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テイマー  作者: はるな
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4章 王の証 2

しばらく歩くと、あれほど生い茂っていた草木が少なくなり、いよいよ洞窟が見えてきた。

「着いた」

ひんやりとし、どこか神聖な雰囲気が感じられる洞窟だった。

一歩一歩しっかりと歩む。

入り口をくぐると、中は意外に広々としていた。天井は4.5メートルはあるかと思われるほど高く、足元は人一人が通れる幅の一本道が奥へと続いており、その周りを池が囲っていた。

池には波紋1つない。静けさだけがそこを支配していた。

ごくりと唾を飲み込み、私は今一歩を踏み出した。

奥に進めば進むほど、日の光が届かなくなり、暗闇が周囲を取り囲んできた。

少し怖くなってきた時だった。まるで私を慰めるかのように壁際に配置されていた松明に一斉に灯りが灯った。

驚きあたりを見回していると、自然と目にとまった。

「あった…」

道の先、そこに小さな社が2つ鎮座していた。

1つは真っ赤な炎が描かれたもの、もう1つは渦巻く風をイメージさせる紋様が描かれた白い社であった。

あれが、神々が宿る社であろう。

国のイメージとは違い、妙に日本風な様子に首をかしげつつも、私はゆっくりとその前に進んだ。

それぞれの社の瓦部分に触れ、息をはいた。

「神域へ、我が名はレビウス」

二人の神々を想像しながら唱えた。

瞬間、目を開けていられないほど眩しい光が社から放たれた。

思わず目を覆って顔を背ける。光が私を包んだ、そう感じると同時に私は意識を手放した。




「兄貴、これが新しいレビウス?」

「コウ、そういう物言いは控えろ。我らの主だぞ」

2人の分の声が聞こえた。

「だってさ、まともに儀式も出来ない王なんて初めてだ」

少し高めの子供のような声が、不満げに言った。

「よせ、何かしら事情があるのだろう。この方は容姿も能力も王に間違いない。だから新たなレビウスであることは疑いもない」

低く通る青年の声が、少年を諭している。

どうやら自分は横たわっているようだった。ひんやりとした柔らかな感触が頬に触れていた。

恐る恐る瞳を開け、視線だけを動かし声の主たちを見た。

「あ、起きた」

「きゃぁぁぁ!」

びっくりした。なにもそんな間近で見つめなくてもいいだろうに。

目の前にあった少年の顔に驚き、私は飛び起きた。

ばくばくと動悸の激しい状態のまま、正面でしゃがみ込みながら私を見つめる少年をよく見た。

まず目をひいたのはその髪だった。ぱっと見は白色に見えるその髪は、光が透けるような透明感がある。美しい髪は残念にも鳥の巣のように自由に跳ね放題になっていた。輪郭は少し丸く、青い瞳は大きくてくりくりとしている。好奇心溢れるその姿は、とても小さく、小学生といわれてもおかしくない背丈であった。麻のような生地で出来た甚平にも見える白い民族服を身に着けていた。

「ごめん、驚かした。俺、コウ。覚えてる?レビウス」

「・・・ごめんなさい、覚えていないわ。私は記憶がないの」

「え、全部??」

「馬鹿。我々との記憶という意味だ。・・・失礼しました、レビウス様。弟は馬鹿なんです」

コウの頭をはたいて、黙らせながら青年が謝罪した。

「いえ、こちらこそごめんなさい。大切な記憶、思い出せなくて」

素直に詫びると、青年はいえいえと微笑み首を横に振った。

「色々事情がおありなのだと理解しております故、お気になさる必要はございません。レビウス様」

なんともしっかりした受け答えだ。

「私は炎の神、ゴウと申します。あっちが弟の風の神、コウです。以後お見知りおきを」

自然な動作で彼は礼をした。

上げた顔はほっそりとしていてコウとは対照的だった。右目にかかるぐらいに一房だけ垂らされた髪は、まるで炎のような赤色をしていた。私の髪色に似ていると思った。凛々しい瞳も私と同じく紅い色をしている。身長は180センチメートルはあるかと思われるほどすらりとのびていた。服装は非常にフォーマルで、英国の執事を思わせるベストにワイシャツ、そしてスーツ地のパンツスタイルであった。

「はじめまして、宜しく。私は新島空といいます」

「空?」

「うん、青海での私の名」

へーと不思議そうにコウが呟いた。そこにゴウがすかさず解説を入れた。

「我々の世界では1人の人間が、名を2つ持つなどありえない話なので、弟はそこに驚いたのでしょう」

「あぁ、なるほど」

「おい、兄貴。いちいち解説入れなくて平気だっていつも言ってるじゃん!」

ぷんぷんと怒り、腰に手をあて、ゴウを睨みつける。当の睨まれた本人は、軽くその視線を受け流し、私に向き直った。

「さて、レビウス様。おそらく我々に御用があってこちらまでわざわざいらっしゃったのかと存じます。このようにのんびりとされていて宜しいので?」

「あ!そうだった!!オーガスが攻めて来ているんだったわ。のんびりなんてしてられない。儀式の続きをしに来たのよ、そして2人にぜひ力を貸して貰いたくて・・」

「却下」

「は?!」

コウがふんぞり返って、頬をめいいっぱい膨らませる。

「なんで、コウ」

「だってさ、儀式1つまとも出来ないやつに何で俺たちが力を貸さなきゃなんないわけ?ぶっちゃけ戦争なんて人間の都合であって神にとってはどうでもいいんだよね。だからさ、どうぞ勝手にやってくれる?俺たちはここから見てるからさ」

しっしっと手を振り、私を追いやる素振りをするコウを、ゴウは黙って見ている。先ほどみたいに止めたりはしない。ゴウも同意見、ということなのだろうか。

「どうでもって・・・」

言葉が出てこない。神と人間、確かに2つは全く違う種族だ。でも、だからといって自国がどうなっても果たして本当にこの2神は平気だというのか。他人とも言うべき私ですらここまで必死だというのに。

―――他人?

1人疑問に思い、思考だけでなく動きも止まった。2神が何事かと目を張る。

本当に他人なのか。ついさっきまで、昨日まで、私は自分が女王かもしれないなどと1ミリも信じてはいなかった。

しかし、今は違う。

人を殺めてしまう程の力がこの身に宿ってしまっている。これだけでも大きな関わりだ。このアノンという不思議な国の一部であることの象徴。紅き髪と瞳が私を何者か教えてくれた。

「・・・私は・・・レビウスだ」

ゆっくりと、噛みしめるように。

「私は、アシェリア・ウインド・アーカライト・レビウス。貴方たちの主であり、友だ!記憶はなくとも、この姿、この力が証だ!!」

力強く叫んだ。突然、風が渦を巻くように私の周りを囲む。そして、拳を叩くように振り下ろすと、風は空を切り裂くように霧散し、炎を巻き起こした。

コウは驚き兄の背に素早く隠れた。ゴウは片手で炎を撫でるようにし払い去る。その表情は固く、唇は少し開いていた。ごくりと唾を嚥下し、私を見つめている。

はぁはぁと肩で息をし、私は2神を見やった。

「どうぞ勝手になんて、許さない。」

呼吸を落ち着かせ、歩み寄る。

「私はアノンの女王、レビウス。その命令は絶対。違う?ゴウ」

ゴウは開いていた唇を閉じ、仕方ないという風に一息ついた。

ゆっくりと跪く。

「失礼いたしました、レビウス様。恐れながら貴女様を試させて頂きました」

「試す?」

「はい。貴方は王としての記憶を受け継いでおられない。そんな方でも我王と足り得るのかを、誠に無礼とは承知で試させていただきました」

薄く微笑みゴウは立ち上がった。隠れていたコウもひょっこり顔を出し、私に向かってニカっと歯を見せて笑った。

「なんだ、ちゃんと風起こせるじゃん。俺のレビウスと同じだ!」

コウは駆け寄り、私の腕に抱きついた。

「んじゃ、改めて宜しくな!レビウス」

「・・・調子のいいやつね」

てか、基準が能力なのか。

そんなこちらの胸中などお構いなしに、コウは私の腕に頬ずりしている。懐かれたのか。

溜息をつき、私はコウとゴウを順番に見た。そして微笑んだ。

「認めてくれたってことでいいのかな?・・解らないことだらけだけど、宜しくね2人とも」

「はい」

「おう!・・・てかさ、オーガスが来てんじゃなかったっけ?」

「「あ」」

忘れていた。

私は焦って辺りを見回した。

「ここから出るにはどうすれば!?」

すると、ゴウが私を引き寄せ、腰に腕を回ししっかりと抱きしめた。

「え!!」

「ここから出ます。そして、さっさとオーガス軍を追い払いましょう」

「さんせーい!それじゃ、行くか!!」

コウとゴウがそれぞれに手を天高く伸ばした。途端、眩い光が再び私達を包み込んだ。


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