表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
敗戦国家の神様 ~巫女ひとりにしか神託を届けられない俺が、滅びかけの小国を大陸最大の帝国へ導くまで~  作者: 百香スフレ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/19

7話 黒狼隊

 ザイードの名誉が回復してから数日後。


 村には、ようやく穏やかな空気が流れ始めていた。

 泉からは絶えず水が湧き、難民たちも畑仕事や家屋の修繕を手伝うようになっている。


 子どもたちの笑い声も少しずつ戻ってきた。


 そんなある日の朝だった。


「⋯⋯?」


 神殿から村を見下ろしていた直人は、小さく眉をひそめた。


 視界の端、森の向こうで何かが動いている。


 神力——と呼んでいる謎パワー——を集中させる。

 すると、以前より遥か遠くまで景色が鮮明に映し出された。


「これは⋯⋯」


 黒い軍旗。百騎近い騎兵。


 その先頭には、大きな黒狼の紋章が描かれている。

 兵士たちは行軍というより、獲物を探す獣のように周囲を見回していた。


 村を避ける気配はない。一直線にこちらへ向かってきている。


 直人の背筋に嫌なものが走った。


「リシェラ!」


 神殿を掃除していたリシェラが顔を上げる。


「はい、神様」

「急いでザイードを呼んで」


 その声には、今までにない緊張が滲んでいた。



 ほどなくしてザイードが神殿へ駆け込んできた。


「神様、何がありました」


 リシェラを通して直人は告げる。


「森の向こうから騎兵隊が来る」


 ザイードの表情が変わる。


「数は?」

「百くらいかな」


 その場にいた兵士たちが息を呑んだ。


「百⋯⋯」

「こっちは六十人ちょっとしかいないぞ」


 直人は続ける。


「旗に黒狼の紋章が描かれてる」


 その瞬間だった。

 ザイードの顔色が変わる。


「黒狼隊⋯⋯!」


 その名を聞いただけで、兵士たちの表情から血の気が引いた。


「まさか⋯⋯」

「本当に黒狼隊なのか」


 一人の兵士が震える声で呟く。


 リシェラが不安そうに尋ねた。


「知っている方々なんですか?」


 答えたのはザイードだった。


「あいつらは帝国軍の中でも異例中の異例————。略奪専門の部隊だ」


 神殿の空気が重くなる。


「村を襲い、食料を奪う。逆らえば殺す。女も子どもも関係ない。逆らわなくとも、男は殺し、女は犯し、子どもは売り飛ばす。帝国軍でも飛び抜けて強い彼らには、超法規的な略奪の権限が与えられている」


 静かな口調だった。


 だからこそ、その言葉の重みが伝わってくる。


「大陸最強の帝国軍の中でも——最悪と言っていいだろう。まぁ百人なら、黒狼隊のほんの一部の小隊だろうがな」


 直人は森の先を見続けた。


 黒狼隊はまだ距離がある。

 だが進路は変わらない。


 完全にこの村を目指している。


(徴収じゃない。狩りに来てる)


 そう理解した瞬間だった。


「逃げますか」


 兵士の一人が尋ねる。

 ザイードは首を横へ振る。


「無理だ。老人も子どももいる。歩いて逃げても追いつかれる」


 誰も反論できなかった。


 リシェラは神殿の祭壇を見つめる。


「神様⋯⋯」


 直人は考える。

 自分は周囲を俯瞰し、敵も見える。だが、それだけだ。

 まだ奇跡で敵を倒せる力はない。


(俺一人じゃ勝てない)


 その時、前世の記憶がふと蘇る。あらゆる情報を整理し、人を動かしてきた日々。それらは決して戦争のための経験では無いが——。


(そうだ。俺が戦えなくても、俺には情報を集める力がある。そして、情報は武器になるはずだ)


 直人は意識をさらに広げた。

 村。その奥の森。そこに流れる川や谷。

 その全てを見渡す。


 そして。

 一か所で視線が止まった。


「⋯⋯あった」

「神様?」


 直人は静かに言う。


「村へ来るまでに、細い谷がある」


 ザイードが地図を思い浮かべるように目を閉じた。


「ある。両側が崖になってる場所だ。そこでしか通れない」


 直人は確信した。


「そこなら数の差を消せる」


 ザイードは目を見開く。兵士たちも顔を上げた。六十人で百人を迎え撃つのは、本来なら無謀だ。


 だが、戦う場所を選べるなら話は変わる。


 ザイードはゆっくりと笑った。


 ここ数日で初めて見る、戦士らしい笑みだった。


「なるほど。神様は戦場まで見えているのか」


 リシェラが神託を伝える。


「神様は、谷へ誘い込めと仰っています」


 兵士たちが顔を見合わせる。


 そして一人が口を開いた。


「やれるかもしれない」

「いや⋯⋯やるしかない」


 ザイードは静かに剣の柄へ手を置いた。


「全員、整列!」


 兵士たちが一斉に姿勢を正す。敗戦の責任を背負わされた敗残兵たち。

 だが今は違う。彼らの目には、再び戦う意思が宿っていた。


 ザイードは全員を見渡す。


「俺たちは村を守る。神様が道を示してくださった。あとは俺たちの仕事だ」


 六十四人の兵士が、一斉に拳を胸へ当てた。


「応!」


 その声は、敗者のものではなかった。


 直人は静かにその光景を見つめる。


(人は、情報だけじゃ動かない。信じられる誰かがいて、初めて動ける)


 神は道を示す。歩くのは人間だ。

 その信念を胸に、直人は迫り来る黒狼隊を見据えた。


 この世界で初めての、本当の戦いが始まろうとしていた。

評価、ブックマーク、感想など励みになります。

モチベーションになりますので、よろしくお願いします。


また、作者Xにて更新通知を行っております。

新作の通知なども行いますので、ぜひフォローお願いします。

@MokaSufure

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ