風に乗せて歌おう 10
「小さい頃、まだ屋敷に住んでいた頃の話だけどね。別に、隠すほどのことでもないの。あの人たちが言うとおり、私はたしかに貴族の家のお嬢様だった。でも、私は一度だって、ほんとうにその身分になったことなんてなかった」
私たちは河原で立ち止まった。私はひどく息を切らしていて、胸のあたりが詰まって痛い。マーガレットも同じで、荒い息が重なり、生姜色の髪がほつれて何筋も頬に張りついていた。
「あの頃は、女中も母も、女なら誰だってドレスが欲しくなるものだって言ってた。どんなものか、見たことはなかったけど、私だって欲しかった。あの頃の私には、それが、周りの人たちに近づくための証のように思えたから」
マーガレットは川べりの柔らかな草地にそのまま腰を下ろした。私も続いて座る。
「でも、母は怖がって買ってくれなかった。私に少しでも鮮やかな色を身につけさせたら、父の怒りが自分に向かうのが怖かったみたい。だから私に、そのつぎはらけの服がドレスなんだって、嘘をついたの」
「あなたはそれを信じたのか?」
「まだすごく幼かったけど、それが嘘だってことくらい、わかってた。でも、あえてはっきりとは言わなかった」マーガレットは苦笑した。「私はずっと憧れてきた花のドレスを受け取るみたいに、それを受け取った。着るたびに、できるだけスカートの裾を広げようとした……少しでもドレスに見えるように」
マーガレットは息を吸い込み、こみ上げるものを必死に押しとどめようとするかのように、目尻に浮かんだ涙の光を、急いで奥にしまい込んだ。
「偽物は、どこまでいっても偽物だった。私は一度だって、誰かに近づけたことなんてなかった」
私はこのまま黙り込んでしまうのは嫌だった。でも、どんなにわかったような綺麗ごとを並べても、それはただの安っぽい同情にしかならない。
おそらく彼女は、あの頃からもう気づいていたのだろう。いわゆる「強さ」なんてものは、自分の心を騙すための壁でしかなく、心を内と外に引き離してしまうものなのだと。
すべての悲しみを押し殺したような、そんな笑顔を見つめているうちに、私は不意に、前にマーガレットが言った言葉を思い出した。
「あの日、あなたは私の顔に、面白い表情を見たと言った……あれは、なんのことだ?」
マーガレットは目を伏せた。かすかな喜びが、そのまま淡く混ざっているようにも見えた。視線はしばらく彷徨ってから、最後には別の方へと落ちていった。
おそらく、その答えを私はとうに知っていた。それは確かな、間違いのない確信だったのに、それを言い表すのにふさわしい言葉が、にわかにはどうしても見つからなかった。
気がつけば、私の視線も知らず別の方へと逸れていた。
耳のすぐそばで、かすかな、指先が雑草を弄ぶような、ささやかな音がする。
その音がやむと、マーガレットはためらいがちに手を伸ばしてきた。ほんの少し熱を帯びた体温が、手のひらから私の頬へ伝わろうとしたその瞬間、ぴたりと止まり、ふっと手を引っ込めた。
空気のなかに残された、そのわずかなぬくもりに心を引かれ、私は思わずそちらを振り返った。
マーガレットはやや体を後ろに反らし、両手を地面につき、ほんの少し首をかしげて、まっすぐに私の目を覗き込んでいた。
宝石のようにきらめくその瞳のなかで、細やかな光を揺らしているのが、あの人の、ほとんど気づかれぬ涙なのか、それとも私のなのか。
「ほら、見えた?」マーガレットはそっと言った。
「これが、そうなの」
川の水が静かに流れ、砕けた石が転がる音が、足元で寄せては返している。
私はもう、何も言わなかった。
マーガレットも、何も言わなかった。
ただ、落ち葉を巻き込んだ風が水面を吹き抜けて、その言葉を、少しずつ遠くへ運んでいくだけだった。
やがて川面が夕暮れの金色に染まり、あたり一面が柔らかな光の暈に満ちる頃には、
マーガレットは足元の草を抜き始めていた。一本、また一本と、とても丁寧に。
一方、私の手のなかで拾われた小石もまた、何度もひっくり返され、拾われては落とされを繰り返していた。
やがて、マーガレットが立ち上がってスカートについた草の屑をはたいたのか、それとも、私が先に顔を向けて彼女を見つめたのか。
そのほのかな微笑みのあと、短い静けさのあとの、たった数言の言葉のあと、
私たちは並んで河原をあとにした。
帰り道、私は左を歩き、マーガレットは右を歩いた。その手は体の脇に垂れ、歩みに合わせてかすかに揺れる指の節が、何度か私の手の甲をかすめた。
別れの分かれ道に差し掛かると、農具を担いで家に帰る者や、木の手押し車を押して通り過ぎる者がいた。誰も、私たちのことなど気に留めはしない。
「私、帰るね」とマーガレットは言った。
「うん。じゃあ、また」




