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成金令嬢物語  作者: 江本マシメサ
番外編
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番外編『ジルヴィオ・ベルンハルトの変化と人生について』

 ベルンハルト家の長男として生まれたジルヴィオは、天真爛漫な性格で、誰からも愛されるような子どもだった。

 父親であるベルンハルトは厳しいところがあるものの、ジルヴィオのために毎年くまのぬいぐるみをプレゼントするほど子ども思い。

 母親であるメルセデスはジルヴィオと血が繋がっていないにもかかわらず、深い愛情を注いでくれた。

 ジルヴィオはそんな両親が大好きで、自慢だった。

 けれども、世間の両親の評判はよくないものである。

 最初に耳にしてしまったのは、八歳の頃だったか。

 新しくやってきたメイドが、父親の噂を口にしていたのだ。

 ベルンハルト会長が、悪辣極まりない商売をしている、と。

 その意味をジルヴィオはよく理解できなかったのだが、悪いことを言っているということだけは理解できたのだ。

 けれどもすぐに、その噂はデタラメだ、と他のメイド達が言っていた。

 それを聞いて、ジルヴィオは安堵したのだった。


 けれども、そのあともジルヴィオは父親の悪評を耳にしてしまうのである。

 それは初等学院で学年首位を取った日の話だった。

 クラスメイト達が口々に賞賛していたのだが、その中で一人、〝ズル〟をしていい成績を取ったんだ。と糾弾する者がいた。

 その生徒曰く、ジルヴィオの父親は学院に多額の裏金を払っており、その結果、ジルヴィオは学年首位を手にしたのだと。

 ジルヴィオの父親が騎士隊に匿名で寄付をしていた、という話は耳にしたことがあった。

 けれども学院に裏金を払っていた話は知らない。

 学年首位は、ジルヴィオが毎日一生懸命勉強して勝ち得たものだと信じていた。

 それを否定され、ジルヴィオは傷ついてしまう。

 帰宅後、父親は元気がないジルヴィオに気づいたが、本人に「父上、裏金を学院に払いましたか?」なんて聞けるわけもなく……。


 悪評が流れていたのは父親だけでない。母もだった。

 ジルヴィオの母を見たクラスメイトの父親から、若くて美しいお方だ、と褒めて貰ったのだが、そのクラスメイトの母親が、あの女は血の繋がりがない継母で、ベルンハルト商会のお金目当てに結婚しただけのつまらない女だ、と吐き捨てるように言ったのだ。

 ジルヴィオの母親は服が破れても繕って着るほど物を大切にし、清貧を美徳の一つとするような慎ましい暮らしを好む女性である。

 金目当てで結婚なんてするはずがない。

 けれどもそれも、言っても無駄だとジルヴィオは思っていた。


 これまでもそうだった。

 いくら悪く言う人達に、そんな話はでたらめだと訴えても、信じてもらえなかったのである。


 大好きな家族を悪く言われるたびに、ジルヴィオは酷く傷ついていた。

 けれどもそのようなことを大好きな父や母に相談できるわけもなく、ジルヴィオはずっと我慢していた。

 けれどもそれにも限界が訪れる。

 それは、十七歳の春のことだったか。

 生まれて初めて、九歳年下の、愛らしい妹について悪口を言われたのだ。

 

 ――お前の妹、八歳にして、性悪悪女らしいな!


 気づいたときには体が勝手に動いていて、相手を殴り飛ばしていたのだ。

 ジルヴィオが初めて起こした事件だった。

 生徒同士のトラブルは大きな問題になって、何があっても絶対に許さない、とまで言われた。

 けれどもジルヴィオの父親が、金であっさり解決してくれたのだ。

 相手方も、大金を手にした途端、ジルヴィオを許したのである。


 その結末に、ジルヴィオは笑ってしまう。

 どんなに悪態を吐き、相手を嫌っている人達でも、大金を積んだら思い通りになれるのだ、と。


 その日から、ジルヴィオは変わった。

 両親を、愛おしい妹を守るために、強くなろうと決意したのだ。


 ジルヴィオは心を入れ替え、これまで家族を悪く言った者達に復讐することにした。

 もちろん、真っ向からやり返すわけではない。

 悪口を言ったクラスメイトの恋人をそそのかして別れさせたり、夜遊びや未成年飲酒や喫煙を先生に密告したり、父親や母親の不貞を暴いて家族を崩壊させたり。

 言葉というものは諸刃の剣で、これまでジルヴィオを深く傷つけていたものが、復讐に役立つのだ。

 最低で最高の武器に、ジルヴィオは気づいてしまった。


 大人になり、ベルンハルト商会で働くようになってからも、ジルヴィオは言葉を巧みに使い、商売を続けてきた。

 そのおかげで、評判はすこぶる悪い。

 けれども、両親や妹の悪口を言われるより、百倍マシだ。

 そう思いながら生きてきたのだ。

 妻、レイシェイラに出会うまでは――。


「というわけで、レイに出会ったおかげで、私は更生したわけです」

「し、信じがたいほど重たい話でしたわ!!」


 聞かなければよかった! と言われてしまう。


「なんと言っていいのかわかりませんが、他人の言う悪い言葉は、騒音か何かだと思って、聞き流すのが一番ですわ」

「今だったら、私もそう思えたかもしれません」


 過去についてレイシェイラが重たく受け止めるかもしれない、と思っていたが、彼女はジルヴィオが思っていた以上に強い女性だった。

 そんな彼女は真剣な眼差しを向けつつ、ジルヴィオに言った。


「ジルヴィオ様、もしも、今後、ご家族を悪く言う人達がいたら、わたくしを呼んでください」

「呼んで、どうするんですか?」

「跳び蹴りをかましますわ!!」


 まさかの勇ましい返答に、ジルヴィオは笑ってしまう。

 笑っているうちに、涙まで出てしまった。

 それはおかしさと、喜びと、切なさが混じったような、不思議な涙だった。

 レイシェイラのおかげで、幼少期の誰にも相談できなかった過去のジルヴィオが救われたような気がして、妙にすっきりとした気分となる。

 彼女は最高の妻だ、と改めてジルヴィオは思ったのだった。 

ジルヴィオの両親、アルフォンソとメルセデスの話をコミカライズしていただきました!

貴重なかわいい幼少期ジルヴィオをご堪能頂けたらなと思います!

挿絵(By みてみん)

表情豊かなツンデレおじさんと、クールで美しいメルセデス、天真爛漫かわいいジルヴィオなど、各キャラを魅力たっぷりに描いていただいております。

ぜひぜひ、お手に取っていただけたら幸いです!


あらすじ

三度の離婚を経験した宝石商のアルフォンソ・ベルンハルトに、子爵家令嬢メルセデスとの縁談が持ち込まれる。懇意の子爵の頼みを断りきれずしぶしぶ結婚を受け入れるも、すでに人間不信のアルフォンソはメルセデスに「屋敷から一歩もでるな」と、とんでもない条件を突きつけて――。

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