先走り男三人組、単独行動は死を意味する物と知れ
「デュフフフフフフ!!
小生は風になっているぅぅぅぅぅ!!」
根倉は風になっていた。能力では無い。これからの異世界転生生活に胸踊らせ、自身のポテンシャルを超越した脚力を発揮していた。
「はぁ……はぁ……ッ!!根倉君……ッ」
宇田川は必死に追うも距離が縮まる処かみるみる内に離されていく。
「宇田川!!」
「!!類家先生……」
「俺が追う、お前は引き返して皆と合流しろ!!いいな!!」
類家は宇田川を追い越すと根倉を必死に追い掛ける。
宇田川は徐々に速度を落とし、ゆっくりと歩くと立ち止まる。自身の膝に両手を置き、荒れた呼吸を整える。
しかし彼は振り返らず、再び類家の後ろから追い掛ける。何が起こるか分からないこんな世界。一人で戻るのも危険だが、類家と根倉を少人数で村の外に出す事だけは避けたかった。
「!!デュフフ!!村の外だ!!
小生の冒険は!!夢の異世界転生生活は此処から始ま――」
村と村の外の境目は地面がなくなり芝生のような草原だった。根倉が綺麗に跳びながらその境界を越えた――その瞬間。
「――がう♡」
――がぷっ。
「……へあ?」
根倉は何が起きたのか理解出来ていない。突然何かが目の前を横切って、根倉は着地が出来ずに地面に転がった。
「い、一体何……が……ひッ!?」
横切った方向を見ると、猫耳を生やした雌の獣人が……何かを咥えている。見覚えのある服の色、そして……靴……?
根倉は慌てて自身の脚を見て驚愕した。
――左脚の膝上から下が無くなっていた。
気付き、意識した瞬間に想像を絶する程の痛みが彼を襲う。
「ぎぃぃぃやぁぁぁああああああ!?いッ!?いだ、だ、いだ、いいぃぃだぁぃぃいいいいいあああぁぁぁぁあ!!?」
激痛で叫び、藻掻き苦しみのたうち回ると傷口から鮮血が飛び散る。傷口が熱い。まるで膝が何十倍にも膨らんでいるかのような壮絶な痛み!!
「もぐもぐ……ぺっ。不味いにゃ。やっぱり不細工は駄目にゃ。久し振りの獲物だからって下手こいたにゃ」
「ぐぅぅぅううううううううう!!!!!」
「にゃはは♡不細工だけど唆る顔してるにゃ♡」
「根倉!!」
類家が掛けると二人の間に、根倉を庇うように立ち塞がる。
「にゃ、イケメンにゃ♡」
獣人は口許に付着している根倉の鮮血を掌で拭うと舌を出して舐め取る。
「不細工は血も不味いにゃ……」
「ッ!!お前は何者だ!!」
「何者?
うちは『しとりー・びとる=しゅとり』にゃ」
その名と見た目で根倉が青ざめる。
「な――ッ!?はぁはぁ、なンでッ……序列十二位の大悪魔の『シトリー』がこんな最初の村にッ!?」
痛みと恐怖で根倉の汗と出血は止まらない。
「にゃは、それはうちが気紛れだからにゃ♡」
「……大悪魔だか何だか知らないが、俺の大切な生徒に手を出して……只で済むと思うなよッ!!」
類家は右手を目一杯開くとシトリーに向け、左手で手首を掴み固定する。
類家はチート能力『電磁気力』を有していた。根倉を追いながらステータスを確認していたのだ。物理の教師だった類家に与えられたその能力は、あらゆる物や生物に『磁力』を付与し、斥力と引力を自由自在に扱える。
(コイツに磁力を付与して斥力の力で飛ばす!!早く手当てをしないと根倉が――)
「確かに『磁力』系統は強いにゃ。
でも、うちの速度の前には無力にゃ」
ビチャビチャビチャ――ッ
類家の両の腕は肘から先が無くなり、滝のように鮮血が流れ落ちる。
「――ぐぅぅッ!?」
「先生ッ!!
はぁ……はぁ……小生の所為で……」
悪魔学にも精通していた根倉には分かっていた。シトリーには『秘密を暴く』力が有る。それはシトリーには相手の知らない情報が無い事に等しい。
能力も奥の手も全てが筒抜けなのだ。
「もぐもぐ……ん♡美味しいにゃ♡」
シトリーは幸せそうに類家の右手を貪り食っている。シトリーの右手には類家の千切れた血塗れの左腕を持っていた。
「腕だけじゃ足りないにゃ……全部食べちゃうにゃ……♡」
「先生ーーーッ!!」
「ッ!!宇田川!!」
「にゃー?にゃにゃ、またまたイケメンにゃ♡」
宇田川は大声を出してシトリーの気を態と引いた。そうする事が一番だと判断した。そして、能力を行使する。
「『軍略』!!」
それは敵に確実に勝つ為の戦略を何十、何百、何千、何万、何億通りも一瞬でシュミレーションし最適解を導き出す、軍師の力!!学級委員長として、生徒会長として生徒達を束ね、率いてきた彼に最適な能力!!
「――ば、馬鹿な……」
しかし宇田川に訪れたのは絶望。
『シュミレーション不可』
導き出す以前の問題だった。
敵の能力や力が未知数なのは戦とて同じ。しかし、本来の戦とは決定的に異なる点が存在する。
それが『味方の能力すら未知で有る』事だった。
根倉が飛び出し、類家も駆けて行き、自身の能力は知っているが彼ら二人の能力を知らないのだ。
更に不幸な事に二人は欠損。類家の能力は手を翳す必要がある為、両の腕を千切られた彼は実質無能力者になっていた。
根倉の能力は『夢想』。眠る事で夢を現実にする、現実逃避ばかりしてきた彼にお似合いのスキル。しかし脚の欠損の痛みで寝られる訳も無く、そもそも彼は未だ自分の能力を確認すら出来ていない状況。
そう、仮に導き出されていたとしても彼ら3人の生存確率も勝率も0%。
『駄目だ、死ぬ――!!』と3人が思った。
――その時だった。
――ピキッピキピキ。
「にゃ?」
バキィィィィィイイイイイン――ッ!!
シトリーの足元の地面が凍結していき、氷柱が突き上げシトリー周辺を氷山のように氷漬けにした。
「無事ですか!?」
遠くから呼び掛ける冷泉の姿は、3人の先走り男達の目には女神のように映っていた。
設定
宇田川 右京 ウキョウ・ウダガワ
能力『軍略』。敵に確実に勝つ為の戦略を何十、何百、何千、何万、何億通りも一瞬でシュミレーションし最適解を導き出す軍師の力。其々のルートの勝率と予想される犠牲者や街の被害等も分かる。自分達の能力を知らないと『シュミレーション不可』を吐き出す。敵が全くの未知の場合も同様。
根倉 寧 ネイ・ネクラ
能力『夢想』。眠る事で夢を現実にする。寝ている間は勿論無防備だが、夢はコントロールする事が出来る為寝たら最強レベル。しかし寝るのは自力、敵の能力や攻撃によって起きた場合、夢想の能力で具現化していたモノは全て消え失せる。
類家 類 ルイ・ルイケ
能力『電磁気力』。あらゆる物や生物に『磁力』を付与し、斥力と引力を自由自在に扱える。しかし手を翳す必要がある為両の腕が欠損したら行使できない。強力過ぎる故のデメリット。
シトリー・ビトル=シュトリ
序列十二位の大悪魔。見た目は猫の獣人のようだが実際は悪魔。猫では無くチーターと豹とジャガーがベース。チーターのティアーズラインが目の下に有る。身体や服の柄は豹柄。カタカナは使えないが自身の名前やチーター、ジャガーは平仮名で使う。イントネーションが『ちぃたぁ』等平仮名っぽい。髪色や体色、尾等全体的に黄色だが服は黒豹柄。チーターの速度+悪魔の力で全界最速。ジャガーの腕力と豹の身体能力が加わる為スタミナ切れを起こさない。面食い。味は外見に比例しない為完全に気持ちの問題。
能力『秘密』。相手の『秘密を暴く』能力で、『秘密』の定義は『シトリーが知らない事』。故に相手の情報全てを何のデメリットもリスクも無く一方的に引き出せるチート能力。




