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こんなはずではなかった!~悪役令嬢バーブラに転生した高齢者、梅子の運命はいかに!?  作者: 星野 満


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11/13

11. 異世界転生者・蔦屋梅子(つたや うめこ)

✧ ✧ ✧ ✧


 

 これまでレッドフォード王子の意識にあったバーブラと言えば、常に冷酷で無慈悲な人間だった。


 他の学園の令嬢たちからも畏敬より恐怖心で一目おかれていた。


 元々彼女は感情が乏しく、ほとんど笑わない。

 せいぜい扇で口を隠す微笑をするだけだ。


 まさに氷の公女である。

 


 而して頭部を強打してからバーブラは別人になった。


 そう、バーブラはバーブラではなかった!


 転倒した時、まったく()()()がバーブラに憑依(ひょうい)していたからだ。



※ ※ ※



 その女の正体は蔦屋(つたや)梅子(うめこ)

 異世界からきた日本人である

 

 出身は関西、京都生まれ。 

 御年七十歳。

 ついでに繰り下げ年金生活一年目。

 

 梅子の生涯をざっとおさらいすると──。

 

 父と母、兄一人の四人家族。

 

 平凡な家族構成に生まれて、すくすく育ち短大卒業後、二十歳でOLとなり、地元の職場の上司と二十六歳で結婚、一男一女を(もう)ける。

 

 その後、賃貸住宅から、都心から少し離れた建売住宅をローンで購入。

 

 平凡でも温かな家族と暮らし専業主婦を満喫していたが、突然梅子が四十歳の時に夫が急死する。


  その後はシングルマザーとして、六十五歳まで地元のデパート地下街で販売員を続け、子供たちを女手ひとつで大学までいかせた。


 現在は子供たちもそれぞれ結婚し、所帯を持ち独立している。


 梅子は住んでいた家を売却し、長男家族が住む近くのマンションを借りて一人暮らしを始めた。

 

 長男の娘が梅子になついていたので、長男夫妻が多忙の時は梅子が孫娘の世話をした。


 だが梅子も年には勝てず、半年前に背骨(せぼね)が折れて入院する。

 

 診断は圧迫骨折。

 老化による骨粗鬆症(こつそしょうしょう)だった。

 

 三ヶ月後、梅子は無事に退院したが背骨(せぼね)は曲がったままだった。


 ある朝、梅子は(つえ)をつきながら街を歩いてつまずき、その拍子に転倒して頭を強打した。

 

 そのまま意識不明となり救急車で運ばれる。





 梅子が目覚めると、そこは日本の病院ではなく見た事もない絢爛豪華(けんらんごうか)な部屋だった。

 

 天井には西洋の神々の絵画が、昔、海外旅行をした際、イタリアのフィレンツェの教会で見た、荘厳なる宗教画とよく似ていた。


 

 ──はあ、なんじゃ〜こりゃあああ?



 梅子は呆気(あっけ)に取られながらも、上体を起こして恐る恐る豪奢(ごうしや)な部屋の中を歩きまわった。


 フカフカのビロードの厚い絨毯。

 何だか足元がフワフワするわ!


 ピカピカと輝く鏡台に映る自分を見た梅子。


『あ、バーブラちゃん!』と叫ぶ。


 あれまああ、梅子は自分が良く知っている令嬢に転生したのだと瞬時に悟った。



 ──ここはもしかして、私の良く知っている異世界かい?


 なぜか不思議だが、梅子はすぐに分かった。

 

 なぜ梅子がここが()()()だと分かったのか?


 

 プラチナブロンドのシルバーグレーの世にも稀なツンとした美少女。


 そう、バーブラは梅子にとって、よく馴染のある女の子だったからだ。



※ ※



 『マリリンは聖女の微笑み』


 

 この異世界恋愛漫画は、若い女性を中心に瞬く間にヒットしていき、最近はアニメ化や劇場版が映画化もされた作品だった。


 愛読者(ファン)の間では『マリ笑み』の愛称で親しまれており、年配の梅子も孫娘とアニメや映画を見ている内に、ドハマリしてしまった。


『おばあちゃん、わたしより“マリ笑み”の推しだね!』

 と孫娘がニコニコ笑う。


 なにせ梅子のハマり具合はオタクばりに凄く、原作本やグッズまで購入して、何度となく読み返して主要キャラクターの名前も、アニメのセリフまで殆ど覚えてしまったから驚きだ。

 



 「マリ笑み」のあらすじはこうだ。


 聖女の魔力を持つヒロイン、男爵家の娘マリリン・モンモンが、王国の貴族学園に入学してレッドフォード王子に見初(みそ)められる。


 それ以降、王子の婚約者バーブラ令嬢たちから執拗にマリリンは(いじ)めにあいながらも、自らの聖女の魔力で危機を脱し、いつしか悪女バーブラを失墜させていく。

 

 最後はレッドフォード王子とマリリンが、めでたく結ばれ挙式で終るという、ハッピーエンドのお伽話だった。



 元々、梅子は異世界転生した当初は悪役令嬢のバーブラが、氷の公女と言われるほど美女だったので、美女が好きな梅子は、バーブラがお気にいりだった。


 だが、自身がバーブラと転生したからには、何とか彼女の悲惨な未来をどうにかして変えれないか?と梅子は考えた。


 その為のあらゆる行動と努力をした。


 だが転生したとはいえ、梅子の脳は七十代の高齢者である。

 デパ地下で六十五歳までひたすら遮二無二(しゃにむに)、働いてきた梅子。


 何より彼女は貴族ではなく、使用人の立ち位置で数十年も生きてきた庶民だ。

 おいそれとは貴族令嬢にはなれない。


 

 一応、接待という職業柄、敬語はできるものの公爵令嬢の所作やダンスはとても無理だった。


 よる年波には勝てない、とは良くいったもので、梅子は社交ダンスに(さじ)を投げた。

 また精神的側面で梅子を疲弊させたのは、貴族の社交界だった。

 

 上流階級の人々が互いの権威を誇示し合う、支配階級の魑魅魍魎の世界が梅子には、とんと馴染めなかった。


  実際、梅子が異世界を実体験して分かった事は、アニメや実写で外側から見ていた異世界と、現実に生きてる異世界とでは全く勝手が違ったのだ。


 まず質感が違う。吸い込む空気が違う。

 まさに二次元の平面的な感覚ではない。

 どっしりと構えた重厚な王宮殿。

 だだっ広い公爵邸。

 立っているだけで拷問のような重たいドレス等々。


 異世界は二十〜二十一世紀を生きてきた梅子にとって、異国の地であり、オペラのような舞台でもあり、ダイナミックで大袈裟で、ドラマチックな空間でもあった。



 

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― 新着の感想 ―
まさかのバーブラちゃんは梅子さん!! 梅子さん、色々大変だったんですね〜(ToT) 「マリ笑み」僕も一緒に見に行ってみたいです(*^^*)♪
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