6.
だから勿論、タイチはメルリに直談判した。メルリが第一の妻だし、それぞれの妻たちのところに行くスケジュールも全て彼女が管理しているからだ。
「結婚に疲れてきた……俺、病んだのかもしれない……。疲れたからメルリ以外とは離婚したい」
「そうですか……。もしかしたら裁判になるかもしれませんよ?」
「裁判か……。ヤミイが検察官の娘だから少しややこしいかもな……。色々とメルリに頼めるか?俺が頼れるのはもうメルリしかいないんだ」
「……!はい、手配しておきます。子どもはどうしますか?まずは遺伝子検査で、どの子がタイチさんの子か検査しないといけませんが……。タイチさんの子であれば、離婚の際どちらも引き取らない場合は国立孤児院に預けることになりま……」
「えっ!……俺以外の子の可能性もあるの?」
タイチは心底驚いた。自分以外の遺伝子の方が求められるなんて想定外だった。見た目良し身体能力良し知能良しの自分以外の遺伝子が欲しい女なんているわけないと無意識に思っていたのだ。
「そうです。多夫多妻ですから、それぞれみなさん別の夫がおりますよ。知りませんでしたか?」
「そんなの知らないだろ……?みんな言わなかったし……」
「それは言わないでしょう。この国では多夫多妻が始まったばかりですから、今はまだ別の夫を作る許可を得る必要があると定めた法案などはありませんし、それぞれ別の夫に聞かれなければ言う必要もありません。きちんとそういう証明を求める方や、別の夫を作る際にはきちんと申告するよう契約する方もいらっしゃるようですけど、タイチさんはそうではありませんから」
タイチは青ざめた。自身の子が沢山できたと思っていたのだ。
「それなら、全員遺伝子検査をして……。え。リンナのとこの双子の女の子も俺の子か分からないの?」
「そうですね。今のところはまだあの子たちは遺伝子検査をしておりませんから」
「ふーん。……ん?既に遺伝子検査している子もいるってこと?」
「はい。スンリさんのところは既に遺伝子検査をして、第一の夫の子だと分かっているようですね」
「ええ……。俺の子じゃなかった……ってことだよね?」
「はい」
「まあスンリの子は男の子だからいいけど……」
タイチはなんだかガックリとした。
(だから、どんなに子どもが産まれてても、赤ちゃんってなんかイマイチ可愛くないな……って思ってしまってたのかもな……)
そもそも、妻たちの妊娠中に彼女らに特に何の支援もしなかった彼がそう思うのも変な話ではあるが。でも、タイチはそれを全く酷いとは思っていなかった。結婚相手に何かをして貰うのも、正しいのも、いつだって自分のはずだったからである。
「ではそれぞれ遺伝子検査と、離婚請求書を出しておきますね」
「ああ。よろしくな」
ふと、タイチは疑問に思った。
「あれ?メルリも何人か夫がいる……よね?第一の夫がいるはずだし……いるんだよね?」
「はい、いますよ。タイチさんが結婚する前、しきりに第一の夫は嫌だとぼやいていましたから。タイチさんは今のところ、私の第三の夫となっていますね」
「そっか……その子は?」
タイチはメルリの膨らんだお腹を指差した。
「この子はまだ遺伝子検査はしていませんが、きちんと管理していましたから、第一の夫の子でしょう」
「あ、そう……。じゃあ俺メルリ以外の6人とは離婚で、新しい6人と結婚するから、しばらく週6日は自由にさせて貰うよ。新たに結婚することになったら結婚誓約書の手配もお願いできる?」
「……?いえ、多夫多妻になったことによって、1人と離婚した後の次の結婚は1年後となっております。これは男女関係なくそう決められています。今回は6人の方と離婚ですし、次の結婚は6年後になりますね」
「!?一律で1年後ですらないの?」
「はい。多夫多妻になったことにより、法施行直後から結婚と離婚を繰り返す方がいたようですね。去年の6月に急に法整備・罰則規定が行われ、最近施行が開始しました。それに多夫多妻を介して性病が広がってしまったと事件にまでなった例もありましたし、合法的にこの国の国籍を得る方まで出てきてしまったりと様々な悪事が行われたらしく……。この国は国立孤児院が整備されていたり、生活に困窮してしまっても生活を保護する仕組みが税によって支えられていたり、福祉が充実していたりと、国民にはとても手厚いですから……。犯罪の刑罰も軽いですしね。ですから他国の方々からすると、比較的住みやすい国のようでして……」
タイチは再度ガックリとした。報道閲覧用魔道具で報道を見ていたとはいえ、面白そうなものにしか目を通していなかったのは確かだった。
人間の目はあまりにも便利で賢く、無意識に取捨選択をしてしまうため、見たいものしか見えない人間はとても多い。
「俺の性病は大丈夫?」
「さあ……?分かりませんけど、どの妻の方もまだ発病していらっしゃらないから大丈夫ではないでしょうか?リンナさん以外の方は定期的に検査なさっているようですし」
「だからリンナ以外は生でしてくれなかったの!?」
「おそらくそうだと思います」
「……皆まだ子どもが欲しくないだけかと思ってたけど、よく考えるとそんなに何人も避妊したままで妊娠するわけないもんな。結婚してるのにわざわざ避妊具に細工する理由もないし……。俺が子どもを作るなって言ったこともないし……」
「はい。結婚を承諾する時点で、皆様子どものことや自身の将来についてある程度はきちんと考えられていたと思いますよ。子育てにもお金だけではなく、色々と準備が必要ですから」
「そんな準備頼まれたこともなかったな……」
「多夫多妻は平等が規定されていますが、今のところそれに違反しても処罰はありません。タイチさんは平等のためとおっしゃって、特に妻となった方々に金品を出されることを拒まれていましたから、皆様そういった意味での直接的な金品はタイチさんに期待されていなかったかと」
「まあな。俺には実際金もないしな」
「そうですね……。皆様それも充分ご存知ですから。それに、それぞれ皆様、タイチさんの妻ということや、多夫多妻に理解ある既婚者ということで、それを公表し拡散すれば社会的にある程度の信頼を得られましたから、その伝手や人脈を使って追加の夫希望者を募ったり増やしていらっしゃいましたし、どなたにとっても悪い結婚ではなかったと見ております」
「あー……。だから皆やたら、写真と動画を撮りたがってたのか……。リンナなんてかなり積極的だったしな」
「そうですね。彼女は動画撮影用魔道具でよく配信していらっしゃいますから。規約違反となっている無修正の性的配信を行いそうになっていたところだけは、流石にこちらで止めさせていただきましたけれど……」
「うぇっ!?そんなことまでしようとしてたの!?きっついなー……。流石リンナ……」
「……我が家の執事に何人か、非常に優秀な魔法使いがおりまして、彼らが兆候を察知し、魔道具を使って介入できましたから助かりました……。そうでなくては犯罪者の親類となってしまいますから」
「確かにな……」
(あっっっぶな!そんなのまで止めてくれてたのか!メルリと結婚しといて良かったー!女って頭悪すぎて放置しとくとほんと怖いな)
タイチはその時になってようやく、メルリと結婚したことの重さやその選択の無自覚な正しさに気付いたのだ。
薄々ではあったが。




