6. あっけない初恋の終焉
※ ※ ※ ※
バーブラは子供の頃から何を考えているのか、まったく分からない。
とてつもなく不可解な女だった。
まさに周囲から揶揄される氷の公女そのもの。
声を立てて笑うのは王族として、はしたないと公爵家で教育されてきたのか、少女の頃から片手を添えて小声で『ホホホ……』とませて微笑んでいたものだ。
他の公女みたいにシクシク泣いてる姿など、とんと見たことがない。
だがレッドフォード王子でも、生まれて初めてバーブラに会った時は印象は違った。
──めちゃくちゃ綺麗な女の子。
彼も他の少年たちと同様に、バーブラの美貌に見惚れた一人なのだ。
プラチナブロンドの美しい髪。
陶器のような滑らかな白い肌。
少し吊り上ったアーモンドのような形で、銀の瞳をした少公女は、誰が見ても息を呑むくらいに美しかった。
──今思えば、彼女は僕の初恋だったのだろう。
その後二人はすぐに婚約者した。
王子とバーブラは懇親のため数回、王宮内で二人だけで茶話会もした。
だがそれは、とんでもなく王子にとって無駄な時間だった。
王子はバーブラと接してみて理解した。
バーブラは正真正銘の氷の人形ということを。
──この娘には人としての温かさやユーモアなど一片たりともない。
高位貴族特有の表面上のおべっかはしても、儀礼的で同じ言葉の反復ばかり。
常にツンとすますだけで、優しさなど微塵もなかった。
己の感情などまるで分らない。
ミステリーな美少女。
いや人間ではないよ。
カリカリ音のする、こいつはブリキのドールおもちゃか!
あらまあ、王子の毒舌もそうとうなものでは?
※
確かにバーブラの話す事といったら、王族の社交話ばかり。
あとは令嬢たちがよく話題とする、宝石やドレスの話と令嬢ありあり。
貴族同士の、お決まりな会話ばかりだった。
──ああ、なんてつまらないんだ!
おまけに退屈で居心地が悪い。
王子はバーブラと話して五分で、このいけ好かないすました令嬢を見限った。
たまに王子が好きな本やスポーツの話を、自分から振ってみても、バーブラは一切関心をしめさない。
一応、幼児向けの読書は彼女も一通り読んでいたようだが、どれもおざなりの、どこかで聞いた感想ばかりだった。
また、王子が好む歴史本には全く興味を示さず、バーブラと王子の共通点は殆どなかった。
──なんだ、この女は!
王子はバーブラにがっかりした。
そもそも、王子はまだまだやんちゃな年頃である。
幼い公女とお茶してすましてるより、同世代の少公子たちと、鬼ゴッコや縄回しなど中庭に出て、思いっきり体を動かしたかった。
なんてことはない。
バーブラはちょこんと茶話会の椅子に座っている、綺麗で無表情なお人形に過ぎない。
レッドフォード王子には、バーブラが血がかよっている人間には思えなかった。
王子は思った。
──どうやらこの娘は顔だけが良くて中身がない。
女の子らしい特有の可愛らしさもなければ、愛嬌もユーモアも、優しさも朗らかさもない。
何より相手への配慮というものが一切ない。傲慢な娘だと。
茶会など一時間も必要ない、
五分で終わればよろし。
ああ、今日も欠伸がでそうだよ。
ああ、なんて退屈なんだろう。
こうして幼い王子の初恋のトキメキなど冬の北風のように一瞬にして消え去った。
※ ※
それでもレッドフォード王子もお年頃になって、バーブラに対し、大人になれば少しは冷え込んでる関係が、変わるかもと。
自分から何度か彼女に歩み寄ろうと努力をした。
だが結果は変わらず。
相変わらず会話は弾まないし、それどころか大人になるにつれて、バーブラの闇の部分が見えてきた。
そう、彼女には王族特有の狡猾さがあると、王子も気付き始めた。
※ ※
バーブラは公の場では、つねに穏やかな淑女の態度であったが、それは表面上だけだった。
王宮主催の茶会など、常に取り巻きの令嬢を従えて一番前を颯爽とした姿で登場するバーブラ。
さながらプリンセスか、聖女そのものだった。
しかし裏では聖女のような美貌で、周りの人間がゾッとする残酷な仕打ちを、平然と指示していたのだった。
それも己の手を使わず、自分の取り巻き令嬢に陰でやんわりと指示をする。
年を追うごとにレッドフォード王子はバーブラの悪事の噂を耳にしていく。




