表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち  作者: 稿 累華
第17章:魔法が使えない魔導師─後編─

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

319/334

319話:戦いのはじまり

 ひばりは、ヴィクトルとイディオンが会話しているのを遠目に見ていた。


 強風が吹きつけてきて、寒い。着込んでいるが、北部の九月末は、こんなに冷えるのかと驚いた。

 ひばりはここで、聖女としての最大の役目を求められている。大任に、背筋が凍りつくような気持ちがして、後ろ背に逃げたくなった。


「──ヒバリさま」


 そっと、近くにいたユベックが、ひばりに囁いた。


「聖剣を取るべき時が来ました。この場から外れましょう」

「今……?」


 ひばりは、怪訝にユベックを見やった。


「はい。あなたさまが、元の世界に帰るために」

「でも……」


 この状況で、ひばりが帰って聖剣が失われれば、この世界の人々は困るのではないだろうか。


「今しかありません。あなたが行方をくらませば、必ずや殿下はあなたをさがしに来ます。その隙に聖剣を奪取さえすれば、異世界へ帰る門を開くことができます」


「そうかもしれないけど……」


 ひばりには、迷いが生じていた。

 ヴィクトルとシェイラがふたりで会っていたと聞いた時は、心が真っ暗闇に染まって、どうにかなってしまいそうだった。捨鉢(すてばち)になった。


 けれど、その夜、ヴィクトルが詫びに来てくれたら、少し、気持ちがやわらいだ。

 なぜか、ヴィクトルはそれからも、少しずつ以前と同じように話しに来てくれるようになっている。この数カ月のことだった。


 ──シェイラさんは?


 彼女のことは、もういいのだろうか。

 なにか、あったのだろうか。


 ふたりで、なにを話したのだろう。

 ヴィクトルはこの数ヶ月で表情がよくなった。同時に、おだやかさが顔を覗かせるようになった。


 ひばりは、気になってたまらなかった。

 同時に、ユベックとの関係がどうしようもなく後ろ暗くて、拭っても拭っても取れない黒泥のようで、ひばりを蝕んだ。


(……助けて)

 ──だれか、助けて。


 ひばりは、叫びたかった。ヴィクトルの手を、取りたかった。


(裏切ってるのに)


 自分の選択を、助けてほしくてたまらなかった。


「行きましょう、ヒバリさま。今なら、抜けられます。アマリアに言伝を」

「ユベック、わたし……」

「おはやく」


 ()き立てられるままに、ひばりはアマリアに言伝を残して、近くを見回りに行ってくることを告げた。聖女が周囲を見に行くことに不審さはなく、だれかに止められることもなかった。

 ひばりは、ユベックの{転移}に導かれるまま、軍団がひしめく地をあとにする他なかった。



〜*〜



 山の()より、陽が昇る気配があったが、煙雲の濃い空は、薄暗かった。次第に濛々と雨が降りはじめ、外気が急速に下がっていく。

 まもなくして、上空に影が広がりはじめた。一部から段々と空を覆っていく。


「〈浮塵子(うんか)〉だ……っ!」


 だれかが、そう叫んだのが、はじまりの合図となった。各国陣営が、指揮に従って飛翔しはじめる。陣営全体をまとめあげているのは、ヴェッセンダリア十二老師のうち、オモノン老師であった。紫電をまといながら、{強化}した激励の声は、かつて信じられた雷神のようであった。



「討ち滅ぼせー!」



 同時刻、大陸全土を〈魔導霧〉が覆った。


 サージェシアは霞衣(かい)をまとったようになった。恐慌に陥ったのは、王を失った国、防衛にかかりきりになった国、内戦に陥った国々。

 そうした各国に、ひらりと長外套をまとった影が降り立った。


 残る、老師たち。


「片づけてあげるね」


 言ったのは小人の魔導師エテルーネ・ファブロ。親指大ほどの大きさだった彼女は、またたきのうちに巨神もかくやという大きさになると、技術国に降下した。


「仕方ねえ」


 悪態をついたのは、{解析}の医療魔導師サルオン・ブルック。煙管(キセル)を吹くと、そこから都を覆うほどの歯車と腕が生えた山を生じさせ、祖国である医術国に下りた。


 {束縛}の魔導師ゾメタス老師は、オルトヴィア共和国に。

 工学の魔導師シア老師と、剛腕の魔導師セベスタ老師は、モルベンド獣国に。

 仮面の老師は、芸術の国フィシューユに、魔法薬の老師は、星ノ国アベルにそれぞれ助力しに行った。


 オルリア聖王国と、ガルバディア魔法王国はともに、残る王子や王女、貴族たちが前衛に出て、責務を果たす。


 老師たちのまとめ役である詩人の魔導師ワレリーノ・パレだけは、塔ノ都に残った。

 来たる可能性──{朧竜}に備える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ