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魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【6/6完結予定】  作者: 稿 累華
第12章:線上の聖剣使い

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240話:聖堂教会の動き

「──原理派の動きとは?」


 ヴィクトルは棚から薬水瓶(ポーション)を取り出した。硝子棚の常備薬となっている瓶を呷ると、アメリ草と鬱金(うこん)羊歯(しだ)蘇枋(すおう)()の混ざった味が、喉をすうっとさせる。痛みが、潮が引いていくように緩和していく。


 ベイドルは、ヴィクトルが戻ってくると、返答した。


「貴族派とつながりを持とうとしています」

「さらに勢力を伸ばそうと画策か」

「おそらくは」

「目的は金か」

「言うに及ばず」


 ヴィクトルは、こめかみを両手で押さえる。


 聖女主義を掲げる原理派の根本は、オルリア聖教の教会組織だ。この七、八年で聖女人気から喜捨金を多く集めるが、以前と比べて斜陽となった教会が幅を利かせるための資金には、余裕がない。金を持つ貴族派に、原理派がすり寄るのは、最もな行動であった。


「このような時宜(じぎ)に勢力を伸ばすことしか頭が働かないのか」

「厄災後をねらっているのでしょう。聖女さまと殿下が霧を払えば、また教会の勢いを取り戻せると夢見ている」

「時代は変わった」

「過去の栄光を忘れられぬのです」


「……愚かなことだ。過去に追いすがる憐憫さに同情の余地はない」


 ヴィクトル自身もまた、そうだ。

 幸福だった頃は、もう戻ってくることはない。


「……加えて、きな臭い話もございます」


 ベイドル・ロゼイユは、ヴィクトルに滲む苦渋には気づかぬふりをして、つづける。


「教会内の一部に、魔女の騎士とのつながりが」

「──真実か?」


 驚愕して、ヴィクトルはベイドルを見た。

 紫紺の大貴族は表情を変えず、答える。


「折しも、シェイラータからの依頼と、殿下から命じられていた調査を行っていた際に、偶然、出くわしたのでございます」


 シェイラからの依頼は、オルリア聖王国内の呪術事件に関する調査や、学園や学院における子どもたちの不審死に関する報告事案についてだった。

 星都大陸会議にて約束したことを調査していたのがベイドル、まとめあげていたのが補佐官であるグスターであった。先日も報告書をシェイラに{転送}したばかりだった。

 ヴィクトルから命じている調査は、原理派の動き、加えて私的な頼みで動いてもらっている。


 ──呪術の無効化ないし、反転。あるいは強力な上書きについて。


 シェイラの、寿命を取り戻す、あるいは延命するための調査を、ヴィクトルはベイドルに命じていた。この男が、娘を想って、ひそかに調べつづけていたことに重ねるようにした頼みだった。

 それら依頼や調査に連なるような、原理派の動き、魔女の騎士とのつながり。

 ヴィクトルのなかで、星詠みの(うた)が思い起こされる。



 災いに備えよ

  聖剣を掲げ

  福音を寿げ


 されど忘るるな──

  魔女の集いを

  子らの声を

  賤しめらるる者の声を


 聞かずば光は滅び

  抑止の力は失われん



 ずきっ、と引いたはずの頭痛が、戻ってくるようであった。


「──その現場、押さえられるか?」


「すでに動いております」

「さすがだな」


 ふっとヴィクトルは笑う。だから、この男は懐刀と言われるのだ。

 けれど、次の瞬間にはヴィクトルは表情を変えた。さきほど、妹のメレドから聞いた話を、ベイドルに打ち明ける。


「こちらも悪い話を聞いた」

「王妃殿下でございますか」

「なぜわかる」


 ヴィクトルは苦笑する。


「妃殿下の奔放さに、貴族たちはよい顔をせぬので。聞いておきましょう」

「母上だけではない。……ヒバリもだ」

「聖女さまが……?」


 ベイドルの表情が変わる。無表情が、不穏を浮かべた。


「母上の、いつもの妙な集まりに、ヒバリも最近、参加しているそうだ」

「あの、〈貴婦人たちの集い〉でございますか?」

「そうだ」


 ヴィクトルは、苦虫を噛み締める。頭の痛みと肩に感じる重み、そして自責の念が、口のなかに蠢くようであった。


「……殿下」


 ベイドルが、わずかながら、ためらいを載せながら口にする。


「……今からでも遅くはございません。聖女さまとの関係を戻せませぬか」


 この男が、シェイラの父としてでなく、大貴族のロゼイユ家当主として意見しているのはわかっている。

 だが、ヴィクトルは首を振る。今の事態を招いたのが、自分の選択であったとしても、譲れぬことであった。



「できない。私は、しない」



 無意識に懐に手が入った。そこにある、金の環にふれる。自分に、誓ったのだ。


「ラータを助ける。……それを成し得ないかぎり、私はヒバリと必要以上の接触はしない」


 もう四年も経とうとしている。残り時間が、あまりにも少ない。


「たとえ、今の私の振る舞いがなにを生もうとも、私自身がすべてを引き受ける」

「…………」

「だから、決して、意志を変えるつもりはない」

「……わかりました」


 ベイドルは、それ以上、なにも言わなかった。

 かつて聖女を蔑ろにするなと言った男は、今ではシェイラの事情を知ったヴィクトルの選択を尊重してくれている。それも、この男の存在に救われている一面であった。


「これ以上、悪化しないよう動いて参りましょう」

「恩に着る」

「現場を押さえられそうであれば、どうしますか?」

「私が直接出向く」


 ヴィクトルは、紅い眼に鋭い光を宿す。



「これ以上、好きにはさせない」

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