4.
「飲み物を」
「いつものでよろしいですか?」
「ああ」
カラカラン
「どうぞ」
「ありがとう」
ストレッチリムジンに乗りながら受け取った冷たいソーダで喉を潤す。リムジン内は飲み物も充実しており、広々として快適だった。
通信魔道具や動画再生用魔道具まで取り揃えられていたが、移動距離がそこまで長くないことも多く、高頻度には使用されなかった。
大体、手元の報道閲覧用魔道具の方が便利で面白かったのもあるが。
学園を卒業し、結婚書類を提出してから、(多夫多妻最高だな)とタイチは日々思っていた。
車内は殆ど揺れないが、僅かな振動でもカランとグラス内の氷が小気味良い音を立てる。
(金を稼がなくてもいいし、毎日言われた通りに移動してそれぞれの女のところに行けばいい。妻は平等に扱わなければならないって前提があるから妻を増やすと大変かもしれませんよ、ってメルリが言ってた気がするけど、それなら最初から全員に何も与えてやらなきゃいいしな)
自らは物理的には何も与えず、生活に必要なすべては女から与えてもらう。その最たる者がメルリであった。送迎リムジン内にもタイチの世話をしてくれる執事がいるが、彼を用意してくれてるのもメルリである。
「送り迎え?いいよそんなの」
「いえっ、タイチさんの身に危険があってはいけませんから……!」
「メルリは何でもかんでも気を遣いすぎな?俺と一緒にいる時ぐらい気を遣わなくていいって。俺は自転車でも走ってでも移動できるし、公共交通機関だってあるんだから」
「タイチさんは精神的に繊細な方ですし、もし万が一誘拐されてしまっては危険ですし……!」
「はははっ。精神的にはそうだけどさ、それは流石に心配しすぎだよ」
タイチは笑いすぎて涙が出てきていたが、メルリは真剣だった。
「でも、病院にも行けないほどではないですか……!多数の方がいないところや元々通っていた場所なら大丈夫とのことですけど、混雑した道端でタイチさんがしんどくなって倒れてしまわれたら……!我が家の執事もお付けします!」
「いや、どんだけだよ!……分かった分かった。でも、メルリの第一の夫にまで嫉妬されないか?」
「そこは大丈夫です!」
「いつもありがとな」
(ほんとお嬢様ってのは重いし面倒くさいな)
タイチはそう思ったが、ニッコリと笑った。その後紹介されたのが、今リムジン内にいる執事である。
「この方です!」
「うおー!執事っぽい!」
「よろしくお願いいたします」
「こちらこそ……よろしくお願いします。えーと、お名前は?」
「私どもの名などお気になさらず。執事とだけ呼んでいただければ」
(めちゃくちゃそこら辺にいそうな普通の男だな!?服が支給の制服だから執事なのは分かるけど……)
ただ、その男は確かに仕事ができた。財閥の採用担当はかなり優秀なのかもしれない。
今飲んでいる生メロンソーダを手早く用意してくれたのも彼である。いつも澱みない手捌きで、車内なのに生メロンソーダである。
毎回目の前で見ているのに、どこに何をどう準備してどうしてそんなに手早く出せているのか何故こんなに上手い具合に均等に混ざっているのかいまいち分からない。まるで手品師のような男であった。
会話にもそつがないし、タイチが気を抜くと、いるのかいないのかも分からないほど静かにしている。
いや、男の話はいいのだ。妻のことを考えなくてはならない。
(全員俺には好意的だし、何かあったり飽きれば離婚する権利があるしな。飽きたら離婚して別の女を妻にすればいい。離婚したら財産分与があるが、俺には財産なんてないから、失うものは何もない)
そうやって毎日それぞれの女のところに行っていたタイチだが、2年もすると結婚に飽きてきた。
まず、気楽な男同士の会話が少ないこともストレスの原因だったかもしれない。
学園を卒業してすぐの頃は連絡があった友人たちも、3ヶ月もするとほとんど連絡をよこさなくなってきていた。
1ヶ月は気にならなかったタイチだが、暇になると気楽だった友人たちとの会話を思い出すものである。
それに、ストレッチリムジンで毎日妻たちの間を移動しなければならないタイチと、仕事を始めたり各地の魔法研究学園へ進む友人たちとでは生活が違いすぎて、合う会話もなくなってきていた。
妻たちの家に行って何をするかと言われても、いつも変わりばえしない毎日である。動画再生用魔道具で動画を見たり、家庭用娯楽機で娯楽を楽しんだり、読書したり。
元々趣味だった団体競技をすることもなくなっていた。以前から通っているジムで毎日筋トレだけはしていたが、何人かで集まってスポーツをするとメルリに言っている精神的に弱いという話と整合性が取れなくなる。
(仕事はしたくないしな)
それに、女が積極的だったからなのか、タイチの種が良かったのかは分からないが、それぞれの妻に子が出来始めたのである。
タイチも妊娠中は流石に気を使うし、なんとなくそんなことをする気にもなれなかった。つまり、1人が妊娠してしまって気が乗らなくなっても、嫌々ながらも我慢して愛を育むか、全員との行為を諦めるかどちらかである。
(メルリが全部管理してるせいで、遊びにも行けないしなー。たまには妻以外と息抜きがしたい)
それに、毎日行く度にではないが、そんな気分でもないのに求められることも多かったから、自分が種馬みたいで嫌気がさしてきていた。
(大体、平等だからって、週毎にやるかやらないか決めなきゃいけないのがそもそもきつい。気分なんてその日次第だろ)
平等に遇するというのはできそうに見えて案外できないのが現実である。そもそも、常に平等を考えなければならないのはかなりつらいからだ。週の最初の日にハッスルして3回やってしまうと、残りの6日も同様の内容を求められるのだ。しかも、妻が断るならともかく、求められたらタイチは拒否できない。
拒否すると平等に反してしまう為、離婚する権利が相手に与えられる可能性が高いとメルリから聞いているからである。
そもそも、何故そんなに詳しく妻たちの間で情報共有されているのか、そこを疑問に思うべきであったが、タイチにとってはこれが初めての結婚だったし、多夫多妻婚なんて経験者は少なかったから何が普通かも分からなかった。
タイチにとっては、それが普通だったのだ。
「あー!もう無理!飽きた!てか一生同じ相手とやり続けるって無理だわ俺。結婚向いてないな」
ついでに妻たちの容姿に飽きてきたのもあるが。
「大体、自分の意思で相手を新陳代謝できないのがきつい!新しい相手が欲しい!」
いくら相手が多くても、美人でも、身体が良くても、飽きるものは飽きる。それに、毎日動画再生用魔道具や報道閲覧用魔道具で様々な女を見ていると、(あの子も落とせそうだなー。住んでるのは……。いや、移動は全部メルリが手配しちゃうから無理だな)という具合に落とし方を現実的に計画してしまうのだ。
(結婚できるのは20からだからな。もっと若くて純粋な子を新しく妻にしたいな。あいつらには飽きてきたし、そろそろもっと可愛い子も出荷されるだろ)
タイチはモテすぎていたせいか、女を大人のおもちゃか家畜のようにしか思っていなかった。
実際、タイチ自身が幼少期からそのように扱われていたというのもあるのかもしれない。




