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魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【6/6完結予定】  作者: 稿 累華
第11章:狙われる娘

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226話:年上の言い訳

「わたしが、ですか……?」


 シェイラは目を見開く。表情も、感情も、あの頃から俯瞰できるようになっていたはずなのに、そんな顔をしていたのだろうか。


「ふつうの人だったら気づいたかわかりませんが、私はほら……」


 ターニャ師は悪戯っぽく笑う。


()()()()()()()()()()()ところがありましたから。だから、シェイラ師の表情をそう読み取ったのかもしれません」


「……わかりません」


 シェイラは、ぽつっと返す。準師という仮面を忘れて、食を囲う、ただのシェイラが覗く。


「わたしは、自分が寂しさを感じているのか、わかりません……」


 シェイラの返答に、ターニャは橙色の目を(みは)った。

 それから、やはり姉のような空気で言葉が発せられる。少しだけ、笑っている声だった。


「でも、シェイラ師、あの時より、さっきのほうがよっぽど寂しそうな顔をしてましたよ?」


「え?」


「イディオン導師と別れる間際。ものすごく寂しそうでした」


 ターニャの指摘に、シェイラは、言葉を忘れる。


「お付き合い、しているんですか? なんだか喧嘩されていたみたいですけど」


「い、いえ、そ、そんな……」


 シェイラは、動揺した。

 ターニャのにやっとした、ちょっと含みのある笑みに、余計に動揺が大きくなった。



「そんなんじゃ、ないです」



 否定する。

 いつもそうだ。フェノアに言われた時も、すぐにちがうと言ってきた。


 だって、ちがうのだ。自分とイディオンは、そんな関係ではないのだ。



 ──そんな、移ろってしまう関係ではない。



「か、彼は……」


 なぜだか、耳に熱が集まってきた。首筋に掻痒感も覚える。うろたえる。


「わたしの……わたしにとって……」

(特別な子)


 いや、ちがう。もう、子どもではない。それはイディオンに失礼だ。


 ──助手。

 モルリオールではそう言った。助手。それがちょうどよいと思った。


(でも……)


 助手とも言えない。対等だ。シェイラとイディオンは対等だ。ふたりできちんと調査をした。ヤルチェを助けた。フィシェーユでは三王からの協力も得られた。それはイディオンがいてくれたからだ。助手なんて、彼に失礼なのだ。


 さんざん悩んだ結果、シェイラはイディオンとの関係をなんと言ったらよいのか、わからなかった。わからなくなった。


(お付き合い……)


 もう一度、その言葉が浮かび上がる。首を振る。断じてちがう、という言葉が出てきた。


「年下ですし……」

「年下?」


 シェイラはぽつりと言う。言ったと同時に、しまった、と思った。

 対等だと思ったそばから、年齢による差別をしてしまった。シェイラのなかで、罪悪感と後悔がもたげる。


「シェイラ師、そんなことを気にしてたんですか?」


 呆気に取られたのは、ターニャのほうだった。ぽかんとしてから、たえきれなくなったように笑い出す。


「年齢なんて関係ないですよ!」


「え、あの、ちがくて……」


 なにか、勘ちがいされている気がする。シェイラの顔は赤くなる。{修復}が効いていない。さっきから効果が出ていない。だから、こんなに赤くなったりするのだ。


「だって、私の夫になる人も年下ですし」

「ええっ?」


 シェイラはそれを聞いてびっくりした。目をぱちぱちとさせる。


「同期なんですけど、彼優秀で、飛び級をしてきたから、年下なんです」

「そ、そうなんですか」

「シェイラ師も飛び級されたんですよね? だから、それと同じです」

「…………」

「でも、同期で、一緒で、同じ目線で、隣にいてくれます。そうしたらもう、年下なんか関係ないですよね?」


 ターニャの声が、すっとシェイラの洞に入ってくる。


「そうやって、言いわけしたいんですよね。年下に負けてられるかって。そうしないと、頼りすぎちゃいそうで」

「…………」

「ほんとうは全然そんなふうに思っていないのに、年齢ってつい言いわけしやすいですから」


 ターニャはつづける。


「シェイラ師の気持ち、とてもわかりますよ。私も、大学府にいる時はそんな感じでしたから」


 一緒です、と笑う言葉が、沁みるように入り込んでくる。


 シェイラは、ふっとつかえが取れるような心地がした。

 言おう言おうと思っていた言葉が大きかったのではなく、通ろうとしていた隧道(すいどう)のほうが狭かったのだ。ゆっくりと広がっていく気がする。


「……そう、なのでしょうか」

「そうですよ!」

「言いわけに……してただけでしょうか」

「そうです、絶対そう!」


 ターニャは言い切る。


「……謝ったら許してもらえるでしょうか」


 だんっ、と音がした。ターニャが麦酒を勢いよく呑んで、杯を置いた卓が揺れる。


「大丈夫です! 許してもらえます!」


 ターニャは断言する。それから、ふにゃりと、またお姉さんのように笑った。


「シェイラ師、そんなかわいいところあったんですね」


 シェイラはきょとんとする。


「おとなびて、なんでも知っているからすごい人だと思ってたんですが、ちゃんと女の子だったなんて」

「……どういうことです?」


 シェイラが首をかしげて聞こうとしたところで、揺れる耳飾りに反応があった。瑠璃の耳飾りに、辿り着く魔術の気配を感じる。音を、拾う。



 ──イディオンからの、{通信}だ。



《ごめん、シェイラ。──緊急だ》


「どうしましたか?」


 瞬間で、頭が切り替わる。


《リヨン・ペリメルの気配が消えた》


「え?」


《忽然と消えた》


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