幸福を捕らえる代償 3
小道を歩いていると、今日の外はやけに賑やかだった。たぶん、なにか新しい噂でも流れているのだろう。
あまり詳しくは聞かなかったが、何やら新しい布令が出されるらしい、という話だけが耳に残った。
考えてみれば、新しく王が即位してからというもの、あちらこちらで教会にはずいぶん厳しく当たっているはずなのに……
ジェスの家に着くと、古びた木の扉を叩いた。出てきたのはジェスの妻だった。
まだ戻っていないと知らされ、それでも来意を伝えると、彼女は何度も礼を言いながら、私を家のなかへ招き入れてくれた。
私は腰を下ろした。
もう少し待とう。金は、やはり直接ジェスに手渡したほうがいい。
明かりの乏しい室内は、そのほとんどが黒々とした闇に覆われていた。寝台のそばだけが、ろうそくの光でかろうじて輪郭を浮かび上がらせていて、そのせいで、もともと狭い部屋がなおさら窮屈に見えた。
病に伏せるジェスの母親が、寝台に凭れて座っている。枯れ枝のように痩せ細った手で教会の聖典を抱え、神はこのような偽りを言う者たちをきっと罰する、などと口にしていた。
そういえば、教会の前を通りかかるたび、彼女が祈りに行く姿を何度か見かけたことがある。たぶん、教会の信心深い信徒なのだろう。
ジェスの妻はその傍らに座り、手元の細々とした手仕事を続けながら、義母の愚痴に耳を傾けていた。あの聖典に書かれた故事も、義母の口にする神がどのように全能で、どのように遍く人を慈しむのかも、彼女にはよくわかっていないようだった。それでも、辛抱強く聞き続けている。
私は黙って、隅の闇のなかに座り、まるで神の視点からでもあるかのように、その狭い世界の人々を見つめていた。けれど、私には何ひとつできはしない。そして皮肉なことに、ほんとうの神もまた、これと同じようにただ沈黙しているだけなのだ、とそんな思いがこみ上げてきた。
神? ここで少しでも税の足しにでもなってくれるのか?
どれだけそうしていただろう。やがてジェスが扉を押して入ってくると、部屋のなかは一瞬で静まり返った。
彼はすぐに扉を閉めようとはせず、ただ入り口に立っていた。肩には、まだ外の風がまとわりついている。しばらくしてから、手に提げていた空の麻袋を、扉のそばの卓の下に置いた。
ジェスの妻がようやく腰を上げ、彼の傍らへ歩み寄った。
「どうだった?」
ジェスは暗い顔のまま、低く短く応じた。その声はあまりに短くて、何も言っていないのと変わらなかった。彼は顔を上げず、誰も見ようとはしなかった。部屋のなかの誰も、もう口を開かない。
その瞬間、私はふと、この金を届けに来たことを少しだけ後悔した。来るべきではなかったというのではない。ただ、いまこの場に立っていることが、どうしようもなく余計なことに思えたのだ。
私は立ち上がった。
「ギイ——」
椅子の、ひどく間の抜けたきしみが、このこわばりきった空気を破った。
「これ」私は金を差し出した。「店主から、あんたに渡してくれと」
ジェスは一瞬きょとんとして、それが自分に向けられた言葉だと、すぐには飲み込めなかったようだった。それからようやく、ゆっくりと金を受け取った。指が袋の口のあたりで止まりかけたが、中を確かめようとはしなかった。
普段あれほど酒場でよく喋るジェスが、今はただの一言も絞り出せずにいる。彼は何度か口を開きかけて、何かを言おうとしたが、最後には低く、こう言うのがやっとだった。「……今度飲みに行ったときには、必ず、店主に直接礼を言う」
私は頷き、それ以上は何も言わず、背を向けて戸口を出た。
室内でかすかに交わされる声を背中に聞きながら、その場を離れた。それでも、たった一言だけが、やけにはっきりと耳に残った。それがジェスの声だったのか、それとも他の誰かだったのかはわからない。
「きっと良くなる」
私はずいぶん遠くまで歩いてきても、その言葉だけがまだ胸のうちでこだましていた。それはずっと昔、誰かが私に言った言葉を、ふと思い出させた。けれど、この町のぬかるんだ通りを歩きながら、耳にするものといえば、どちらかといえば、焦げつくような風が藁の山をざわざわと撫でていく音ばかりだった。




