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魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち  作者: 稿 累華
第17章:魔法が使えない魔導師─後編─

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320話:狩猟の再現

 イディオンは、空ではじまった戦いを目にしながら、ひとつの気配をさぐるようにした。


(……シェイラ)


 どこかにいるだろうか。


 まもなく、廃墟となったノザリエ城砦から感じ取れた。シェイラは今、スヴェリとともにいるはずだった。騎士団の本拠地はそこにある。{朧竜}を呼ぶのを阻止するために、向かっているのであろうと思えた。


(無理しないで)


 イディオンはまぶたを強く閉じると、振り払うように今一度空を見上げた。上空高くに、蒼い影が密集する。


 イディオンは見定めると、霧露(むろ)へと飛び立った。細雨が、頬にぶつかっていく。

 ()()()は、自分でなければ倒しきれない。



「──多いな」



 横に、{浮遊}したヴィクトルが現れた。聖剣を携えている。

 イディオンは怪訝に見やる。


「私と、勝負しないか?」


 ヴィクトルはにやりと笑って提案した。


「どちらが多く狩れるか。以前の狩猟では、満足に獲物を得られなかっただろう? 羽根のひとつでも持ち帰れば、きっと喜んでもらえるぞ?」


 もう五年近く前になる。イディオンの体がまだ小さかった頃。〈姑悪(もず)〉に襲われ、非力な自分がくやしくてたまらなかった頃。

 ヴィクトルは、言ってくれているのだ。


 やり直そう、と。


 イディオンは、ふっと息を吐いた。


(これだから、この男はきらいだ)


 余裕がある、いい男なのだ。年上の余裕で、イディオンは自分とどうしても比べてしまった。そんな自分が、懐かしく思う。

 不敵な笑みを返す。


「望むところだ」


 頭上には〈蒼鷹〉の群れ。五十はくだらないだろう。あいだには、〈雲虹〉も見える。


 イディオンとヴィクトル。

 どちらが多く狩れるか。


 先に動いたのは、ヴィクトルであった。くうを蹴ると、光輝をまとった聖剣を構えて、喊声をあげて群れに突っ込んでいく。


 イディオンは逆に離れた。

 {転移}をしながら、表象する。


 天高く上空から、鋭く尖った、かつて見た黒槍をいくつも(かたど)る。思い出した彼女の姿は、勇ましく美しかった。

 イディオンは、一言、つぶやく。


「──{顕現}」


 途端に驟雨のような槍が、降り注いだ。

 あいだをかがるように、ヴィクトルが走り抜ける。光の刃が、イディオンが打ち漏らした鷹や極彩色の頭を断じていく。風刃が、硬い腹を切り裂いていく。


 イディオンは、二撃、三撃とつづけた。

 ヴィクトルも、一刀、二刀と聖剣を振るった。

 背合わせに、言葉を交わす。


「なかなかだな」


 ヴィクトルの頬には、いくつか傷があった。〈蒼鷹〉の鋭い羽根で切りつけられたのだろう。離れていたイディオンも、いくつか喰らった。互いに細かい傷のみだ。


「老師たちは、あっという間に殲滅していた」

「数がちがうだろう」

「あれくらいの余裕がないと、シェイラはすごいって言ってくれない」

「なんだ? 見栄か?」


 ヴィクトルが呵々と笑う。


「べつに、そうじゃない」

 イディオンは、むっとする。


「ラータは、どんな時でもねぎらってくれるさ」


 ヴィクトルは〈雲虹〉を切りつけた。

 イディオンは、槍を落としながら、次の表象を練る。


「知っている」


 いらだち混じりに応える。

 イディオンの感情は、周囲の空気を氷結させた。雨粒が、雪や(ひょう)へと変わっていく。


「ずっと、一緒にいたから」


 ヴィクトルの返事を待つより前に、イディオンは頭のなかで描いたものを〈導脈〉で象る。


 煙雪が、雲を巻き込んで塵旋風(じんせんぷう)となった。蟲が巻き込まれていく。

 光の粉が一筋、ゆっくりと中央をねらう。白縹の閃光が上空から射す。巻き込んだ〈蒼鷹〉を、〈雲虹〉を、確実に仕留める光。


「{顕現}」


 ぱあんっ、という音とともに光が一柱、貫いた。

 眩しい光が消えると、細氷が舞う。周囲は、霧氷となって、腐ったあまいにおいさえ、閉じ込めた。


 ヴィクトルが呆気に取られて、イディオンを見上げる。

 イディオンは、はじめて、にかっと笑みを浮かべた。


「ぼくの勝ちだ」






 ヴィクトルは、聖剣の光で周囲の霧を{浄化}すると、イディオンとともに地上に戻った。歓声がふたりを迎える。王太子ふたりの戦いに、各国陣営が奮起したのがわかった。


(ほとんどがイディオン王太子の手柄だがな)


 ヴィクトルは苦笑しながら応じる。

 妬みはない。ただ、唖然としただけだ。ヴィクトルは目立つ{浄化}をしただけで、イディオンの圧勝だ。最初からして、ヴィクトルは、槍で損傷した獲物を討ち取ったにすぎず、とんでもなく戦いやすかった。


(逸材か)


 ガルバディアの声援を受けるイディオンを見る。

 肩から、力が抜けた。


(あとは頼んだ)


 シェイラの残影を振り払って、ヴィクトルは、思考を切り替える。ヒバリをさがす。姿が見当たらない。嫌な予感に刺し抜かれた気がした。


「ヒバリはどこだ?」


 ヴィクトルは、侍女のアマリアに声をかけた。

 アマリアは喫驚して、それからおろおろとする。


「あ、その、ヒバリさまは……」

「ヒバリはどこだ!」


 ヴィクトルは、アマリアの両肩をつかんだ。

 アマリアがびくっとして、ばつの悪そうな顔で答える。


「護衛のユベックと……」


 ヴィクトルは、返事を聞いた瞬間に身を翻した。

 周囲の霧は払ってある。しばらくは問題ない。イディオンや、オモノン老師たち、各国の精鋭もいる。


「すぐ戻る!」


 言い残すと、ヴィクトルは{転移}で消えた。

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