9. 僕の乙女になったバーブラ
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放課後の生徒会室──。
いつしか生徒会室の窓から美しい紅色の夕日が西に輝き、部屋中に陽光が差し込み始めていた。
今日もレッドフォード王子とバーブラは、来たる各学年対抗の芸術祭の資料作りを行っていた。
来るはずだった数名の生徒役員は、急用で休みと連絡があった。
いつものように、王子とバーブラだけで資料作りに勤しむしかなかった。
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ようやく面倒な資料整理が済んで、レッドフォード王子とバーブラは遅めのティータイムを取った。
バーブラは杏子ジャムのついたビスケットを食べながら、時折じっと王子を見つめる。
──あ、まただ。
王子はバーブラの目線に気付いた。
「バーブラ、さっきから何だね?」
「あ、いえ殿下⋯⋯何でもないですわ」
バーブラは慌ててハート型のビスケットを、もぐもぐと森に棲むヤマネのように咀嚼した。
そのまま目線を反らして熱い紅茶をクビっと飲む。
「ア、アチアチィ……」
「おいおい、そんなに一息に飲むとヤケドするぞ!」
「すみません……アチ……」
バーブラは熱そうに舌をふーふ―した。
その仕草もなんとも愛嬌がある。
以前のバーブラだったら一度も見たことのない変顔であり、とっても可愛らしい仕草だった。
そのままバーブラは頬に熱を帯びたみたいに、チラチラ王子を見つめる。
──はあ、この雰囲気?
レッドフォード王子はまたもや面食らった。
どうやらバーブラは王子と目が合うと、慌ててサッと目を逸らすのがクセなのか、挙動不審みたいになる。
だがこういう令嬢たちを王子はいつも見慣れていた。
──そう、これでは他の令嬢たちと同じように『僕の乙女』の一人ではないのか!
『僕の乙女』と称したのは、レッドフォード王子を、憧れの対象の眼で見つめる学園の令嬢たちのことだった。
王族特有の金髪碧眼と端正な顔。
レッドフォード王子は学園でも一、二位を争うほどの美男子である。
本人も自分が令嬢たちから崇拝されてることに気づいていた。
うん、間違いない!
明らかにバーブラは僕を異性として意識している!と王子は直感した。
しかし、面白い。
以前のバーブラではとうてい信じられないが、乙女のバーブラがそこにいるのだ。
恋などとは無縁、冷酷無比なのあの『氷の女』が……僕をみて赤面するとな?
この何週間かバーブラの突然の変化に王子も、振り回されてばかりいた。
同時にバーブラの不可解な行動と態度は、この上なく心地良いものだとも感じて、王子は王子でこそばゆかった。
王子の心は俄然、高鳴る!
──うん、いい加減、素直に認めよう。
最近はバーブラといると僕は楽しい。
少年みたいに心が躍る。
こうして、ずっと彼女と一緒に過ごしていたいくらいだ。
王子はバーブラの全てのリアクションが愛らしくて、コケティッシュで毎回笑いを抑えるのに必死だった。
とはいえ、王子たる者、舐められては如何、如何!
厳然たる尊厳を失くしてはならない、と自分を戒めた。
「コホン」と王子は小さく咳きばらいをした。
「バーブラ、先日の奇怪な話、マリリン嬢について、本当は話がしたいんだろう?」
「え、殿下?」
バーブラは顔を上げた。
「マリリン嬢のことを、お話してもよろしいのですか?」
「ああ、君がそこまでマリリン嬢に拘るのがずっと気に……」
「まあ、ありがとうございます殿下!」
すかさず、バーブラは王子の話を遮って即答した。
王子はその速さに苦笑した。
どうやらバーブラはマリリン嬢のことを、王子に話したくてたまらないぞ!という眼を向けた。
「殿下、マリリン様はこの王国のヒロインとして生まれついた令嬢です。この王国には無くてはならぬ御方なのです。何より彼女は聖女の偉大なパワーがありますわ!」
「聖女の偉大なパワー?」
「そうですわ」
といってバーブラはスッと席を立ちあがった。
「うっ!」
珍しくバーブラのシルバーグレーの瞳が、以前の氷の公女を思わせる冷酷に見えたのだ。
その姿に王子はゾッとした。
「殿下、驚かないで聞いてくださいまし。近い将来、王都は大天災に見舞われます!」
「何だと?」
「駄目です殿下、私の話を最後までお聞き下さい!」
とバーブラはシルバーグレーの瞳をカッと見開き、眉間にしわを寄せて王子を睨んだ。
「あ⋯⋯すまん」
バーブラは王子を窘めた後、静かに目を瞑り始めた。
「──それは千年に一度という、滅多にない大災害でございます。多くの市井の者たちが、川の氾濫で水害に遭ってしまいました」
「何と……」
思わず王子は声を上げた。




