vol.6 別れの理由
「最初はストレスで生理が遅れてる位に思っていたんだけど、8月も来なかったし、9月も来ないと妊娠4ヶ月目に入っちゃうのよね。気楽に相談できる人もほとんどいなかったし、どうして良いかわからなかった。ピアニストになる夢も諦めたくないし、もし赤ちゃんを授かっていたら堕ろしたくないし、凄く悩んだ。妊娠でない事を望んで9月になって産婦人科に行ったの」
「それでどうだったの?」
「ちょうど妊娠4ヶ月に入る所ですって言われた」
「・・・・・何故僕に知らせてくれなかったんだ?生むにしても堕ろすにしても2人の問題だろ?」
「あなたに知らせたら両親も知る事になるでしょ。両親に知れたら絶対堕ろせって言うでしょ。産みたいって言ったら日本に帰らなきゃならないし夢を諦めなきゃならないでしょ。両方取るには誰にも言わないで生むしか無いと思ったの。もちろんなんとか産んだわ」
「・・・・・それであの時の態度の急変になったって訳か・・・・・・・・・・」
宮崎は頭の中がパニクっていた。聞きたい事は山ほどあるのに言葉が出てこない。頭を冷やすために少し外を歩こうと恭子をカフェから連れ出した。
二人はモルダウ川のほとりを無言で散歩した。1時間くらい歩いただろうか。さすがに疲れてベンチに座って川の向こう側にある大きなお城を眺めていた。
「あのお城みたいなのは何?」
宮崎はようやく言葉を発する事が出来た。
「あれはプラハ城って言ってかつてのボヘミア国王や神聖ローマ皇帝の居城で現在はチェコ共和国の大統領府のある場所よ」
「そんな有名なお城なんだ。・・・・・・・・・大変だったんだろうね。どうやって出産まで漕ぎつけたんだ?」
「そこは色々あったのよ。もう堕ろせないしお腹が目立ってくる6ヶ月くらいの時、さすがに両親に打ち明けて何とか産んだ」
「そこで何故ご両親は俺に連絡してこなかったんだろう?どう考えても俺の子供だろ」
「そうなんだけど妊娠予定日を偽ってこっちで知り合った人の子供だという事にしたわ。その嘘に付き合ってくれた人が今の夫で当時勉強していた音楽院の先輩だったの。でもその時は本当に単なる仲の良い仲間で全然そういう関係じゃ無かったのよ。」
「この間、娘さんは下の子って言ってだけど、上の子が俺の子か。歳は33歳位ってわかるけど息子?娘?」
「息子よ。プラハを拠点にしているチェリストで今日のコンサートの演者よ。歳はその通り33歳、アントン・リヒノフスキーっていうんだけど日本名のミドルネームもあってキョウセイって言うの。漢字の恭誠から来ているけど誰も知らないわ」
「墓場に持っていくって言ってたけど誰かに謎解きして欲しかったんだね。本人は今の旦那さんの子供じゃ無いって知ってるの?」
「欧米では養子はよくある話なので、それなりの年齢の時教えたわ。外観もどう見ても日本人そのものだからね。あなたに良く似てね」
「じゃあその俺に良く似た子に感動のご対面といきますか」
二人はコンサート会場に向かった。
-続く-




