8. 愛らしい眼差しを見せるのは……
✧ ✧ ✧ ✧
レッドフォード王子は、バーブラとの過去を苦々しく思い出して苦笑した。
氷の公女──。
そう、何年もずっと当たり前のように冷えた関係でいたはずなのに……。
──だがそれがどうしてこうなった?
はぁ!?
これまで氷の公女のバーブラは、まるっきり別人じゃないか!
頭を打って転倒した前後の違いときたら、なんとまあ!
氷の公女が、僕の前で背中をまるめてヨタヨタ歩く女だと!
心配そうに、揺らめくシルバーグレイの瞳なんて見た事もなかったぞ。
なんだ、その愛らしい眼差しは!
このちぐはぐなバーブラの違和感の正体は!
「く……」
思わずレッドフォード王子は苦笑した。
しかもそれだけではない。
驚いたことに、バーブラが変わった途端に、我が感情まで変化しているときたものだ!
✧ ✧
こうしてレッドフォード王子は、この何週間というもの、バーブラといる時の自分の変化に驚きを隠せなかった。
彼はバーブラのおかしな話に耳を傾け、次は一体、何が飛び出すんだろう?と毎回ワクワクする気持ちに変化していた。
王子が変わったのも無理もない。
頭を強打して休んでいたバーブラが、久しぶりに登校した時、学園内のどよめきは未だに忘れられない。
あのバーブラの取り巻きの令嬢たちも、昼と夜がまっさかまになったみたいに素っ頓狂な顔をしていた。
なぜならバーブラが学園内に足を踏み出す否や、行き交う学園生徒たちに誰かれかまわずに『ごきげんよう!』と微笑んで会釈をしていくのだ!
──それもあの猫背のおかしな姿で!!
『はああ、バーブラ様はどうしたのかしら!!』
『ちょっと、バーブラ様が笑ってらっしゃる!』
『転んで頭を打ったと聞いたが、そのせいだろうか?』
『あの猫背の姿勢、まだどこか痛いのかな。どうも腰まで曲がっているように見えるが……』
バーブラの挨拶にこの日は学園中が、バーブラの話題で持ちきりとなった。
それだけではない──。
バーブラは学園内で神出鬼没にレッドフォード王子の前にやたらと現れた。
それもほぼ毎日である。
※ ※
『殿下、ごきげんよう!』
王子たちが中庭を散歩してる時も、突然バーブラがたった一人で、どこからともなく飛び出してくる。
王子が昼食の食堂に学友たちと出向けば──
『殿下、席をお取りしておきました〜!こちらですわ〜!』
と、バーブラは王子たちの席をわざわざ取って待ちかまえていた。
更にあろうことか休み時間、高等部の教室までくる始末だ。
まるで大昔から気軽に、バーブラは王子の教室に来るのが自然な感じに見えた。
そう、過去に一度たりとも王子が見た事もない、メチャクチャ愛らしい微笑みで、バーブラが楽しげに話しかけてくるのだ。
クラス内の学友たちも目を白黒させていた。
『おい、見ろよ。バーブラ様がとても可愛らしく殿下に話しかけてるぞ⋯⋯』
『おお、バーブラ様も変わられたなあ……』
『笑い顔もめちゃ綺麗だなぁ。殿下がうらやましい!!』
王子の学友たちも、バーブラの変化に驚きを隠せないようだった。
こうなってくるとバーブラの人気は男女関係なくうなぎのぼりで上昇していくから面白い。
“氷の公女”と揶揄されて恐れらたバーブラを、“プラチナの公女”という称賛の愛称まで誰かが言い出し始めた。
この現象に一番、不思議がったのはレッドフォード王子その人であった。




