5. マリリン・モンモン男爵令嬢て誰?
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「マリリンって……バーブラ君は正気か?」
「はい殿下、私はいたって正気ですわ!」
バーブラはまっすぐな眼で即答した。
王子はバーブラが突如、発した見知らぬ令嬢の名に戸惑う。
「おいおい、冗談ではないぞ。第一マリリン嬢なんて僕は知らない。この学園にいる娘なのか?」
「はい、この春から高等科一年に転入した、マリリン・モンモン嬢ですわ」
「転入生!──あ、モンモンは聞いたことがある。モンモン男爵家の令嬢か」
そうだ、モンモンという名は王子にも思い当たる節があった。
「確か、僕の護衛騎士たちがその令嬢をダジャレで話してたんだ」
「ダジャレですか?」
「ああ、確かあいつらが『あの転入した娘さあ、見るからにモンモンした腰をプリンプリンしていて名前通りのモンモン体型がいいねぇ!なんだか歩く度に唆るよなあ!』と噂してたグラマーな令嬢だろう」
王子は今度は護衛騎士のちゃらい真似をして戯けてみせた。
バーブラはまた王子が突然、護衛騎士のちゃらいモノマネをした為に目が点になった。
──おっと不味い、今日の僕は可笑しい!
さすがにレッドフォード王子もやりすぎたと気づき、コホンとわざとらしく咳払いをした。
襟を正したつもりのようだ。
だがバーブラは一瞬、王子のモノマネに目が点になったものの、いつもとは違う軟化した王子の態度に好感をもった。
「そうそう殿下、その通りなのですわ!」
「え?」
「グラマーなモンモン男爵令嬢様ですわよ。マリリン・モンモン!──彼女こそ貴方様の運命の女神なのです。この国を救う救世主になられる御方です!」
「は、モンモン男爵令嬢が国の救世主だと?」
さすがの王子も眉間をピキッとさせた。
「ちょっと待ってくれバーブラ、戯言はよせ!──いいかね。僕はこの国の王位継承者第一位だ。それを一介の男爵令嬢と結婚なんて、そもそもできるわけがない!」
「う、まぁ……さようですが⋯⋯」
「なんだかな、君がそこまで僕との婚約破棄を真剣に望んでいるとは思わなかったな、少々心外極まるね!」
「あ……あの……殿下……」
ピシャリとバーブラを制したレッドフォード王子は、さっきとは変わってすごく不機嫌になった。
顔つきもこわばり、妙に刺々しい態度である。
「殿下、実は……」
「あ、もうこんな時間だ。バーブラ、このバカバカしい話はこれで終わりにしよう。そろそろ秋の謝恩パーティーの議事録作りにとりかかろうか」
とレッドフォード王子はとりつくしまもないほど、バーバラと眼を合わさずに、黙々と書類を捲りだした。
「あ。はい殿下……」
バーブラも、殿下のそっけなさに諦めて無言で書類作りに取りかかリ始めた。
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時間は一時半たったろうか。二人は黙々と生徒会の業務に励んだ。
本来なら他にも生徒会役員は数名いるはずなのだが、今日はバーブラと二人きりだった。
実はこの状況はわざとである。
レッドフォード王子とバーブラは学年が違うため、同じ学院内でもなかなか会えない。
それを気遣ったのか、他の生徒会役員たちは時おりあえて突然『何々で急用ができました』
といって王子とバーブラを二人きりにしていた。
実はこのミエミエな役員たちの急用を、以前の王子だったら余計なお世話だと思ったであろう。
“氷の公女”といわれる冷たい許嫁と学園まで二人っきりなど、彼らのおせっかいは却って、ありがた迷惑以外なにものでもなかった。
だが最近のレッドフォード王子は、彼等が気を利かしてくれるのを逆に嬉しく感じていた。
それだけ王子は、最近のバーブラと二人っきりの時間は楽しくて、時が経つのも忘れるほどだった。
──やはり、彼女は変ったよ。
王子はふと書くペンを止めてバーブラを見つめた。
何より今までのバーブラなら、王子の目の前で赤面して『殿下、お願いです!』なんて懇願など決してしますまい。
それに、バーブラはさきほど“グラマー”と市井の下品な言葉を言ったが、本来なら“グラマー”の言葉の意味すら知らない女だ。
そもそもバーブラと、こんな忌憚のない会話など、これまで一度もなかったではないか。
レッドフォード王子は、過去のバーブラとの長い歳月を想起し始めた。




