表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち  作者: 稿 累華
第17章:魔法が使えない魔導師─後編─

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

314/334

314話:老師の依頼

 ガルバディアの月(ろくがつ)第二週、朝起きて来ないシェイラを、たまたま世話役の魔導師が発見した。サルオン老師に報告がいくと、塔に引っ立てられ、診察台に座らされ、こっぴどく怒られた。


「いつからだ」


 桃色の目が黒眼鏡越しにシェイラを睨んでくる。


「いつから、そうなった」

「……少し前からです」


 今は、ガルバディアの月だった。シェイラが突然の眠気に苛まれるようになったのは、ノザリアンナの月終わり。聖王国を訪問した時だ。


 最近、シェイラは朝起きられない。日課だった瞑想ができなくなった。気づけば九時近くまで眠っている時があり、はじめ、まったく目覚めなかった自分に愕然とした。

 段々と起きれなくなる、と忠告されたサルオンの言葉を思い出して、思っていたよりもはやく、その気配が訪れはじめていることに、焦燥が増していた。


「診せてみろ」


 サルオンは憮然と言うと、シェイラの体を横たえさせた。そのまま{解析}が行われる。しばらくすると、老師は無言でシェイラに起き上がるよう、指を上にくいっとやった。


「無理はしてないな」


 シェイラはこくんと肯く。〈命脈〉を酷使するような魔法は使わないというのは、シェイラ自身が自分に課した誓いだった。


 ──イディオンと約束を果たすまで生き延びる。


 そのためには無理をしない。


「だが、突然の眠気や、起きれなくなっている?」

「……はい」


 サルオンはシェイラの返事に黙り込んだ。腕と足を組み、シェイラに告げる。


「寿命は以前と変わらない」

「はい」

「だが、起きていられる時間は、思ったよりも少ないかもしれない」


 シェイラは、驚かなかった。なんとなく、そう感じていたからだ。


「……気付け薬をいただくことは可能ですか」

「お前、意味わかってんのか?」


 ぎろっとサルオンが強い眼光でシェイラを射抜いた。


「眠りは体が回復を欲しているからだと言ったな?」

「はい」

「無理やり起こすと体の負担になる。急な眠気だと、そもそも間に合わない場合もあるだろう。起きれない時はそもそも使えない。使える時は限られる。それでも要るのか?」

「間に合う時があれば、使いたいです」


 シェイラは、組紐の付いた手で胸元の青銀石をぎゅっと握る。


「使うとその分、反動がある。起きていられる時間も減り、場合によっては、永久に体が死ぬまで意識喪失だ。それでもか?」

「はい」


 シェイラが強い眼差しで返すと、サルオンは草頭を掻いた。


「……仕方ねえ」


 サルオンは立ち上がると、木製の試験管立てに入っていた細長い小瓶を取った。釣鐘蔦(つりがねつた)の意匠が施された小瓶は洒落ていた。


「使わないに越したことはねえぞ」


 サルオンは言って、シェイラの手に小瓶を転がした。縁がきちんと閉じている瓶は、横に転がしても中身がこぼれることはなかった。ケルヴァス(シカ)の角を主成分とした、柘榴茸(ザクロダケ)の甘味を含ませた液体は、つつじ色できれいだった。


 礼を言って、シェイラはそれを腰袋にしまう。

 サルオンは言う。


「……なるべく使うなよ」


 シェイラは頭を下げると、診察室をあとにした。





 潮を含んだ生ぬるい風が、塔のあいだを吹き抜ける。

 シェイラは、ガザンの塔に戻ると、いくつかやり取りしているイディオンからの手紙を開いた。何度も読み返した字を見つめる。もらった写生帳をめくった。できなくなった瞑想の代わりの、日課のようになっている。


「{通信}を使えばいいんじゃないっすか?」


 スヴェリはそう提案してくれたけれど、忙しいイディオンの時間を取りたくなかった。きっと、連絡を入れたらすぐに時間を取ってくれるとわかっていても、したくなかった。


 そうやって話してしまったら、再会の約束を果たせなくなってしまうかもしれない。

 漠然とした不安があるからだろう。


(イディさん……)


 ほんとうは、こわくてたまらない。

 こんなに、自分の死がこわくなることがあるなんて、思ったことがなかった。

 写生帳と手紙を抱え込みながら、シェイラは震える全身に言い聞かせる。


(生きます)


 絶対に、生きて会う。

 言葉を、交わす。


 震えが落ち着いてくると、シェイラは思い出したように作業をはじめた。(インク)翰筆(ペン)を用意し、書きはじめたばかりの魔導書を用意する。


 ──{朧竜}を破壊する魔法。


 シェイラは、この二ヶ月近く、その魔法を準備している。

 老師たちから、許可が出たのだ。



「驚くべきことではない」



 ロン……、と竪琴を鳴らしたのち、十二老師のまとめ役であるワレリーノ・パレ老師は、シェイラを〈中央書架ノ塔〉中央階に呼ぶと、そう告げた。十二角形の部屋には、同じく十二角の卓があり、シェイラはそのなかに立たされた。


 埋まっている席は、九席。死んだガザン、時間旅行中のドゥエルタ、そして、最上階にいるヴェッセンダス以外の全員が集まって、シェイラを見ていた。


「オモノンなぞも、霧や蟲が自然現象ではないことを突き止めていた」

「そうなのですか?」


 シェイラは驚いて、オモノン老師を見る。瞑目し、腕を組んでいた老師は軽く肯く。


「よもや、魔法で作られた竜の息だとは思わなんだがな」


 パレ老師は優雅に語る。


「魔女の騎士たちの企みを阻止する、まずこれが第一」

 ロン、と竪琴が爪弾かれる。


「阻止できた場合、拙らが竜を喚ぶ。これが第二」

 ロン、ロン、と音が鳴る。


「拙らが竜を喚んだあと、あるいは……」

 パレ老師は、半音下げた音を響かせた。


「騎士たちの企みを阻止できずに呼ばれた場合、竜本体を破壊すること。──これが第三」


 低い竪琴の音だった。


「それが、やることで合ってるね?」


 シェイラは、しっかりと首を縦に振った。


「シェイラータ、そなたが主動なさい」

「わたしが?」


 シェイラは、これには驚いた。準師でしかない自分が、老師たちも従えろということなのだろうか。


「そなたには思いがある。願いがある」


 パレ老師は、吟遊詩を謡うように竪琴を奏でる。


「強い思い、願い。それはなによりも、力を発揮する」


 シェイラは、老師の雅な声に後押しされる。


「シェイラータ、そなたの願いで導きなさい」


 パレ老師の言葉を思い出しながら、シェイラは翰筆に墨をつける。


 ──できるだろうか、自分に。


 自分に問いながら、すぐに、かぶりを振った。


(やります)


 ──騎士たちを阻止し、必ず、竜を倒す。


 青銀石をつかむと、シェイラは、澄んだ思考の海へと潜っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ