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こんなはずではなかった!~悪役令嬢バーブラに転生した高齢者、梅子の運命はいかに!?  作者: 星野 満


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7. 狡猾なバーブラ

 ✧ ✧ ✧ ✧



 バーブラは本人がいうように類まれな悪女であった。


 彼女のターゲットになる令嬢は常にいた。


 主な学園でのターゲットは、自分と敵対する高位貴族令嬢と下級貴族の令嬢だった。


 彼女に逆らう者。

 彼女に平伏(へいふく)しない者。

 身分が低いのに身の程をわきまえぬ者。

 単にみすぼらしい身なりをしている者。


 それらの令嬢たちはバーブラの取り巻き令嬢たちに、(ことごと)く嫌がらせを受けた。


 (しか)してバーブラの黒い噂を、レッドフォード王子の耳にも届いてはいた。


 だが王子は一切気付かぬふりをした。

 これには王族特有の諸事情もあった。


 未来の王たるもの、いや王族たるものは上に立つ者の宿命というべきか、ある程度の狡猾(こうかつ)さは、必要不可欠と帝王学で学んでいたからだ。


  バーブラ自身もいずれは我が妻、未来の王妃になる身。


 それに学園内の令嬢たちのいざこざに、あえて自分が仲介(ちゅうかい)する必要はなかろう、と王子は判断していた。


 それでも、バーブラの下位令嬢たちに対する仕打ちは目に余るものが多かった。


 さすがの温和な王子も品位もない、ただの嫌がらせを耳にすると遠回しにバーブラに注意を(うなが)した。


 だが──。

『殿下。それは私の知る所ではございませんわ。多分下々の者がしたことでしょう。ただ殿下のお耳に(わずら)わせしたようですね。誠にお恥ずかしい限りです。こたびのことは、私から彼女たちに注意しておきましょう』

 と、ツンと澄まして何食わぬ顔で答えた。


 ──そうだった、バーブラに手抜かりなどはない。

 

 決して自らは手をださず、こうして指摘されても何も知らぬ存ぜぬを貫き通した。


 確かにいわれてみれば証拠はない。


 いじめや嫌がらせをするのは、常にバーブラの取り巻き令嬢たち。

 多分、彼女等への(ねぎら)いに花や宝石やドレスを(あて)がってるのだろう。


『──そうか、君が知らないならばいい。ただ君の知り合いだ。一応注意はしておいてくれ』

 

 と王子もふぅと大きな諦めにも似た溜息をついた。


 あくまでしらを切るバーブラを、王子はそれ以上責めることはしなかった。

 

 正直、レッドフォード王子は親同士が決めた結婚でなければ、冷淡なバーブラを(きさき)にしたいとは微量(みじん)も望まなかっただろう。



 ✧ ✧ 


「──殿下?」


「え?」

「どうされました殿下?」


 ふと、王子は生徒会室内で、目前に座っているバーブラを見つめた。

 その王子を見つめる表情は、とても優し気で心配そうな瞳だった。


「顔色が悪いようですけど、お疲れではないですか?」

 とバーブラのシルバー色の瞳がうるうるしだした。

 

 ──ああ、本気で僕を心配しているように感じる。


 レッドフォード王子は嬉しげに微笑んだ。


「うん、何でもないよ。ちょっと昔の事を思い出していたんだ。書類できたのかい?」

「はい、できました」

 バーブラは王子に出来上がった書類を渡した。

 王子は受け取って書面を丁寧に確認していく。


 見るとバーブラの書いた字の雰囲気も、以前なら流麗(りゅうれい)達筆(たっぴつ)すぎて少々読みづらかった。


 だが、今のバーブラの文字は柔らかな字体で一字一字ていねいに書かれていた。


 王子からすると、今の字の方がとても読みやすかった。


「うん、よくできている。指摘するところはない。このままでいいよ」と王子はにっこりと(うなず)いた。


「ありがとうございます」

 とバーブラは満面笑顔になった。


 彼女の笑顔なんて、めったに見たことがないので眩しい。

 王子の胸はドキッと高鳴った。



 ──そうだ、僕たちの会話はいつも儀礼的で、バーブラといると僕は窮屈で退屈で仕方なかったはずなのに。


 こうして二人きりで生徒会室にいる時も会話らしい会話などなく、お互い黙々と必要最低限の確認だけ、資料作りだけ、を励んでいた。


『レッド、表だっていえんが妹は本当につまらん女だぜ!』


 そうだ、一度だけバーブラの兄のアンリに、酒の席で僕はうっかり彼女への愚痴を漏らしたことがあったよ。


 バーブラの悪口をいったから、てっきりアンリに怒られると思ったが、逆にアンリは同意した。


『レッド(アンリは2人きりになると愛称で僕を呼ぶ)、兄の俺がいうのもなんだが、バーブラは聡明だし、国一番と言われるあの美貌(びぼう)だ。──だがな、毎日みてたら美しさなど三日で飽きる。う~ん、レッドは気の毒だな。妹を妻にしたら、あれほどつまらない女は国のどこにもいないだろううさ』


『おいおい、アンリ!』

 アンリの言葉にギョッとした王子は、思わず注いだワイングラスをこぼしそうになった。


 『……さすがに僕はそこまでバーブラを酷い女とは言ってないぞ!』


 『いや、酒の席での(たわむ)れと聞いてくれ!親同士が決めたとはいえ、お前には同情を禁じ得ない。兄の俺がいうのもなんだがバーブラは俗物だよ!』


『アンリ……』


『うん、あいつは誰にも関心を示さない女だ。それより最高の権力が欲しい!つまり王妃という地位だけが目当てなんだ。まあ無理もない──。あの美貌と聡明さが(あだ)となって人格が(ゆが)んてでいる。人を見下してきたのも両親が甘やかしたせいもある。──バーブラ、お前は生まれた時から王妃だ、国一番美しい娘だ!とちやほやしすぎたのも不味(まず)かったんだろうな」


 と実兄のアンリが酒に酔ったせいか、その日は滅多にないほど饒舌(じょうぜつ)だった。


 

 ──まあそうだろうな。


 王子もだまって(うなず)いた。

 確かに非の打ちどころのない筆頭公爵家の令嬢だ。


 幼い頃から氷の公女と呼ばれ、王妃になれば()()()()に名称が変わるだけだ。



 バーブラはバーブラだ。

 未来永劫変わらないだろう。


 アンリの言う通り、レッドフォード王子も同意見であった。


 貴族同士の政略結婚に愛という贅沢な感情など滅多になかった。

 当人同士の愛情は王と王妃にとっては二の次である。

 そんなのは愛人をつくればいい。

 王妃の役目はお世継ぎ、公務等の責務を果たして傍目には、表向きは夫婦円満にみせればそれでよかったのだ。


 昔から筆頭公爵家と王家の良縁を(つな)いでいくのは、王族の強固、並びに王国安泰のためだと、幼き頃から国王夫妻や官僚たち、更に王子の教師たちから、厳格な帝王教育を受けてきた。


 決して愛情のない()()()だろうが、王妃の役目さえ果たしてくれればいいと、レッドフォード王子はなかば諦めにも似た思いだった。






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― 新着の感想 ―
お兄さんにまでそこまで言われるバーブラ。 でも、今はだいぶ変わったんだね…バーブラちゃんに何が起こったんでしょうね??
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