場のない気持ちを切り替えようと千春に微笑みかける。
「ん? いいよ! また行こ」
千春は友人からの突然の提案もにこやかに了承した。
『優太……あんた、千春に惚れてるでしょ』
「そんなことっ! あいや、楽しみだね、ちーちゃん!」
優太は反射的に否定しそうになり、急いで誤魔化した。
そのあと優太は、昨日と同様に眠気と闘いながら、学校での一日を終えた。帰宅するやいなや奏恵の部屋に直行し、ため息をつきながらDAWを立ち上げる。その時、どこからともなくおっさんという声が聞こえた気がしたが、優太は聞こえなかったことにした。
「よし、あと一息。頑張ろう」
締め切りまであと数時間。優太は静かにヘッドホンを装着した。




