風に乗せて歌おう 9
秋風はいつもと変わらず吹き始めた。ただ、これまでに比べ、どこかずっと「秋」のにおいを濃く含んでいるように思えた。
その、これまでとは違う涼しさが、気のせいなのか、実際の感触なのか、はっきりとはしなかった。
体感の不確かさよりも、たぶん、一面の落ち葉のほうがずっと説得力を持っている。
「秋がたくさんあるね」
きのうの帰り道、カレンは小さな声でそうつぶやいた。
落ち葉はさほど多くなかったのに、カレンと一緒に歩いていた私には、それがひどくしっくりと感じられた。
たぶんそのせいで、いま、ナドルドの小屋へ向かう道すがら、私はつい視線を落ち葉の上に落としてしまう。
こうしてまたナドルドのところへ行くのは、酒場の麦芽酒は保存が利かず、グロッグの香辛料を入れても、やはり何度かに分けて仕込まねばならないからだ。昼に新しい酒の仕込みを確かめたあと、店主は私に、残りの麦芽をいつ酒蔵へ運ぶか、ナドルドに伝えてくるように言った。
まばらに通り過ぎていく人影が、道すがら落ち葉に向けていた私の視線を引き戻す。顔を上げると、もう教会のすぐそばに来ていた。
私は足を少し止め、鐘楼の窓へ向かって伸びるあの木を避けて、教会の通用口の方から歩き出した。
まだそう遠くへ行かないうちに、聖歌隊の声がどこからか流れてきた。そのなかに混じる嘲るような話し声に気を引かれ、笑い声のした方をちらりと盗み見る。
教会の通用口が、細く開いている。
そしてその扉の隙間によりかかる影が一つ。わずかに曲げた右足の下から、灰色のスカートがのぞいていた。
マーガレットは扉の隙間に横顔を向け、唇を一文字に引き結び、指先はスカートの端をぎゅっと握りしめている。
私は遠くからその姿を見つめ、声をかけようとしてやめた。
笑い声がやむと、マーガレットは身をかがめて落ちていた紙切れを拾い、扉を押して中へ入っていった。
あの生姜色の髪の後ろ姿を見ていたが、表情はどうしても思い浮かべられなかった。
ただ一つ見えたのは、押し開かれた扉の向こうで——こちらを向いた二人の修道司祭が、伝票を受け取ったあと、さっきの笑い声とはまるで違う慈愛に満ちた顔をしていたことだ。
私はその場に立ち尽くした。もしかしたら、出てくるのを待って、何か言おうとしたのかもしれない。
けれど、さっきまでただ見ているだけだった自分には、もうその資格はないように思えた。
思い定められず、背を向けて二、三歩進んだが、足が勝手に止まってしまった。
「クローズ?」
私がまだ迷っているうちに、背後から先にマーガレットの声がした。その声には、かすかなためらいがほとんどわからないほどに含まれていた。
振り返ると、マーガレットが数歩先に立っている。私だと確かめると、それまで握りしめていた手が、明らかに緩んだ。
「通りすがり?」
数歩近づき、軽やかな口調で言った。その顔には、さっきまで教会の外に浮かべていた陰りは、すっかり消えている。
そんな様子を見た瞬間、私は妙にほっとして、胸の奥のわだかまりも大方、霧が晴れるように消えていった。私はナドルドのところへ行く話は出さず、ただ軽く応じた。
「そう」
マーガレットはほとんど間を置かずに続けた。
「一緒に歩かない?」そしてまたこう付け足した。「ちょうどいま、用事が終わったところで、ほかにも特にすることはないし」
私はしばらく黙っていた。相手には、私がまだ考えているように見えたかもしれない。でも心のなかでは、むしろ少しだけ救われていた——さっきの沈黙の埋め合わせができるかもしれないと。
「そうだな、私も特に用はないし」私は口元をほんの少し緩めて、声を和らげた。
マーガレットは私の返事を聞くと、目の奥がぱっと輝き、あふれそうになる喜びを必死に押さえつけているようだった。もともと私の手を引こうと持ち上げかけた手を、またそっと引っ込め、指先でそっと服の裾を撫でた。私の顔をすばやく一瞥し、少し思案する。
「うん、ここで少し待ってて」
私が返事をするより早く、「すぐ戻るから」と慌てて言い残し、踵を返して、すぐ近くの低い小屋へと走っていった。
再び私の前に立ったとき、マーガレットは教会の服を着替え、地味な木綿のスカート姿で、髪もゆるく後ろで束ねていた。
「なに、ずっと見てるの?もう行くわよ」
笑いながらちょっと咎めるように言い、先に立って歩き出した。
私は我に返り、小走りに二歩進んで隣に並ぶと、視線は自然とマーガレットに向いていた。
「ずっとあそこに住んでるのか?たしか以前は、教会の薪置き場だったと思うけど」
マーガレットは首をかしげて私を見た。手を背中に回し、顔を少しだけ傾けて、視線は前の小道に落としている。
「うん……あなたにも話してなかったけど」一呼吸おき、言葉を選んでいるようだった。「私が修道院に連れて行かれたのは、ほんの数か月前のことなの。字が読めたから、つい最近、こちらの手伝いを任されて。だからこのあたりのことは、あまり詳しくないのよ。ほら、あの倉庫が、私のために空けてくれた住まいなの」声はいくぶん小さくなり、視線も別の場所へ向いた。「もしこの仕事がなければ、私はたぶん、この先ずっと修道院のなかで終わっていたかもしれない」
「じゃあ、こっちのほうがいいと思うか?」
目の奥に浮かんだ寂しさを見て、私は思わずそう尋ねた。
マーガレットはふと足を止め、振り返って私を見た。その目には再び笑みが浮かんでいる。
「うん、いいところだと思う」声は穏やかだった。
でも、私は気がついていた。そう言ったとき、その視線はずっと私の上に置かれていた。それに気づいて、私はつい視線を逸らした。
「そうか、それなら、よかった」
私たちは再び肩を並べて歩き出し、会話は私のその返事を最後にぷつりと途切れた。
なぜ服を着替えたのか、私はあえて尋ねなかった。けれど、心のなかではわかっている——おそらくジェスの一件で、教会に対して良い感情を持っていないことに気づいたのだろう。
「いいよね、こうやって散歩するのって」
いま具体的に何を考えているのかはわからなかったが、不思議なことに、その包み隠さない嬉しさは、私にもはっきりと伝わってきた——歩みの、慎重すぎるほどの遠慮。たぶんマーガレットは、教会の修道女としてではなく、ただの自分として、私の隣を歩きたかったのだろう。
午後の空から降りそそぐ金色の光が、落ち葉を白昼の星のように、きらきらと輝かせている。足が、教会のあたりの黄ばんだ落ち葉を踏むたびに立つ、細かなかさかさという音は、周囲の人混みのなかでさほどはっきりとは聞こえないのに、私には、秋の陽だまりのなかを軽やかに跳ねる一羽の小鳥のように感じられた。
この貴重な心地よさと穏やかさが、もう少しだけ続けばいいと……そう願った。私は知らず知らず歩く速度を緩めて、このひとときを少しでも長引かせようとしていた。空気のなかに漂ういくぶんかの涼しさを胸いっぱいに吸い込み、教会の鐘楼の影が斜めに長く伸びて、私たちの横の石畳の上に落ちるのを眺める。
しかし、物事はえてして願ったとおりには進まない。
そう遠くへ行かないうちに、聖歌隊の子どもが一人、マーガレットを呼びに来た。話の内容は聞き取れなかったが、ほんの二言三言交わしただけで、マーガレットは戻ってきて、私に別れを告げた。
「ごめんなさい、神父様が用があるって……」
「ああ、用事なら先に行ってくれ」
「うん……」
小さく応じ、視線を一瞬だけ私に走らせた。何か言いたそうだったが、結局は飲み込んでしまったようだった。それから背を向け、二、三歩進んだところで立ち止まり、また戻ってきて言った。
「今日は、すごく楽しかった」
私は手を伸ばして自分の顔を撫で、ぎこちなく顔の筋肉を動かした。あの日、市の日にはじめてマーガレットと会ったときのことを思い出す。彼女が口にした、私のあの面白い表情という言葉を。




