2. 氷の公女・バーブラ
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──うん、なるほど。確かにアンリの言った通りだ。
バーブラは以前とはまるで別人だ。
レッドフォード王子は、バーブラ公爵令嬢を不思議そうに観察し続けた。
いま、王子がアンリといった男は、バーブラの実兄のアンリ・ストライド子爵のことだ。
アンリはストライド公爵家の嫡男で、ストライド公爵家は、代々国王の側近を輩出する名門中の名門だった。
このケラケラと笑い上戸のレッドフォード第一王子は、御年十八歳。
貴族高院の高等科三年生。
アンリは王子より二歳年上なので、既に貴族学院は卒業していた。現在は王子の補佐役として公務に勤しんでいる。
そして──。
バーブラ公爵令嬢はアンリの妹でかつ、レッドフォード王子の許嫁でもあった。
年は王子より二歳下の十六才。高等科一年だ。
レッドフォード王子は本校の最上級生で生徒会長を務めている。バーブラも一年生ながら生徒会の書記で王子のサポート役でもあった。
バーブラは公家という位の高さもあるが、本人も頭脳明晰、容姿端麗といわゆるパーフェクト・レディだった。
既に中等科の時から、バーブラは女子生徒たちからは羨望の眼差し、いや戦々恐々というべきか、とにかく周りから異様に怖がられていた。
なぜならバーブラは気位が高く性格もとてもきつかった。
その口調も常に高慢であり、自分に従わない令嬢がいるものなら、情け容赦なく、部下(取り巻き令嬢)たちに命じて嫌がらせをした。
学園の令嬢たちの嫌がらせなどたかがしれているが、それでも貴族令嬢たちはプライドを持っているので、些細ないじめは堪えるのだ。
たとえば、バケツの水を踊り場の階段からターゲットの令嬢にぶちまかすとか。
一人だけクラスの催しのサークルからわざと除外させたり等、あげれば些細なことばかり。
それでも虐められた令嬢たちにとっては学園に行きたくないと、退学するものまで現れた。
とはいえ、表舞台ではクールビューティーなバーブラ。
そんな裏の仮面は微塵もみせない。
氷の公女は滅多に笑わない。
笑う時も、ダチョウのふわふわ大きな扇で口を隠し、口角の端を少しあげて微笑むだけ。
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そんな氷の公女バーブラが、レッドフォード王子は、かつて一度もみたことがない醜態をさらしているのだ。
──ふ、これが面白がらずにいられようか……
とレッドフォード王子が笑い転げるのも頷ける。
いま、王子の目前にいる、おどおどした令嬢は本当にあのバーブラなのか?と。
レッドフォード王子は腕組みをしながら、バーブラの変化に驚嘆していた。
とはいえ王子にとって、挙動不審のバーブラ令嬢の方が、以前の氷の公女よりも
何倍も好ましい女に映っていたのだが。
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ここまでバーブラがガラリと変わったのには理由があった。
バーブラは先日、自宅で何もない場所ですっ転んで、床に頭を強く打ってしまった。
『わあ、バーブラ様が!こりゃあ大変だ、バーブラ様が転んだ!』
公爵家はたちまちてんやわんやの大騒ぎとなった。
その後バーブラは数日間も意識を失っていたが、ようやく目覚めた朝、バーブラはポカーンとした顔をして記憶喪失になっていた。




