表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
敗戦国家の神様 ~巫女ひとりにしか神託を届けられない俺が、滅びかけの小国を大陸最大の帝国へ導くまで~  作者: 百香スフレ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/19

10話 神の加護

 黒狼隊第三十八番小隊を退けた日の夕方。

 村は、これまでにない熱気に包まれていた。


「勝ったぞ!」

「黒狼隊を追い返したんだ!」

「俺たちが⋯⋯勝った!」


 ザイードたちが帰ってくる。

 傷だらけだった。鎧は泥と血で汚れ、何人もの兵士が仲間に肩を貸されている。


 それでも誰一人、俯いてはいなかった。

 村の入口では、家族や住民たちが彼らを迎えていた。


「父ちゃん!」


 幼い少年が兵士の一人へ飛びつく。


「おっと⋯⋯!痛えって!」


 そう言いながら、男は笑っていた。


 泣きながら夫へ抱きつく女。

 帰ってきた息子の顔を何度も撫でる老人。


 直人は神殿から、その光景を静かに眺めていた。


(⋯⋯良かった)


 戦場に残された死者を見た時とは違う。

 生きて帰ってきた者たちを見ると、はっきりと嬉しい。


 胸が温かくなる。


 やはり、自分の中から感情そのものが失われたわけではないらしい。


 少しだけ安心した。

 そんな事を思っていると、村のあちこちから淡い光が浮かび上がる。


(⋯⋯まただ)


 光は一つや二つではない。十、百⋯⋯それ以上。これまでとは比較にならない数だった。


 勝利を喜ぶ者。

 家族が帰ってきたことに感謝する者。

 神殿へ向かって手を合わせる者。


 その全てから生まれた光が、直人へ流れ込んでくる。


「うわっ⋯⋯!」


 思わず声が漏れた。


 世界が一瞬、白く染まる。無いはずの目を開けると(目を開ける感覚が一番近い)今までより遥か遠くまで、自分の意識が一気に広がった。


(神力が⋯⋯増えてる)


 しかも、それだけではない。

 自分の中に、今までなかった何かがある。


 使い方を教えられたわけでもない。

 それなのに、本能的に理解できた。


(一人だけ⋯⋯人間へ力を与えられる?)


 加護。

 そんな言葉が自然と浮かんだ。


 人間一人へ、自分の神力の一部を分け与える。

 どんな力になるかは、与える相手と自分の願いによって変わるらしい。


「神様?」


 騒ぎすぎたのか、リシェラが語りかけてくる。


「どうされました?」

「新しいことができるようになったみたいだ」

「新しいこと⋯⋯?」

「たぶん、一人だけに加護を与えられる」


 リシェラの瞳が大きくなる。


「神様の加護⋯⋯!」


 声が少し大きかったらしい。


 近くにいた村人が聞きつけた。

 そして噂が広がるまで、それほど時間は掛からなかった。


「神様が加護を授けられるらしい!」

「誰に!?」

「そんなのザイードさんしかいないだろ!」


 いつの間にか神殿の前へ大勢の村人が集まっていた。


「ザイードさんならもっと強くなれる!」

「黒狼隊を倒した英雄だ!」

「神様、どうかザイードさんへ!」


 直人は少し困った。


(まあ⋯⋯そうなるよな)


 今回、一番活躍したのは間違いなくザイードだ。


 自分が敵の位置を見つけても、それだけでは勝てなかった。

 的確に兵を動かし、自ら剣を振るい、最後にはガラムを倒した。

 戦力という意味では、ザイードへ加護を与えるのが最も合理的なのだろう。


 やがて本人も神殿へ戻ってきた。

 右腕には包帯。額にも小さな傷がある。


「ザイードさん」


 リシェラが事情を説明すると、ザイードはすぐに首を横へ振った。


「俺には必要ない」


 村人たちが驚く。


「しかしザイードさん!」

「次も黒狼隊が来るかもしれない!」

「強くなった方が!」

「もっと必要な奴がいる」


 ザイードはそれだけ言った。


 直人は思わず笑う。


(君ならそう言うと思ったよ)


 その時、視界の端に一人の少女が映った。


 村の外れ。

 負傷兵たちを集めた簡素な治療所。


 十五歳ほどだろうか。

 服の袖をまくり、血で汚れた布を何度も洗っている。


 戦いが終わってからずっと、怪我人の治療を続けていた少女だった。


 一人の兵士の傷口へ新しい布を巻く。


「痛みますか?」

「大丈夫だ」

「嘘です。顔が引きつっています」

「はは⋯⋯厳しいな」

「我慢しないでください」


 少女自身も疲れていた。


 手は震えている。それでも休もうとしない。

 別の負傷者へ駆け寄り、水を飲ませる。


 直人はしばらく、その姿を見つめた。


「リシェラ」

「はい」

「あの子は?」


 リシェラも少女へ目を向ける。


「あの子ですか?村の薬師のお手伝いをしている子で——エレナという子です。今回も、皆さんが戦っている間からずっと治療の準備をしていました」

「そうか」


 直人は決めた。


「加護は、あの子へ与える」

「え?加護を、エレナにですか?」


 リシェラが驚く。

 リシェラの復唱した発言に、神殿の前にいた人々もざわめいた。


「ザイードさんではないのですか?」

「うん」


 直人は静かに答える。


「ザイードさんは十分強い」


 もちろん、さらに強くする意味はある。しかし——。


「今回、戦った人たちだけが村を守ったわけじゃないと思う」


 リシェラは黙って聞いている。


「怪我をした人を治す人がいた。水を運んだ人がいた。帰る場所を守っていた人たちがいた」


 直人は治療所を見る。


「だから俺は、傷ついた人を一人でも多く助けられる力を渡したい」


 リシェラの顔が柔らかく綻んだ。


「分かりました」


 彼女は治療所へ向かう。


 エレナは突然呼ばれ、訳も分からないまま神殿の前へ連れてこられた。


「わ、私ですか?」


 緊張しているのか、何度も周囲を見る。


 リシェラが優しく頷いた。


「神様が、あなたへ加護を授けたいと仰っています」

「私に⋯⋯?」


 少女は信じられないという顔をした。


「でも、私⋯⋯何もしてません」


 その言葉を聞いて、直人は即座に否定した。


「そんなことないよ」


 もちろんエレナには聞こえない。

 リシェラが代わりに伝える。


「神様は『そんなことはない』と仰っています」


 少女の目から涙が零れた。直人は意識を集中する。


(この子が、一人でも多くの人を助けられますように)


 その願いと同時に。


 金色の光が神殿から少女へ降り注いだ。


「⋯⋯!」


 少女の身体を淡い光が包む。


 周囲からどよめきが起きる。


「神様の光だ⋯⋯」

「本当に加護を⋯⋯」


 やがて光が消える。


 少女は自分の両手を見つめていた。


「何か⋯⋯温かい」


 そこへ負傷した兵士が運ばれてくる。


 傷口から血が滲んでいた。

 少女が反射的に手を添える。


 すると、淡い金色の光が傷口を包んだ。


「え⋯⋯?」


 出血が止まる。

 深かった傷が、僅かではあるが目に見えて塞がっていく。


「治った⋯⋯?」

「神の加護だ!」


 村人たちから歓声が上がった。


 だが直人は、派手な奇跡そのものよりも、泣きながら喜ぶ少女と、助かった兵士を見ていた。


「神様」


 リシェラが祭壇を見上げる。


「どうして、あの子だったんですか?」


 直人は少し考えた。


 そして答える。


「勝つことも大切だと思う」

「はい」

「でも、勝つために人がいるわけじゃない」


 村で笑っている人々を見る。


「人が生きるために、戦うんだと思う」


 リシェラは静かに微笑んだ。


 その言葉は神託として、やがて村人たちへ伝わっていく。


 そして誰かが呟いた。


「⋯⋯この神様は、戦の神じゃない」


 別の者が頷く。


「俺たちを勝たせる神様じゃなくて⋯⋯」

「俺たちを守ってくださる神様なんだ」


 その瞬間、また無数の光が直人へ向かって昇ってきた。


 信仰。

 今度は勝利への感謝だけではない。


 この神を信じたい。

 この神なら自分たちを守ってくれる。


 そんな人々の想いだった。


 直人は静かにその光を受け止める。


(守る神、か)


 悪くない。いや————。


(俺は、そういう神様になりたいな)


 滅びかけていた小さな村に。

 初めて、人々が心から信じる神が生まれた。

評価、ブックマーク、感想など励みになります。

モチベーションになりますので、よろしくお願いします。


また、作者Xにて更新通知を行っております。

新作の通知なども行いますので、ぜひフォローお願いします。

@MokaSufure

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ