風に乗せて歌おう 14
屋敷に着いた頃には、もうとっくに午後になっていた。
マーガレットは召使いについて正面の門からは入らず、私を連れて通用口のほうへ回った。
先に立ち、鉄の框を張った木の扉を押し開いた。私たちが中へ足を踏み入れると、そこは邸の内部ではなく、細長い目隠し廊下になっていた。灰色がかった白い石壁が視界を遮り、見えるのは前方のほんのわずかな薄暗い道だけだ。二人分の足音は廊下のなかでひときわ冴え冴えと響き、背後で通用口の扉がゆっくりと閉まっていく。重い鉄の蝶番が擦れ合って生まれた低い音が、廊下の奥へと次第に遠ざかっていった。
湿った石壁には底冷えのするような空気がまとわりつき、空気のなかには蝋燭と古い石材の匂いが混ざっている。
マーガレットはスカートの裾を持ち上げ、床の水たまりを用心深く避けながら進んだ。その動作のなかに、どこかぎこちないものが滲んでいた。
私は思わず口を開いて尋ねた。
「たしかに、あまり通ったことのない道だけどね」マーガレットはかすかに笑った。「でも、この屋敷は入り組んでいるから、あなたを一人で歩かせるのは不安で」
顔をこちらへ向けて、ちらりと私を見た。
「あなたにここで迷子になられちゃ困るから」
空気のなかに、薪の火のぬくもりが少しずつ増してきた。そこからさらに数歩進むと、かすかに厨房から漂ってくる匂いに気づく。
それはおそらく何か煮込み肉と香草が混ざり合った香りで、そこには薪が燃え尽きたあとの煙のにおいもほんの少し混じっている。遠くの方からはときおり鍋のぶつかる音や、召使いが声を潜めて話す気配が聞こえてきた。
通路のつきあたりは外周の長い廊下につながっていて、その長廊の向こうは、ひっそりとした中庭になっている。
白い石畳が中央の花壇を囲んで外へと広がり、刈り込まれた低木が噴水の周りをぐるりと取り巻いていた。午後の陽射しが屋敷の屋根を越えて落ちてきて、長廊の影を斜めに切り裂いている。風が吹き抜けるたび、木の葉が互いに擦れ合う微かな音さえ聞こえてきそうだった。
そのまま先へ進もうとすると、向かいからちょうど銀の盆を手にした二人の女中が歩いてきた。女中たちは長廊の端をなぞるようにして通り過ぎていく。
先を歩いていた女中は、マーガレットの姿を認めると、明らかに歩みを緩めた。
「マーガレットお嬢様」
先の女中がうつむいて礼をした。後ろを歩いていた女中は歩調を落とさず、手前の銀の盆が前の女中の背中に当たった。前の者が礼をしているのを見てから、ようやく不承不承に、うつむいてそれに倣った。
立ち去る間際のその視線のなかには、隠そうともしない蔑みが浮かび、かすかにさげすみさえも見えた。
しかしマーガレットはそれにまったく気づいていないかのように、ただ静かに頷いただけだった。
長廊のつきあたりの建物へ向かうあいだ、すれ違う召使いたちは、私を見るとたいてい意外そうな表情を浮かべたが、誰も口に出して何かを尋ねようとはしなかった。
おそらく女中たちにとって、これは屋敷のなかでたまに起きるちょっとした珍しい出来事にすぎないのだろう。その理由については、もともと誰もほんとうには気にしていないのだ。
石畳の道の終わりで足が止まり、マーガレットは振り返って、静かに私を見た。口を開くよりも先に、私が言葉を発した。
「安心しろ。変なところをうろついたりはしない。ここで待ってる」
マーガレットの口元に、ようやくかすかな笑みが浮かび、もともとわずかに寄っていた眉も、すっとほどけていった。
「まるで子どもね」
低くそう言って、それから背を向けた。
私は彼女がその場に立ち尽くして、いつまでも足を踏み出さずにいるのを見て、ついもう一度声をかけた。
「行ってこい」
マーガレットはしばらく静かにしてから、最後にそっと応じた。
「……うん」
そうして、長廊のつきあたりにある母屋のほうへと歩いていった。
厚い木の扉が、その背後でゆっくりと閉ざされた。
私は中庭の外周に立ち、空気のなかにまだ残っている食べ物の香りを嗅ぎ、遠くからかすかに届く噴水の水音を聞いていた。
外で待っているあいだ、いつからか、反対側から話し声が徐々に聞こえてくるようになった。
中庭の反対側、東屋のあたりだった。
年端もいかぬ男の子が長椅子のうえに腹這いになっていて、数人の女中がそばに控えている。女中たちは前に進み出て止めさせることもできず、さりとて始終気を張って、その子が長椅子から落ちはしないかと案じているようだった。
そのもてなしぶりから、私はすぐに思い当たった。以前あの男たちが話していた——マーガレットの異父弟だ。
そして彼のそばに座る女こそが、おそらく彼とマーガレットの母親なのだろう。
その母親を初めて見た瞬間、真っ先に感じたのは、隠そうにも隠しきれないやつれだった。
くすんだ色合いの長衣をまとい、マーガレットと同じ生姜色の長い髪は、痩せて布地を支えきれていないように見える肩の上に垂れかかっていた。陽の光がその顔に落ちると、どこか青白くさえ見える。その二つの目は静かにまっすぐ前を見ていたが、まるで何もほんとうには映り込んでいないかのようだった。
風で袖口がめくれるようにあおられたとき、私はその腕にある青い痕をかすかに見てしまった。
まるで打ち身のようでもあり、まだすっかり癒えていない傷のようにも見えた。
だが周りの召使いたちは、誰一人として異様な顔を見せず、まるでそんなことはとうに慣れきっているかのようだった。
私は長廊の軒下に立ったまま、いつしかぼんやりとしていた。
もうずいぶん時間が経ったと思っていたのに、うつむいて初めて気づいた。廊下に垂れ下がった藤の影が、ほとんど動いていない。
私は何気なく顔を上げて、母屋の二階の窓を見やった。
東屋のほうからは相変わらず、途切れ途切れに子どもと女中の声が聞こえ、噴水の水音は風にほぐされて、中庭にそっとこだましていた。
けれどなぜだか、そうした細かな物音のなかに、自分が何かを聞き取ったような気がしてならなかった。
それは抑えられた話し声のようでもあり、
誰かが口論しているようにも思えた。
私は思わず息を詰めて、もう少しはっきり聞き取ろうとした。
だが、ほんとうに静かになったあとには、もう何も残っていなかった。
ただ風が長廊のあいだを吹き抜けて、ほろ苦いラベンダーの香りをほのかに運んできただけだった。
たぶん、私が気にしすぎているだけなのだ。
私は小さく息を吸い込み、もう一度あの、ずっと固く閉ざされたままの木の扉に目をやった。
見つめれば見つめるほど、思わずにはいられなくなる——
次の瞬間には、マーガレットがそこから出てくるのではないか、と。




