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魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【6/6完結予定】  作者: 稿 累華
第14章:敬愛する師

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276話:大魔導師と十二人の弟子たち(2)

「なにか思うところがあるのかい? ユベーヌ」

 サージェストの銀色が向けられる。


「敵を作って、どうするというんだ、サージェス」


 ユベーヌの問いに答えたのは、魔導師オルリアであった。


「わからないの、ユベーヌ。仮想の敵よ」


 紅い眼光が見据える。伸びた金の髪は、サージェストと揃いのようだった。


「人というのは愚かだわ。為政者たちを見なさい。自分たちの治める国の民が、飢えや貧しさに呻吟(しんぎん)し声をあげれば、それは隣の国が搾取するせいだと言う」

「…………」

「隣の国も同じ。自分たちが苦しいのは、他国のせいだと。そうして、戦争になって、互いが互いを削り、疲弊をしていくの。ほんとうに愚かでしようもないわ」


 真面目なオルリアは呆れたように言う。ユベーヌは否定しなかった。


「でもね、ひとつ。やり方はまちがっていないの」


 オルリアはつづける。


「敵がいるというのはわかりやすい。敵を倒さなければいけないという気持ちは、人を駆り立たせ、集団をまとめ、そのためにどうすればいいのか、考えるようになる」


「……オルリア、だが、それでは人に夢や希望は与えられない」


「だから、仮想の敵なのよ、ユベーヌ」


 紅い双眸は、熱を持っていた。常に落ち着いているオルリアが、この意見に強く心動かされているのは、あきらかであった。


「人同士が、互いに互いを敵と思えば、それは怒りとなり、憎しみとなり、呪いを生む。先生の夢は叶えられないわ。アンナに抱え込んでもらわなければいけなくなる」


 ちらっとユベーヌが、深々とラーベを被っている魔導師ノザリアンナを見た。

 彼女は、大陸の外から攻めてきた国との戦いで、代償として美しかった顔を失った。以来、皆にその顔を見せることはない。発言も減った。この場でも、ほとんど口を開かなかった。


「でも、仮想の敵なら、問題ないわ。仮想の敵を倒すことに国々が力を合わせれば、国同士の争いはなくなる。呪いは生まれなくなるのよ。そのうえ、どうやって倒せばよいのか、どんな魔法だったら倒すことができるのか、皆がきっと考えて、いろいろな魔法が生まれるようになるわ。先生のいう魔法があふれる世界が実現するの。素晴らしいと思わない?」


 熱弁し、紅潮するオルリアに、他の弟子たちも肯く。

 この場で、ユベーヌの懸念を理解するものは、他にノザリアンナしかいないようであった。


「そんな簡単なことではない、オルリア。呪いは簡単には、消えないものだ。君からも言ってくれないか、アンナ」


 ユベーヌは、臙脂色のラーベを被るノザリアンナのほうを見た。

 しばらくして返答がある。


「……わたしは、べつに異論はないわ。やってみればいいと思う」


 ユベーヌは、愕然とするしかなかった。


 それから、仮想の敵を作るという発想はより現実的な議論へとなっていった。

 自分たちが死したのちも残る敵がいい。皆で力を合わせれば、数千年とつづくものができるにちがいない。どんなものがいいか。人にとってわかりやすく脅威であると対策しやすい。


「異形であるといいかもしれない」


 これを言ったのは、寡黙な魔導師モルベンド。獣使い。


「出てくる時に、変なにおいがするのは、どうだあ? ほら、火事になると煙のにおいで、やべえってわかるだろ? においで警戒もできるしよお!」


 大きな声でうるさく発案したのは、魔導師テッペンス。目立ちたがり屋。


「先に煙が出て、異形が出現する。面白い発想だ。魔法らしい」


 弟子たちの案をサージェストが肯定する。


「煙だと美しくないから、霧にしましょう」


 鈴を転がすように提案したのは魔導師フィシェーユ。芸術を愛する彼女は美的感覚が優れていた。


「霧はどうやって出す?」


 サージェストの問いに、弟子たちは次々と案を出していく。


 吐息が霧になるのはどう? 魔法らしいわ。霧を吐く竜とか、幻想的よ。たしかに、神話には、神と竜との戦いがあるし、霧を吐く竜がいるというのはいい。竜を作りましょう。見えてしまったら皆怖がってしまうから、魔法で隠すのがいい。幻の竜。



 ──霧を吐く幻の竜なら、朧竜(ろうりゅう)、というのはどうだ?



 だれかが言った。提案した。

 名案だ。美しい。魔法のあふれる大陸に合った、素晴らしい仮想の敵だ。

 議論は止まらない。止まらなかった。


 サージェストと十二人の弟子たち、全員が全員、その大きな魔法を作り上げるのになにかを担った。


 サージェストは、根本となる大規模な魔法を発動させるための、太陽と月の魔力を注いだ。


 フィシェーユは、竜の外装の意匠。美しい竜を描く。

 テッペンスは、動力部分の魔術歯車(はぐるま)を技術化した。


 めんどくさがり屋のオルターヴが、{導線}と{自動}で永続的に動くように線を引いた。

 医療魔導師マイスリーは、損傷時の治療機構を内部に陣として描く。

 元素魔術を得意とするガルバーンは、魔力から霧への変換を。

 霧から異形への変化は、数人で協力して式を作り上げた。

 異形の元となる魔獣を捉え、{転写}したのは、獣使いのモルベンドの役割だった。


 {朧竜}は、そうして、おおよそが作り上げられたのであった。


 問題は、霧を発生させるための魔力の供給と、霧が発生しすぎてしまった時の抑制であった。供給源となる力がなければ、そもそも霧が発生しないし、あまりにも敵が増えてしまったら、人が死に絶えてしまう。どうするのがいいか。


「供給は問題ないだろう!」


 あはは、と軽快に笑いながら言ったのが、星詠みの魔導師アベルであった。


「〈導脈〉のある人間が死ぬと、大気中に魔力が粒子となって散布される。それを取り込めばいい! 神々の信仰によれば、土葬が一般的だけど、火葬にして骨を撒けば、よりもっと大気中の魔力は増えるだろう! そういう言説も撒いてしまえば問題ない!」


 あはは、とアベルは無邪気に笑った。そのまま、ずっと喋っていそうなのを、サージェストがやわらかく被せる。


「増えすぎてしまった時は、どうするんだい? 暴走して、人が多く死んでしまったら、私たちの目的は達成できなくなってしまう」


「先生、それには、案があります」


 手を挙げたのは、オルリアであった。



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