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魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【6/6完結予定】  作者: 稿 累華
第14章:敬愛する師

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277話:大魔導師と十二人の弟子たち(3)

「抑止力を作ればいいのです。霧が溜まってしまった時に、霧を浄化し、昇華させる魔法を構築しましょう」


 それを、福音を受けた魔法としましょう。


 人々は霧という脅威を払うものとして、その魔法を聖なるものだと受け入れるはず。


「おい、溜まった魔力を簡単に浄化できるか?」

 ガルバーンが煽るように訊く。


「代償を払えば、問題ないわ。そうよね、アンナ?」

 オルリアが、ノザリアンナを見る。


「あなたなら、抑止力の魔法を使うための代償魔術を描けるわね?」

「……ええ」


 ノザリアンナが、ひとつ肯く。


「エレンシア、あなたの精霊魔術、精霊召喚を見させてちょうだい。それを応用するわ」


 ここで、はじめて精霊女王エレンシアに話が振られた。エレンシアは、いささか飽いていた。あくびを噛み殺しながら肯定する。


「代わりに、(わたくし)にはなにをくれるかの?」


 弟子たちの目がエレンシアに集まった。非難をする目。師サージェストの願いを叶えるために、お前は見返りを求めるのか。そういう目であった。


「──君には、森をあげよう」


 サージェスト自身は、非難をしなかった。寛大にエレンシアの要求を受け入れた。


「前から、精霊たちが好む森があると言っていただろう? そこを君の拠点にするがいい」

(わたくし)は、霧とやらも好かぬ。我の森には、霧が入らぬようにしておくりゃ」


 霧によって描かれた異形は、エレンシアの好みではなかった。エレンシアが好みでないものは、精霊たちも好まない。譲れないことであった。


「いいわ、エレンシア」


 異を唱えようとするものがいるなかで、オルリアが許可を出した。


「その代わりに、あなたは〈眼〉を担って」

「ほう?」


 エレンシアは、虹色の瞳をオルリアに向ける。


「霧がいやなら、敏感でしょう? 大陸中に霧が溜まりそうになったら、その〈眼〉で捉えたものを合図として送るの。そうしたら、抑止力が発動するように仕組むわ。いい?」


 森人であり、精霊の祝福を受けるエレンシアが、長命であることを知ってのオルリアの提案であった。


 エレンシアは、ついっと口角を片方あげた。

「よかりゃ」


「じゃあ、ボクは、星を詠んで霧を詠み、大陸中に予言して、報せる役目を担うよ!」


 いっぱい人が死んだら本末転倒だからね。おしゃべり好きな星詠みアベルは言う。


「──師よ」


 ヴェッセンダスが、にわかに口を開いた。

 黒衣の賢者は、サージェストに問う。


「師の願いが、ほんとうに実現するのか、わからぬのではありませぬか」

「たしかに、そうだね。ヴェッセンダス」


 サージェストは、美しい青年の横顔に憂えをたたえる。フィシェーユが、その横顔にうっとりとした声をあげ、オルリアが、きっと睨みつける。


「魔法があふれる世界を実現するためには、記録が必要だ」


 サージェストは肯定する。


「もしかして、君には、案があるかい? ヴェッセンダス」

「ございます、師よ」


 ヴェッセンダスは朗々と告げる。


「我が、記録者となりましょう。ダリア島に塔を築き、そこで大陸の魔法を刻みます。我の思念を塔に結びつけ、そうして、魔法を記録する役目を担いましょう」


 そうして、智と書架の国ヴェッセンダリアができあがることになった。


 皆が役目を担う。

 最後、苦渋を浮かべつづけるユベーヌに、サージェストの労りの目が向けられた。


「君も協力してくれないか、ユベーヌ」


「……サージェス」


「親友である君には、ぜひとも私の願いを叶えるために、協力してほしいと思っている」


 弟子たちの瞳。サージェストの瞳。

 それらが注がれてもなお、ユベーヌは意見を翻さなかった。


「僕は……納得できない。争いがあってもなお、人は必ず、わかり合って話し合い、そうしていつか、素晴らしい魔法を生むはずなんだ。戦いのなかでは決して生まれない、希望に満ちた魔法が生まれるはずだ。僕はそれを……信じたい。願いたい」


「……そうか」


 サージェストは、ユベーヌのその意見を否定しなかった。

 黙って、考えてから、サージェストは口を開いた。


「わかった。親友を信じよう」


 納得したサージェストに、弟子たちの不満が向かった。せっかく考えたのに。いい案なのに。ユベーヌの願いは幻想だ。現実は、そんな甘いものではない。


「ただし、ユベーヌ」


 サージェストは、条件をつけた。


「もし今後、この大陸で大きな人同士の争いが起きるようなら、私は{朧竜}を起動する」

「…………」


「人同士の争いほど醜いものはない。人を傷つけるものはない。私は、それを看過できない」

「……そうだね」


「大きな争いが起きたら、{朧竜}が発動するようにする。条件式の魔導として、私は呪文を唱え、陣を描こう。それなら、いいね?」

「……わかった」


 ユベーヌは、肯く。

 親友であるサージェストが、意見を呑んでくれた。今度は、ユベーヌが譲歩する番であった。


「ユベーヌ、私は君が願うように、{朧竜}が発動しないことを祈るよ。だから、君も{朧竜}に、君の祈りを注いでくれないか?」

「……ああ」


「君の祈りが届くことを願っている」


 サージェストの言葉によって、描かれた{朧竜}は、北の大地──のちのノザリアンナ呪了国に眠ることになった。条件付きの〈大魔導〉として。


 弟子たちは、溜息をついたが、もとより熱しやすく冷めやすい弟子たちは、次第に皆で作り上げた〈大魔導〉のことを忘れていった。

 大陸を統一したサージェストの魔導帝国は数百年栄華を誇り、平和が訪れたが、サージェストが死すと瓦解し、分裂し、人々は争うようになった。そのなかには、まだ生きていた魔導師ガルバーンやオルリアらも含まれていた。


 勃発した魔導大戦。


 それが、条件式〈大魔導〉──永続魔導機構{朧竜}を発動させるとは知らずに。


 ガルバーンが、大地の魔導をして、呪了の国を青い炎で焼き払い、隔絶する山脈を築きあげると、{朧竜}は待っていたかのように咆哮をあげた。その口から〈魔導霧〉を吐き、大陸中を霧に包んだ。そうして、空に舞い上がると、召喚陣に似た門を開き、視認できぬ虚空へと旅立った。虚空にいながらも、〈魔導霧〉を吐きつづける永続魔導として、今なお、{朧竜}は機能しつづけることになった。


 ヴェッセンダスは、師との約束を忘れず、ダリア島に魔法を刻むための書架の魔導を築き上げ、役目を果たす機会がやってきたことに歓喜した。より、魔法のあふれる大陸となるように、ヴェッセンダリアが頂点となった組織を作り上げ、長い年月をかけ、魔導師を育成するための機関を整えた。



 エレンシアは、玉薔薇の褥で高笑いする。



「愚かよのう」


 謁見に来た女魔導師を思い出す。幻想を夢見るユベーヌと同じ目をしていた人間のことを。


(わたくし)たち、十二人の魔導師と、サージェスとで作った魔法が、破れるわけがなかろ?」


 エレンシアは、愉悦を味わう。


 手の平で、葉ダニや樹ノミが這い回っているのを見るのは、たまらなく愛おしく、滑稽で、致し方ないのだ。


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