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魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【6/6完結予定】  作者: 稿 累華
第13章:千六百年を生きる弟子

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256話:精霊女王国

 まもなく出口が近くなった頃、岩窟内の様相は際立って変化していった。


 壁面にまばらに見られたファル(せき)が増え、彩りを増していく。紅、橙、黄、碧、翠、紫が、濃淡ゆたかに階調を描き、呼応するように輝く。石と石が、光と光で言の葉を交わしているようであった。色彩は、シェイラたちの瞳も反射して、地の底から昇ってくるように、高揚させる。


 つづくのは、広大な空間に広がる六角柱状の晶石群(しょうせきぐん)。木々のように、下から根をはやし、天井に届いて、(はり)のようにいくつもの手を伸ばす。木漏れ陽から射し込むような光が、白磁や青磁の柱状晶石に澄んだ光を届ける。

 岩石迫持(アーチ)を進む下は、深くを流れる鉱脈水が七色に輝き、そのうえを棲み分けるように澄明な清水が流れていた。(こけ)()さえ輝いて、幌車の(わだち)を美しく彩る。


 いっとき、呼吸をするのを忘れるほどであった。いくつもの岩門を越えて、シェイラは思わず隣を歩むイディオンに声をかけた。


「イディさん……」


 イディオンも高く、広い空間を見上げている。


「こんなにきれいな場所があるんですね」

「ああ……」

「わたし、はじめて見たかもしれません」

「……ぼくもだ」


 感動が、ともにあった。

 まぶたの裏に写すようにしてから、道のりを進んだ。


「もうすぐだ」


 ホサルがそう言い、サリヤが舞い上がって踊る。子どもたちは顔を出して、大人たちも、たえ抜いた三日の終わりに、晴れやかな顔になった。


「出口だ……!」


 巌窟最後の隧道を抜けた先──清澄で濃い緑樹に包まれた風景が、エレンシア精霊女王国のはじまりとなった。


 視界全体に、青緑の原生林、狭間にひそく色の(もや)が忍んで、いささか雲海の様相を得る。突き抜けるようにして、大きく真っ白な岩の柱が島のように見えた。

 シェイラは岩窟を抜けた先の風景に言葉を忘れた。幻のような、絵物語に出てくる光景がつづいている。


「──あれは、〈魔導霧〉じゃないな」


 冷静に判じたのは、イディオンだった。

 一行が出てきた(いわや)から見下ろせるさまに、顎に手をやり、なにかを考えている。


「〈魔導霧〉じゃない?」

「ああ。あれは、ただの霧だな。見れば、わかる」


 イディオンが断言するのであれば、そうなのであろう。

 秀眉を寄せたのち、背後の越えてきた山脈と岩窟、もう一度樹林のほうを見る。


「ごめん、シェイラ。少し上を見てきても?」

「はい、もちろんです。あれがただの霧なのであれば、問題ありません。先に進んでいます」

「頼んだ」


 イディオンは言うと、上昇飛行していった。

 シェイラは、一団のほうを振り返って声をかける。


「では、ここをくだりましょう」





 イディオンは小一時間ほどしてから戻ってきた。ちょうど陽が傾き、野営の準備をしようとしているところだった。森に入る手前、まだ岩がごろごろとしている、なめらかな岩肌に野営地を取った。知らない森では、なにに出くわすのかわからない。それゆえの判断だった。

 そこにひょろっと銀髪の姿が下降してくる。


「おかえりなさいです。遅かったですね」


 シェイラが出迎えると、イディオンはなにかを担いだ状態でおむもろに返事をした。


「気になることがあって、山のほうと森のほうどちらも上空まで見てきた。おかげで、ちょうどいい獲物も見つけられた」


 イディオンはそう言って、背から、どすんと重みのあるものを下ろした。


「ひっ」


 シェイラは、素で変な声が出た。器用に足が縛られ血抜きがされているが、あきらかになにかの鳥だった。飛び退いてあとじさる。


「イディさん……」

「たぶん、キジだと思う」


「こりゃあ、たまげた!」


 喜んだのは、ホサルをはじめとした男衆たちだった。イディオンが持ってきたキジと思しき鳥に群がる。大きさが異様ではないだろうか。魔獣たちも驚くような巨大な紫のキジだ。どうやって飛んでいたのだろうか。


「おそらく桔梗キジだ……! 随分と昔に、絶滅したって聞いてたが、こっちじゃ生きてたのか!」


「……狩ったらまずかったか」

 ホサルの声に、イディオンがぼやく。


「これ、ほんとうに、そのなんとかキジ? 食べれるやつ?」


 覗き込んできたのは、サリヤだ。イディオンの横にずいっと頭を突き出す。未だに、諦められていないようで、平気で距離感を度外視してくる。豊満な体を押しつけるようにする。


 シェイラは、その時、砂岩(さがん)を呑み込んだ気分を覚えた。わずかに表情がこわばる。無意識に前に歩むと、ふたりのほうを見ないで言った。


「では、調べてみましょうか」


 シェイラのなかで、〈命脈〉の魔力が動く。今日はほとんど魔法を行使してないから、魔力には余剰がある。左の親指に通している触媒が反応する。隙間ある指輪(オープンリング)。藍色ファル石と蛋白石(オパール)の止まった銀の指輪が、医療魔導を発動させる。


 ──{解析}。


 かざした手を通して、シェイラの脳裏に立体走査が浮かび上がる。医療魔導師であり、十二老師のひとりサルオンから教わった魔導。死したキジの状態の分析を終えると、シェイラは冷然と結果を告げた。


「大丈夫です。食べられます。特に毒物などは見当たりませんでした」


 長靴の踵を翻す。


「シェイラ?」


「……わたしは、森のなかを少し見てきます。知らない獣がいるかもしれないので」


 イディオンに、背を向ける。そのまま、シェイラは夕闇に沈む樹林のなかに分け入っていった。

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