表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
敗戦国家の神様 ~巫女ひとりにしか神託を届けられない俺が、滅びかけの小国を大陸最大の帝国へ導くまで~  作者: 百香スフレ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/18

12話 冬越え

 秋が過ぎ、冷たい風が村を吹き抜けるようになった。


 神殿から見下ろす景色も、少しずつ色を変えていく。


 青々としていた畑は収穫を終え、黄金色の切り株だけが並ぶようになった。


 共同倉庫の中には、乾燥させた野菜や穀物、燻製肉、干し魚が整然と積み上げられている。


 直人はその光景を見ながら、小さく息を吐いた。


(ここまで来られたな)


 最初に目覚めた日、この村には絶望しかなかった。


 焼けた家、飢えた子ども、明日を諦めた大人たち。

 それが今では、自分たちの手で冬を迎える準備を終えようとしている。


 もちろん、それだけで安心はできない。


 冬は始まりに過ぎないのだから。



「神様」


 祭壇の前へリシェラが立つ。


「共同倉庫の確認が終わりました」

「どうだった?」

「食料は計画通りです。皆さんが決められた量をきちんと納めてくださいました」

「そっか」


 直人は少し嬉しくなった。


 前世でも、備蓄計画は簡単ではなかった。

 目先の生活が苦しければ、人はどうしても今日の分を使ってしまう。


 だからこそ、共同で管理する仕組みが重要になる。


 それを、この村の人々は理解してくれた。


「あと⋯⋯」


 リシェラが少し笑う。


「皆さん、最近は『神様がそう仰るなら』ではなく、『村のみんなで決めたことだから守ろう』と言ってくださるようになりました」


 直人は目を細めた。


 嬉しい傾向だ。

 神が命令したからではない。自分たちで納得して動いている。それこそが、自分の望んでいた形だった。



 冬は、突然やって来た。


 一晩で村は白く染まる。


 屋根には雪が積もり、森の木々も白い衣をまとっていた。


「今年は早いな」


 ザイードが空を見上げる。


「例年なら、もう少し後なんだが」


 兵士たちは見回りを続け、狩人たちは雪山へ入る。


 女性たちは保存食を配り、エレナは風邪を引いた子どもたちを診て回る。


 誰も暇な者はいない。


 それでも村に悲壮感はなかった。


「今日は魚の干物だ!」

「昨日は燻製だったから嬉しいね」

「野菜もあるぞ」


 子どもたちの笑い声が響く。


 直人は、その様子を静かに眺めていた。


 今の自分には寒さも分からない。雪の冷たさも感じない。神になって失ったものの一つだ。


 けれど、その代わりに見えるものがある。


 人々の表情だ。それは、希望に満ちていた。

 それが、今は何より嬉しかった。



 一方、その頃。

 村から半日の距離にある集落では、飢えが始まっていた。


「もう食べ物がない⋯⋯」

「昨日、おじいちゃんが亡くなった」

「帝国軍が全部持っていったんだ」


 さらに別の村では疫病が広がる。


 弱った者から次々と命を落としていく。

 その噂は旅人や行商人によって各地へ広がっていた。


「今年の冬は酷い」

「いくつ村が消えるんだろうな」

「この辺りも終わりだ」


 誰もがそう思っていた。


 ただ一つの村を除いて。



 冬も半ば。


 共同倉庫では長老たちが帳簿を確認していた。


「まだ余裕がありますな」

「魚も十分残っています」

「野菜も傷んでいません」


 保存方法を工夫した成果だった。

 乾燥、燻製、地下貯蔵⋯⋯。どれも特別な技術ではない。しかし、それらを村全体で徹底したことが大きかった。


「神様のおかげです」


 誰かが呟く。しかし直人は首を横へ振った。


「いや」


 ゆっくりと言う。


「俺は道を示しただけだ。その道を歩いたのは、君たちだよ」

「神様⋯⋯!」


 直人の神託をそのままリシェラが伝える。

 村人たちは、その言葉に感動し、感謝した。


 直人は、自分が全部やる国にはしたくない。人が考え、人が支え合い、人が未来を作る。そう考えていた。



 やがて長かった冬が終わる。


 雪解け水が川を流れ、草花が少しずつ顔を出し始めた。

 子どもたちは我慢できず、広場を走り回る。


「春だ!」

「もう寒くない!」


 大人たちも自然と笑顔になる。


 そして、この冬。

 村では一人の餓死者も出なかった。


 疫病も広がらなかった。

 難民も含め、多くの人が春を迎えることができた。


 村人たちは神殿へ集まり、静かに頭を下げる。


「ありがとうございました」

「冬を越えられました」

「家族みんな、生きています」


 小さな祈りが積み重なる。

 温かな光が次々と直人へ流れ込んできた。


 以前とは比べものにならないほど大きな光だった。


 神力が、また少し増していく。



 その日の昼過ぎだった。


 見張りの兵士が慌てて村へ駆け込んでくる。


「人です!」


 ザイードが立ち上がる。


「帝国軍か?」

「いえ⋯⋯違います!恐らく他所の村人が、三人来ます!」


 しばらくして、痩せ細った三人の男女が村へ入ってきた。


 服はぼろぼろ。

 長旅だったことは一目で分かる。


 先頭に立つ老人が、神殿を見上げた。


「ここが⋯⋯」


 震える声で呟く。


「神託の村⋯⋯」


 村人たちが顔を見合わせる。


 もう、その名で呼ばれるようになっていた。


 老人はゆっくりと膝をついた。


「お願いです」


 深く頭を下げる。


「どうか⋯⋯我々の村にも、神託を授けてください」


 神殿の中で、直人は静かに村を見渡した。


 数か月前。ここは滅びを待つだけの場所だった。


 今は違う。

 笑う子どもがいる。働く大人がいる。未来を語る人々がいる。

 そして、その希望を求めて、新たな人々がやって来た。


 直人は穏やかに微笑む。


「⋯⋯ここからが、本当の始まりだ」

評価、ブックマーク、感想など励みになります。

モチベーションになりますので、よろしくお願いします。


また、作者Xにて更新通知を行っております。

新作の通知なども行いますので、ぜひフォローお願いします。

@MokaSufure

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ