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「も、もしもし、なーちゃん……?」


 校内に響くチャイムに混ざって、千春の心配そうな声が聞こえた。優太が顔を上げると、想像通り困り顔をしている千春が立っていた。


「ちーちゃん……」

「やっぱり具合悪いの? お家まで着いて行こうか」

「いや、大丈夫」


 優太は机に突っ伏していた頭を上げ、皺が寄ったノートを自分の鞄に押し込んだ。

 水曜日の放課後。優太は昨夜、上機嫌で作詞をしていたが、いつになってもメロディにハマる歌詞が浮かばずほぼ徹夜の状態で登校していた。その上、授業中も歌詞のことが頭から離れず、奏恵が数学のために買い貯めしていたノートを急遽作詞用ノートにし、授業の間もずっと歌詞を書いていた。


「仮歌は明日にでも録らないとやばいよなぁ……」

「仮……、なに?」千春はよろよろと立ち上がる優太の背中にに手を添える。

「あ、いや、こっちの話」優太は首を振った。「心配させちゃってごめんね?」

「ううん。それはいいんだけど……。なーちゃん、無理しないでね?」

「うん。ありがとう。それじゃあ帰ろっか」


 千春と一緒に教室にでようとしたとき、一瞬だけ侑子と目が合う。しかし、侑子は気まずそうに視線を逸らした。侑子の態度を見るに、話しかけたそうにしているがどう声を掛ければいいか分からない様子だった。

 優太は侑子に謝らなくてはと思っていたが、次の瞬間にはコンペの歌詞のことで頭がいっぱいになり、こっちはこっちでまともに話せる状態ではなかった。心の中で謝りつつも、コンペのこと以外はすべて後回しにするしかない。優太はそう割りきって締め切りまでの時間を過ごすことにしていた。


 いつものように最寄りの駅で千春と別れ、優太は帰路に着く。途中にあるコンビニに寄ってエナジードリンクを買い込んだあと、ようやく優太は家についた。


「疲れた……」


 優太は力なくつぶやいたあと、パソコンを立ち上げた。


『そんな状態で歌詞書けるの?』奏恵は心配そうに尋ねる。

「うん。断片的なフレーズは揃ったから、あとはそれをメロに当てはめる作業」

『メロに当てはめる?』

「そう。言葉尻とか、言い回しを変えてメロディにハマるようにする」


『なるほど』奏恵は感心した様子だった。『メロディに歌詞を合わせるんだ』


「時と場合によるけどね。今回はメロがいいからそっちを優先するってだけ」

『なるほど……』奏恵は再び感心した様子を見せた。


「さて、こいつを飲んだらはじめますか」


 優太は自分を鼓舞するかのようにエナジードリンクのプルタブを引いた。

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