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魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【6/6完結予定】  作者: 稿 累華
第12章:線上の聖剣使い

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244話:聖都の深更(2)

 男が、ヴィクトルが吹き飛ばした先に告げる。


「……油断しただけです」


 よろよろとしながら、騎士の男が右腕を押さえて立ち上がった。ぼたっぼたっ、と赤いものが垂れる。ヴィクトルの風刃が切ったのだろう。腕を落としていてもおかしくない代物であったが、傷ですむのであれば、受け身を取ったのだとわかる。


 ヴィクトルは着地しながら、左右のふたりを見定めた。滾る金の魔力が、紅い眼光を輝かせる。



「目的はなんだ」



 星都でシェイラから聞いた話、星詠みの(ことば)が、思い起こされる。


「聞かれて、すぐに答える人間がいるのか?」


 隻眼の男が戦斧を背負って答える。ちらっと見える腕に傷が多くあった。〈蜻蛉(かげろう)〉と呼ばれる蟲から受けた傷を見つける。


(あの毒を受けて生き残ったか)


 サソリの尾を持つ〈蜻蛉〉の毒は、猛毒だ。かすっただけでも昏倒する。傷が残るほどであれば、すぐに死んでもおかしくはない。蟲との戦場を、くぐり抜けてきたものであるとわかる。

 ヴィクトルは、聖剣の柄を握り込む。


 寸暇、があった。


 戦斧が振り下ろされ、ヴィクトルは聖剣で受け流すようにする。横に重心を移動させ、間合いに入り、受け流した柄頭(つかがしら)で男の顎を狙う。

 背後に、騎士の男の気配を感じた。出血しているはずの男。両手剣の刃の気配。


 ヴィクトルは、反射のうちに、男たちの頭上に{転移}した。魔法を、練り上げる。

 小規模の光球。灼熱の突起を降らせる。


「ほう」


 隻眼の男が、調子のいい声で、後方に大きく跳ぶ。もうひとりの男も、ヴィクトルから広く距離を取っていた。

 空いている場に、着地する。


「さすが、聖剣使いさまだ」


「……お前たちの目的はなんだ」


 ヴィクトルは、腹の底から声を出す。視界の隅で、グスターがアウロラ枢機卿を拘束するのを捉える。


「さて、な。察しのよいお国の方々は、わかってるんじゃないか」

「……原理派と、貴族派をつないだのはお前たちの仕業か」


 原理派は、勢力をさらに拡大したい。そのための資金を得たい。

 貴族派は資金はあるが、発言力は弱い。もとより、家のなかで魔力の弱い──家を継がない者たちで構成されているため、およその人間は当主の教育をまともに受けていない。知恵の足りない発言では、力を持ち得ない。


 だが、資金だけ持て余している。

 その余った資金は、結局のところ、遊興費に充てられてることが多かったが、昨今、貴族派のなかには呪術に手を出すものがあとを絶たなかった。


 ──妬み、嫉み。


 第二子、第三子として生まれただけ。あるいは、〈導脈〉の魔力が弱かったことで、当主になれなかった者たち。家のための政略結婚として使われるのなら、まだいいほうだろう。婚姻も難しければ、オルリアでは修道師になるか、家の片隅に捨て置かれるしかない。


 そういう余り者たちが、貴族派となり、呪術に手を出している。

 ヴィクトルは、唇の端を噛む。


「──表面上の話だな」


 一方で、隻眼の男は、うっすらと笑う。

 ヴィクトルは、秀眉を寄せる。


「殿下っ!」


 グスターが声を上げた。ヴィクトルの横腹を、両手剣が薙ぎ払おうとする。

 そんなことはさせなかった。身を捩り、聖剣で、手負いの男に詰め寄る。


(殺しはしない)


 聞き出さねばならないことがある。

 ヴィクトルは、柄に力を込め、もう一振り、傷を負わせようとした。


 先に、耳のなかに叫び声が届いた。集中が、途切れる。聖剣の軌道が外れ、そうしてヴィクトルは振り返る。


 アウロラ枢機卿の体が、傾いだ。斜めに一閃。次の瞬間には、戦斧の重い唸る音とともに、頭部が吹き飛んだ。びしゃっ、という音。辺りに血と脳漿が散らばる。

 そこから応戦するのを、見た。



「グスターっ!」



 ヴィクトルは叫んだ。


 補佐官の男。優秀だ。護衛官としても動ける。問題ないはずだ。

 けれど、ヴィクトルの直感が、まずいと言っていた。蟲や魔獣との戦場を駆け抜けてきたヴィクトルだからこと感じられるものだった。


 魔法を、描く。

 ヴィクトルは、両手剣の男を相手にする。


 ロゼイユ家に使える{隠形}の魔術師もまた、グスターに加勢した。戦斧の男を相手にする。

 それでも、ヴィクトルの焦りは、消えなかった。


 まずい、という焦燥が。

 水、氷、炎、あるいは{束縛}。なんでもいい。


(足止めを……!)


 手負いの男を相手にしながらの魔法。わずかながらに、魔力を練り上げるのに遅れが、生じる。


 そのわずかのあいだに勝負がつく。


 戦斧の男が斧を振り回しながら、呪文を詠唱した。大地の魔術。震えとともに、石畳を突き抜けるようにして、何本もの石柱が出現する。

 ヴィクトルが描く魔法陣。そこから生じる紅炎が、男の右肩を貫くのと、石柱が、グスターたちの体を貫くのは同時だった。


「く……っ」


 戦斧の男がヴィクトルを見て振り返る。{転移}の光が生じる。後背に、両手剣の騎士もまた消えていく。



「待てっ!!」



 そうして、消えた臙脂色の長外套をつかむことは、叶わなかった。

 あとには、ヴィクトルだけが、残されていた。



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