表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
敗戦国家の神様 ~巫女ひとりにしか神託を届けられない俺が、滅びかけの小国を大陸最大の帝国へ導くまで~  作者: 百香スフレ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/18

16話 新商品開発

 ティアナがイルヴァナト村の帳簿を預かって三日。


 神殿前の集会所には、朝から大量の紙が並べられていた。


「ひどいわね」


 ティアナは一枚の帳簿を持ち上げた。


「本当にひどい」

「二回言った⋯⋯」


 隣に座るリシェラが小さく呟く。


「だって、本当にひどいんだもの」


 ティアナは机を指で軽く叩いた。


「蜂蜜を売ったお金、商隊から買った塩、農具の修理費、共同倉庫の食料、兵士の装備。全部別々の人間が記録してるでしょう?」

「はい」

「しかも書き方が全員違う」

「はい⋯⋯」

「昨日残っていた銀貨の枚数すら、三つの帳簿で数字が違うわ」


 リシェラが申し訳なさそうに俯いた。


 直人は神殿から二人のやり取りを聞きながら苦笑した。


(まあ、そうなるよな)


 人口百人ほどなら、誰が何を持っているか顔を合わせて確認できる。


 だが現在は千八百人。


 畑も増えた。漁をする者も、養蜂をする者もいる。あと、商隊との取引も増えた。

 村が急速に大きくなったせいで、仕組みが追いついていなかった。


「神様」


 リシェラが祭壇を見る。


「ティアナさんが、村のお金をすべて一つの帳簿で管理したいそうです」

「うん。それがいいと思う」

「あと、共同倉庫に入る物も価値を記録したいと」

「それもお願いしよう」


 直人には分かる。


 金だけ数えていても駄目だ。

 食料や道具も村にとっては資産だ。前世の役所でも、予算だけでは事業は動かなかった。


 何にいくら使い、何が残り、次に何が必要になるのか。

 それが見えなければ計画を立てられない。


 ところがティアナは、直人が考えていた以上のことを始めた。


「養蜂をしている家は十二軒」

「はい」


「なのに巣箱の数が全部違う。蜂蜜を共同販売するなら、生産量を記録するわ」

「分かりました」


「魚は?」

「昨日は百七十匹ほど共同倉庫へ」

「種類は?」

「え?」

「魚によって保存できる日数が違うでしょう」

「あ⋯⋯」


「薬草も種類別。畑は作物別。木材は長さと用途を分ける。鉄製品は修理できる物と買い替える物を分けて」


 周囲で作業を手伝っていた村人たちの顔が引きつっていく。


「そこまでやるのか⋯⋯?」


 一人が呟いた。


 ティアナは当然のように答える。


「やるわよ」

「大変すぎないか?」

「何を持ってるか分からない村が、どうやって次に必要な物を決めるの?」


 誰も反論できなかった。


(強いなあ⋯⋯)


 直人は感心していた。


 自分なら、もう少し柔らかく説明しただろう。

 だがティアナは必要なことを迷わず進めていく。


 そして五日後。

 最初の集計結果が出た。


「足りないわ」


 ティアナの第一声だった。


「何が?」


 リシェラが尋ねる。


「全部」

「全部!?」

「正確には、今は足りてる。でも半年後には足りなくなる」


 ティアナは新しく作った帳簿を開いた。


「人口が増えているのよ。この三か月だけで百人以上増えた。このままなら食料の消費も、塩も、農具も、薬も増える」


 リシェラの表情が曇る。


「また食料が足りなくなるんでしょうか?」

「食料は今の生産量ならまだ大丈夫。でも問題は金」


 イルヴァナト村は蜂蜜を売っている。

 保存食や薬草も売り始めている。しかし、外から買う物も多かった。


 人口が増えれば、その支出も増える。


「このまま人数だけ増えたら、いずれ貯めたお金が尽きるわ」


 直人も考え込む。


(収入を増やさないと駄目か)


 蜂蜜だけに依存するのは危険だ。


 一つの商品が売れなくなれば終わる。


「リシェラ」

「はい」

「ティアナに、何を売ればいいと思うか聞いてみて」


 ティアナは少し考えた。


「商品を見てから決めたいわね」

「商品?」

「この村の周りに何があるのか、私は知らないもの」


 直人はそこで気付いた。


(それなら、俺が探せばいい)


 神の視界を広げる。


 一年前とは比べものにならない範囲が見える。


 森や川に、人々が開墾した畑。

 そのさらに外側まで意識を伸ばす。


 何か売れる物、外から買われる物⋯⋯。

 蜂蜜とは違う、この土地ならではの資源⋯⋯。何か、何か無いかな⋯⋯。


 東の森には薬草がある。すでにエレナたちが使っている。

 川には魚がいるが、保存には手間が掛かる。


 さらに視界を広げた時、北側の森に見慣れない木々が密集している場所があった。


(あれは⋯⋯?)


 枝には小さな赤い実が大量についている。


 村人が普段採っている様子はない。


「リシェラ。北の森に赤い実がなる木があるんだけど、誰か知ってるかな?」


 話を聞いた老人が答えた。


「ああ、ロッカの実ですな」

「食べられる?」

「そのままでは酸っぱすぎます。昔は煮て肉料理に使う者もいましたが、今ではほとんど誰も採りません」


 ティアナが顔を上げた。


「見せて」


 すぐに数人が森へ向かい、実を持ち帰った。


 ティアナは一粒口へ入れる。


「酸っぱ⋯⋯!」


 顔をしかめた。


「ティアナさん、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないわよ。何よこれ」


 リシェラが少し笑う。


 だがティアナはすぐに真剣な表情へ戻った。


「でも、悪くない」

「え?」

「砂糖か蜂蜜で煮たら保存できる」


 直人も思いつく。


(ジャムみたいにできるか)


 蜂蜜なら村にある。

 試しに潰した実を蜂蜜と一緒に煮てもらった。


 完成したものをパンへ塗る。


 最初に食べたのはエレナだった。


「⋯⋯美味しいです!」

「本当?」


 リシェラも口にする。


「甘いのに少し酸っぱくて⋯⋯これ、好きです」


 子どもたちにも好評だった。

 ティアナはすぐに計算を始める。


「待って。この実、どれくらい採れるの?」

「かなりあると思う」


 直人は神の目で森を見る。


「北側だけでも、今見えてる範囲なら数百本はあるかな」


 ティアナの指が止まった。


「数百?」

「うん」

「全部、誰も使ってない?」

「たぶん」


 ティアナの目が変わった。


「神様」

「何?」

「この村、本当にずるいわね」


 直人は意味が分からない。


「森の中に商品がある場所を、歩き回らずに見つけられるんでしょう?」

「ああ⋯⋯まあ」

「商人が何年もかけて探す情報を、一瞬で手に入れられるじゃない」


 ティアナは立ち上がった。


「これ、売れるわ」


 翌日から村人たちはロッカの実を採り始めた。


 ただし直人は、すべて採り尽くさないよう神託を出した。


 来年も実がなるように、木を傷つけず、一定量を残す。

 採った実は蜂蜜で煮て、小さな壺に詰める。


 最初の二十壺が完成した頃、ちょうど商隊が村へやって来た。


「これは何だ?」

「イルヴァナトで作った保存果実よ」


 ティアナが商人へ試食させる。


 男は一口食べると、もう一度パンへ付けた。


「⋯⋯いくらだ?」


 ティアナが笑う。

 そこから先は彼女の仕事だった。


 三十分後、用意した二十壺はすべて売れた。


 さらに次回分として百壺の注文まで入った。


「百!?」


 村人たちが歓声を上げる。


「そんなに売れるのか!」

「森にいくらでもあるぞ!」

「神様がまた見つけてくださった!」


 その声を聞いた直人は、少し嬉しくなる。


 ティアナも神殿を見る。


「神様」


 リシェラを通して声が届く。


「あなた、商売分かってないと思ってたけど訂正するわ」

「俺は何も売ってないよ」

「売る物を見つけてるじゃない」


 ティアナは笑った。


「それが一番難しいのよ」


 その日から、村では新しい言葉が広まり始めた。


 困ったことがあれば神様へ聞く。

 売る物がなければ神様に探してもらう。

 場所が分からなければ神託を待つ。


「神様に聞けば何とかなる」


 誰かがそう言い始めると、多くの村人が当然のように頷いた。


 直人も、その言葉を聞いていた。


(⋯⋯まあ、今はそれでもいいか)


 頼られるのは嫌ではない。

 むしろ自分の力で生活が豊かになっていくことが嬉しかった。


 イルヴァナト村は、もう飢えないだけの場所ではない。


 少しずつ、金を稼げる村になり始めている。

 だが、その成長には新しい問題も生まれていた。


 畑が増え、人が増え、作る物も増えたことで、農具の修理が追いつかなくなっていた。


 何より深刻なのは鉄だった。

 ザイードから報告を受けたリシェラが告げる。


「神様。農具に使う鉄が、あと二か月ほどで足りなくなるそうです」

「鉄か⋯⋯」


 直人は視界を北西へ向けた。


 遠くに連なる山々が見える。


 その山中に、以前から気になっている場所があった。

 煙が上がっている。小さな集落があるようだ。


 そして、神の目で見ても分かるほど大量の金属と炉。


(あそこなら、何か分かるかもしれない)


 イルヴァナト村が次に必要としているのは、金ではなかった。


 人々の暮らしを支える、鉄と技術だった。

評価、ブックマーク、感想など励みになります。

モチベーションになりますので、よろしくお願いします。


また、作者Xにて更新通知を行っております。

新作の通知なども行いますので、ぜひフォローお願いします。

@MokaSufure

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ